【観戦記】プロレスリング・ノア3/29:無観客の後楽園は巌流島と化した―
お家がリングサイド。良いキャッチコピーだ。デジタル技術の発達で無観客の試合でも見たい人に届く。私が生まれた年のアントニオ猪木対マサ斎藤の巌流島決戦の時にはできなかったことだ。
不要不急の外出自粛要請で、3/8横浜文体は中止、うち4大選手権のみ3/29で後楽園で開催となったが、世情に鑑み無観客試合となった。↓ご覧のとおり、花見の名所である錦糸公園でさえ、花見を敢行している人はほぼ誰もいない状態だ。
Ninomy320@馬車で来た@Ninomy320
いつもは花見で賑わう錦糸公園。花見を堂々敢行する人はほぼおらず、通りがかる人と遊ぶ子供達が少し。霧に包まれたスカイツリー・ソラマチも営業停止。変わらないのは鳥さん達の鳴き声だけでした。以上、予約の都合で不要不急の外出でしたので現地… https://t.co/JrdL4dUYq8
2020/03/28 14:31:22
しかし、ピンチはチャンスでもある。前向きに考えれば、サイバーエージェントの傘下入り後、DDT UNIVERSEの加入を促す良いきっかけになったと見ることもできる。デジタル配信プラットフォームは収益基盤の上で重要だ。
無観客試合は会場の盛り上がりはない一方で、リング上の音や選手たちの息遣い・声が聞こえる利点がある。WWEではTVマッチはおなじみだが、日本のプロレスファンが慣れるきっかけとしては、"やむを得ない事態"なので、キャンペーン要らずである意味自然な導入になったかもしれない。
第1試合 GHCジュニア・ヘビー級タッグ選手権試合
HAYATA、YO-HEYvs鈴木鼓太郎、小峠篤司
HAYATAは肋骨の負傷が長引き、前哨戦ではボディへのエルボー→レフェリーストップという見慣れない事態に。鼓太郎、小峠はこの日も盤石の試合運びで、徹底的にHAYATAをいたぶる。YO-HEYもなんとか食い下がり、HAYATAとともに僅かな勝機を捉えて、渾身の得意技ラッシュ!タッグリーグ戦で連覇したこともある名タッグが、苦難を乗り越え待望のタッグチャンピオン返り咲きとなった。
○HAYATA、YO-HEYvs鈴木鼓太郎、×小峠篤司
22分34秒 へデック→片エビ固め
HAYATA&YO-HEY組が第39代選手権者となる。
第2試合 GHCナショナル選手権試合
田中稔vs杉浦貴
アラフィフとは思えない筋肉ムキムキバッキバッキの2人がナショナル選手権をかけて激突。試合は稔が飛びつき式の腕ひしぎ十字固めで奇襲。ペースの早い試合展開となった。全体的に、関節、打撃など短い間合いで引き締まった試合。稔の腕ひしぎと杉浦のアンクルホールドの応酬という見ごたえある攻防から、杉浦が堂々の勝利をもぎ取った。
稔もさすがのテクニックで十分に迫ったが、やや攻め疲れもあったか。プロレスリング・ノアがプロレスのみならず、プロレスリングの団体であるということを印象付けた。
×田中稔vs○杉浦貴
14分35秒 アンクルホールド→ギブアップ

本日は試合がない清宮の「思い出してください」、拳王「今回の無観客で、改めてありがたさを実感したよ。また、後楽園ホールに来てくれたら、俺たちは命をかけて闘うからな!」の演説は、こんなときだからこそ心に響いた。さらに、拳王は4/19後楽園に金剛新メンバー投入を宣言。我々ファンは、この上腕二頭筋から想像を巡らせるほかないが、一体何者だろうか……?
第3試合 GHCジュニアヘビー級選手権
原田大輔vs小川良成
小川の技術を画面で堪能できる、極上の午後のひととき。足攻めから腕攻めにシフトし、引き出しは無限。ただひたすらに原田の苦悶の呻き声がテレビの画面から響き渡るなか、小川はバックドロップ2連発、鉄柱攻撃、バックドロップ、片腕版キャメルクラッチで原田を追い込んでいく。
原田はなんとか大ダメージのなか、反撃に転じ、ボディエルボー連発、ニーアッパー連発から片山ジャーマン!しかし、小川は片山ジャーマンのフォールを返した。さらに2発目を原田は狙いに行くが、攻防のさなかフットスタンプを喰らいながらも、小川が華麗に丸込み!技アリの勝利!
