馬車郎の私邸

漫画、アニメ、ゲーム、音楽、将棋、プロレス観戦記など「趣味に係るエッセイ・感想・レビュー記事」をお届けします!ある市場関係者のWeb上の私邸

【ノア観戦記】「自由と信念」が息づく「​明るく、楽しく、激しいプロレス」が令和に蘇った日:CyberFight Festival 2021/6/6

「 ​明るく、楽しく、激しいプロレス」。6/6開催の「CyberFight Festival 2021|サイバーファイトフェスティバル2021」は、かつての全日本プロレスのキャッチコピーを彷彿とさせる興行だったように感じた。DDT主導の大会である印象はあったものの、NOAHのなかにもDDTはあり、DDTのなかにもNOAHがあったように見えた。「自由と信念」のもと、生き生きと大会を彩ったのは、特にDDTの選手たちだった。とはいえ、NOAHの選手たちがDDTに対応した点は見逃せないポイントだ。

 

ダークマッチのバトルロイヤルでは、ファンキー勢、特に井上雅央は違和感はない。得意のダンスに興じる平田一喜をスイクルデスで一刀両断した齋藤彰俊の怖さ、ヨネの打撃とアフロ、谷口のかつてのパートナー火野裕士との邂逅と他レスラーをちぎっては投げの意地の張り合いは一定の存在感を残した。

 

杉浦と桜庭、ササダンゴとディーノのタッグマッチは、ササダンゴマシンがプレゼンでSDGsの概念を体よく盛り込んだように、NOAHがDDTの領域に踏み込み、多様性を見せた。パンストを被せられても全く動じずにオリンピック予選スラムを見舞った杉浦、常盤貴子の写真集にまんまとおびき寄せられる桜庭の様子はたしかに滑稽で愉快だった。

一方で、杉浦・桜庭の間合いに入り込めず、男色ディーノがお得意の男色殺法をほぼ繰り出せなかったのは想定外だ。とはいえ、NOAHは10数年前に試合で絡んだこともありディーノに無縁ではない。試合後のマイクで「しょっぱい試合してすみません!」と、杉浦がS・S・マシンのネタを盛り込むあたり、プロレスのパロディとしての愉快で楽しい試合となった。下記の試合後のコメントはまさにそのとおりと感じる。

ササダンゴ「杉浦軍は、ノアは大きかった。でも、わかんない。ホントに真っ向から価値観が真逆なんじゃなくて、わかんない。違うこともない部分が自分たちの中にもちっちゃくワンポイントがあって、ノアの中にもちっちゃくDDTっぽいってことがある。そういうとこかな。」
ディーノ 「ま、ひょっとしたらDDTとノアはほんの少し隣なだけかもしれないね。」

 

拳王率いる金剛と高木三四郎率いるDDT軍の12人タッグマッチでは、ちょっとだけ互いを認めあう部分が示された。週刊プロレス上のコラムとSNS上の舌戦が話題になったが、拳王という選手は、NOAHファンの総論の代弁者ではなく、多数派ではないが一部において予想されるであろうファンの声を先回りして、あえて代弁する傾向がある。

高木大社長は、エゲツない内出血ができるほど、拳王の張り手と気持ちを受け止めた。男気を見せた。拳王はドラマティックドリーム号を奪取して騎乗(もっとも、大社長を轢いたあとは徹底的に破壊したが)、DDTの領域に踏み込んだ(みちのくプロレス出身の拳王が対応できないはずもない)。小さな歩み寄りだ。

 

ハイライトは、グロッキー状態の高木大社長が覇王をなんとかシットダウン式ひまわりボムに抑え込むなか、坂口選手とヨシヒコ選手が合体式スリーパーホールドで救援に入ろうとする拳王を捕獲したシーンだ。これほど強烈な絵面を私は見たことがない。

 

熱い打撃の応酬から、NOAHの試合に十分対応できる選手もDDTはたくさんいるようだ。この試合は始まりに過ぎない。NOAHの選手が時折DDTに顔を出してもいいし、DDTの選手がNOAHのリーグ戦やビッグマッチに顔を出してもいい。試合後の坂口選手の懐の深いコメントは印象的だ。

 

 坂口 「いいんじゃない。この間の会見で言った通り、同じグループかもしれないけど、一つ一つの畑が違う。俺らはDDTっていう畑を耕して成長させて見に来てくれたお客さんを満足させる。拳王、お前らもノアを耕して成長させてお客さんを満足させる。それでいいと思う。お互い切磋琢磨して上に上がっていく。俺はそういう感覚。DDTはDDT。お前らはお前ら。でも言っとく。たまに刺激が足りなくなったら顔出せばいいんだよ。ヨシヒコ先輩が待ってるから。」

