馬車郎の私邸

漫画、アニメ、ゲーム、音楽、将棋、プロレス観戦記など「趣味に係るエッセイ・感想・レビュー記事」をお届けします!ある市場関係者のWeb上の私邸

三沢光晴「理想主義者」:13回忌の今日を契機に、読むべき3つの理由とは?:【プロレスファンの必読書】

三沢光晴「理想主義者」を13周忌の今日、紹介する理由は主に3つある。

プロレスにまつわる素朴な疑問に対する答えが満載

人生に対する指針、考え、対処法もたっぷり

死してなお、勇気と活力を与えてくれる

以上の3点から、今一度未読の方も既読の方も、
これからの人生のために、
読む価値ある1冊として紹介したい。

①プロレスにまつわる素朴な疑問に対する答えが満載

本書の最大の魅力は、プロレスにまつわる素朴な疑問に対する答えが、これでもかというくらいに多数書かれている点にある。まさに打てば響く、三沢光晴の試合のようだ。三沢光晴という稀代のレスラーが、技術的な解説を行うのだから、極めて貴重な証言と言えよう。しかも、高度な内容でありながら、説得力あるロジカルな解説をわかりやすく、懇切丁寧に書いている点にも特色がある。

「プロレスは真剣勝負か否か」、「ロープに振られた選手はなぜ、素直に戻ってくるのか」、「なぜレスラーは年に100試合以上もできるのか」といった率直な疑問から、トレーニング、受け身、精神的な駆け引き、関節技、タックル、エルボー、技の痛みや凄さ……テーマは多岐にわたる。しかし、心技体と喜怒哀楽のすべてが詰まった多角的な論題に対して、ことごとく的確な答えを放ってくるのだ。いかにプロレスの攻防が必然性と合理性に満ちたものか、目からウロコである。プロレスファンの"理論武装"のみならず、単純にプロレスを楽しむ役に立つため、一読をおすすめしたい。もちろん、上を目指したいプロレスラーにとっても極めて有益な本と言える。必ずヒントがあるだろう。

②人生に対する指針、考え、対処法もたっぷり

プロレスをあまりに知らない人にも読んでほしい理由は、人生に対する指針、考え、対処法が多数書かれている点にある。三沢光晴という人はレスラーとしてだけではなく、人としてもまさに大人物だ。厳しさと優しさ、視野の広さが同居した率直な指摘の数々は、人生を生きるうえで指針となるし、応用も効くだろう。名言も続出で、書き出しきれないほどだ。いくつかほんの一端を紹介するので、まずはこれだけでも味わってほしい。

「今の自分は、過去の自分よりも自身を持っていると確信を持って言えることが大切なだと思う」
「プロレスには危険ではない技などひとつもない」
「楽をして要領だけで成功できる世界などひとつも存在しない。幻想だけを追い求めていても、あとに残るのは虚しさと絶望だけではないか。成功とは、苦しみの積み重ねによって持たされる報酬であることを忘れてはならない。」

「信念だけでは成功できない難しさは、どんな業種にも当てはまるだろう。だが信念やこだわりを捨ててしまえば、個性の薄っぺらいものしか人々には提供できない。私が物事を貫きとおす信念にプラスして、その対極にある柔軟性をノアの選手に求める理由がわかってもらえただろうか」

「作り手の気持ちになれば、ほかの業種からもたくさんのことを学ぶことができる」

「気持ちを一旦リセットして次の戦いに臨むことも重要だと考えている」

「私は「がんばります」や「がんばったんですけど……」が聞きたいのではない。自身に満ちた顔で発せられる、「がんばりました」が聞きたいのだ。」

「悔いを残すほど悲しいものはない。チャレンジしてかりに失敗しても、笑って頭を掻いているくらいでいい。前向きな失敗は成功への過程なのだ。」

③死してなお、勇気と活力を与えてくれる

あれから13年。2009年6月13日、試合中の事故(私はこの言い方が好きではない。精神が肉体を凌駕してしまった結果なのだから)により他界した著者が残した最後のメッセージには耳を傾ける価値がある。プロレスを楽しむための最高の技術書にして娯楽書であると同時に、あなたの人生にも応用できる言葉が満載なのだから。しかも、値段600円程度の文庫本で手に入る。最高のコストパフォーマンスだ。三沢光晴は、死してなお、わたしたちに勇気と活力を与えてくれる。

三沢光晴「理想主義者」