しかし、試合中に盾にされたり色々あったせいか、鼓太郎がブルーデスティニーを小川に食らわせた!単なる挑戦表明か、それともスティンガー分裂か!とはいえ、純粋にこの2人のベルトを掛けての試合は見たいので楽しみだ!
×原田大輔vs小川良成○
26分39秒 エビ固め ※フットスタンプを切り返して
第41代選手権者・小川が初防衛に成功
第4試合 GHCヘビー級選手権
藤田和之vs潮崎豪
後楽園は巌流島と化した。静寂……無観客ならではのカメラマンのシャッター音しかない空間。中央に陣取る潮崎に、コーナーを背にした藤田。曇りなき眼差しで見つめ合う二人。無観客試合であることがかえって緊張に拍車をかけ、さながら巌流島の決闘の風情を漂わせる。凄まじい心理戦だ。15分が経過。
先に動いたのは藤田。だが、組合わず間合いを取りながら、にらみ合いは続く。無観客ならではの二人の世界。抜身の真剣を手にして対峙する剣豪のようだ。20分経過。
25分が経過し、さらに藤田がジワリと動き始める。うかつに手を出すわけにはいかなくなったのか、30分が経過。ジリっと藤田がまた動くも、組合わない。潮崎はなおも中央に陣取る。
仕掛けたのは藤田。俊敏なタックルを潮崎が切って首を抑えるが、そこから藤田が上に。グラウンドの展開。袈裟固めにロープエスケープすんなよ!と藤田。潮崎もあえてロープエスケープしない。35分経過。
馬乗りの体勢に移行、潮崎が粘りの末なんとか脱出。組み合いで藤田ががぶりの体勢になるも、潮崎がロープエスケープ。あたかも新弟子に対する"可愛がり"のような状態から抜け出した潮崎がヘッドロック、バックドロップ、藤田の蹴りは回避。
グラウンドでの濃厚接触から場外での打撃戦が続き、藤田が攻勢。鉄柵攻撃で40分が経過。アルコール消毒液を口に含んで、毒霧…じゃない、消毒攻撃!。更に無観客の席と後楽園ホールのバルコニーまで、場外での戦いは続く。潮崎は、かなり右肩を痛めた模様。
リング上ではボディスラムからの逆エビ固め。ブレーンバスターの攻防を経て、潮崎がダイビングショルダーアタック。チョップ連打するが、藤田が喰らいながら押し返し、張り手を連打。潮崎が強引に藤田の顔を持ち上げてチョップ乱打。50分経過。
カウンターのキチンシンクを食らった潮崎は、スリーパーホールド、ニーリフトの追撃を受ける。張り手から豪快パワーボム、パントキックも潮崎はフォールを返す。藤田のエルボー、張り手に潮崎もチョップ、ラリアットで応戦。
ラリアット相打ちから、藤田がジャーマン、潮崎がラリアット。藤田の飛びついてフランケンシュタイナー、潮崎がラリアット、リミットブレイクで藤田の後頭部を打ち付ける。潮崎がラリアット2発、藤田がカウンターのラリアット。再び打撃戦が始まり、潮崎がラリアット、さらにラリアット、ラリアット、ラリアットで強引に押し切って、57分47秒の苦しい戦いに終止符を打った。
映像は後から見ても同じ映像だ。しかし、何を見出すかは視聴者次第だ。リアルタイムでデジタルに見ることに付加価値をつけるには、リアルタイムで体感した人たちが様々な気持ちを共有することだ。ネット時代は集中力欠如の時代。なのに、ひたすら二人が対峙する姿に夢中になった。潮崎と藤田は無観客のなか二人の世界へと没頭して、互いを倒すためだけでなく、見えない誰かのために心、技、体、いずれにおいても意地を張り合った。今日は臨場感ある"二人の決闘"を覗き見した瞬間だった。