 

さて、若手たちはどうか。大会の試合の序盤では、NOAHの選手が打撃や体の分厚さといったフィジカルな部分でDDTの若手に優位性を見せた。しかしながら、東京女子・ガンプロ含め「​明るく、楽しく、激しいプロレス」の試合が多数提供された中で、清宮選手は「悩めるプロレス」を見せてしまった。

スランプにはあまり見えなかったが、追い込んでおきながら、敗北を喫したのは不甲斐ないと言わざるを得ないだろう。また、フォールを取られたあとでヘラヘラと退場するのはどうにもよくない(『有田と週刊プロレスと』が指摘するように長州力もそうしたケースはあったが…)。たしかに、悩むのも人生だ。清宮選手は今後の言動と試合でファンに悩みの先にあるものを見せる義務がある。

 

スポーツ競技と格闘技としてのプロレス、すなわち「激しいプロレス」では3大タイトルマッチはどれも熱いものだった。

 

東京女子のプリンセス・オブ・プリンセス選手権試合(山下実優VS坂崎ユカ 16分36秒 クラッシュ・ラビットヒート→片エビ固め、※第9代王者が初防衛に成功)では、ハードヒットな打撃が飛び交う激しさが印象的だった。

私は一度だけスターダムを見に行ったが、あまりに女子プロレスには馴染みがない。しかし、女子プロレスの華やかさは独特な魅力がある一方、正調の堂々とした選手権試合の激しい試合の魅力は、決して男子に劣るものではないと再確認できたのは収穫だった。

 

KO-D無差別級選手権試合(秋山準VS HARASHIMA 18分53秒 フロント・ネックロック→レフェリーストップ 第76代王者が3度目の防衛に成功)は、私にとってはどちらも馴染み深い選手同士の対決だった。HARASHIMAはさすがで、リストクラッチ式エクスプロイダーのフォールを2回も返したのは驚愕しか言いようがない。

だが、HARASHIMAの攻撃を全て受け止めたうえで、きっちりフロントネックロックで仕留めた秋山の技量には脱帽だ。ディーノ戦も驚きだったが、王道がDDTのなかに息づいている選手権試合にこれからも目が話せない。この日の私的ベストバウトだった。

 

GHCヘビー級選手権試合(武藤敬司VS丸藤正道 23分30秒 虎王・零→体固め、※第34代王者が3度目の防衛に失敗、丸藤が第35代王者となる)は、丸藤選手が武藤選手の大ファンであるからこその試合になったと思える。

シャイニングウィザードの連発で、粘る丸藤選手を追い込んだ武藤選手が決め手を欠いて、禁断のムーンサルトプレス敢行に行き着いたのはやむを得ない。フランケンシュタイナーは流れの中で出す技だし、腕ひしぎやドラスク→足4の字にいける間合いでもなく、すでに連発しているシャイニングウィザードを更に連発するのは引き算のプロレスにそぐわない。だが、そのおかげで二度と見られないはずのものをファンは見ることができた。
トラースキックと各種の虎王を凄まじいコンボで見舞い、久々のGHCヘビー戴冠となった丸藤選手は見事だが、負けても魅せる武藤敬司から漂う色気が、存在感と話題性で印象としてどうしても残るのは仕方ないだろう。ここからは、この価値あるベルトでどのような防衛ロードを歩むかが正念場だ。

 

 3王者揃い踏みの集合写真は、秋山がヨシヒコ選手と戯れている映像があまりにも衝撃的すぎた(良い意味で)。馬場全日本の系譜を汲むNOAHに、武藤全日本~WRESTLE-1、秋山全日本が合流して、そこに自主独立のDDT・東京女子・ガンプロも加わる。しかも今のNOAHには、ブシロード体制以前の新日本プロレス、Uの系譜・総合格闘技、各種インディーの流れまでもが溶け込んでいる。まさに方舟だ。

総括してみると、Cyberfightは、試合ごとに濃淡は異なるが大会全体として「​明るく、楽しく、激しいプロレス」を示した大会と言えよう。選手やスタッフたちの「自由と信念」が息づき、努力が実った結果だ。これからの展開がより楽しみになった。

ABEMAの公式サイトはこちらから

(ABEMAプレミアムは2週間無料、解約も好きな時に可能)

CyberFight Festival 2021|サイバーファイトフェスティバル2021 3王者揃い踏み

CyberFight Festival 2021|サイバーファイトフェスティバル2021 3王者揃い踏み