馬車郎の私邸

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「老後2000万円」騒動で考える各人の反省と取るべき行動:①安倍首相・麻生財務大臣、与野党、金融庁編

金融庁の「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書」をめぐり、「老後2000万円騒動」が、かれこれ1ヶ月は続いている。以前、皮肉と期待を織り交ぜて「令和の仕切り直し」をと書いた。しかし、実際には現在の年金制度には弱点があるので見直しは遅かれ早かれ必須であるにもかかわらず、あまりに残念なすれ違いが起きている。公的年金、私的年金と税制の横断的な議論が必要だが、「老後2000万円」問題の落としどころは定まらず年金改革という重要な問題は、手続き論に質疑が集中してしまった。給付抑制論、タブー視されるなど年金改革の遅れに懸念 される事態だ。

しかし、だからこそ良識を持って冷静に考えるべきだ。すなわち、それぞれの立場でできることに集中することである。問題が起きたら、反省して、行動すればいいのだ。そのほうがやたらと騒ぎ立てて右往左往するより建設的だ。

そういうわけで、安倍首相と麻生財務大臣、与党・野党、金融庁、メディア(テレビ、新聞、ネット)、個人(現役世代、高齢者世代、10代)に分けて書こうと思う。今日はまず、安倍首相と麻生財務大臣、与党・野党、金融庁について述べる。

まずは、安倍首相と麻生財務大臣だ。内閣不信任案は否決されたわけだが、G20後、参院選後でいいから、この種の問題に真正面から取り組むことをはっきりと示すことだ。今年は5年に1度行われる公的年金の財政検証の年であるし、疲弊した制度の見直しは必要だ。もちろん、生活に関わる関心事であることは間違いがない。

安倍首相は、第1次政権のときに年金記録問題も一因に参院選に大敗したため、国政選挙の争点に年金問題を浮上させないことを常套手段にしている。たしかに、首相として4度目の参院選を控え、党総裁として参議院の議席を少しでも減らさないようにしようとするのは妥当だし、その気持はまあわかる。さらに、6/28・29のG20大阪サミットで米中首脳会談を取り持つという頭の痛い問題も差し迫り、当座は陳謝に留めるなどの動きを見ると、やはり目先は対応する余裕はないだろう。だが、いずれ正面切って向き合うべき問題であり、少なくともこの問題を端緒に、ファイティングポーズをとることくらいは参院選前に示す必要はありそうだ。

麻生太郎財務大臣の放言癖は今更驚くまでもないが、野党やメディアに対して売り言葉に買い言葉で燃料を投下し、騒ぎを大きくする傾向がある。元々富裕な人物であり、好感も持てる面も多々あるものの、「カップラーメン400円(ずいぶんとハイエンドなカップ麺だ、著名店のコラボ商品だろうか)」、「ほっけの煮付け(少なくとも一般的ではなかろう、美味しそうだけど)」発言など庶民感覚から遊離しており、年金などに関わる問題を扱うには配慮に欠ける面もある。ずっと二人三脚の同志ではあるが、在任は長く少なくとも違うポストへ配置換えはそろそろ考えていいのではないだろうか。

与党・野党は、国益と国民生活を優先に建設的な対話を進めるべきだ。野党は糾弾できる点を見つけて大喜びに見える。だが、小泉政権時代の「100年安心」のキャッチコピーを利用して論点をすり替え、いたずらに不安を煽り、政争の具にしているにすぎない。報告書を不受理とした麻生太郎財務大臣の対応など手続き論に立ち入るのは、各論の世界であり、大局を見失っている。蓮舫氏は恐るべき速読術をお持ちのようだが、おおざっくりな試算を意図的に抜き出して振り回すのは、結局のところ非生産的だ。発言や文章の切り取りから政局作りの疑似論点化という手法の繰り返しには、大多数の国民はうんざりしている。

与党は、選挙のためなら大局を見ずにひたすら騒ぎ立てているだけの野党を、うまくいなす必要がある。国対委員同士の連携(といっても立憲民主党の国対委員が辻元清美では会話にならなさそうだがが…)だけでなく、たとえば超党派のタスクフォースを立ち上げるなど、野党を巻き込み、責任をもたせる手段を検討すべきだ。真の論点は、老後の生活不安を助けることである("解消"ではない)。そもそも、公的年金だけで豊かな老後生活が支えられるはずもなく、自助努力の私的年金や非課税貯蓄制度と補完して考える必要がある。横断的な議論が求められるため、国会というメディア向けのパフォーマンスの場でまっとうな議論が望めないならば、しっかりと問題解決に向けた筋道を作る代替手段を考えるしかなかろう。それはやる価値があることだ。

金融庁は、穏当で常識的な指摘をしたにすぎない。前提はずいぶん荒っぽいものの、至らない点はある買ったかもしれないが、大筋では至極妥当な意見提示だろう。だが、選挙を控えるシーズンでは、”忖度"はしておくべきだったように思える。

アリストテレスは人を説得するためには、「エトス(信頼)」「パトス(共感)」「ロゴス(論理)」の3つの要素が重要であると言う。加えて、「クロノス(絶対的な時間、連続的で一直線上の時間、いわば時計の針が刻む量的な時間)」「カイロス(相対的な時間、1回限りの独自で質的な"時"、「大切な時、決定的な瞬間」)「トポス(場所、物理的な場所だけでなく、修辞論上の場所、すなわち何かを論じる際の基本的論述形式,あるいは論題を蓄えている場所)」にも目を向けるべきだった。つまり、参院選の予定はそもそも決まっているのだから、忖度は、こういう時こそする必要があった。

忖度は、今や政局化に利用されたワードとして色がついてしまった感があるが、上司との関係で仕事をスムーズに進めるには重要だ。この度の報告書は、年金制度改革や老後の資産形成などの重要な議論を進めるための一助になるはずだったが、タイミングは好ましくなかった。公的年金は現役世代から高齢世代への「仕送り方式」で成り立っており、少子高齢化が加速するなか、現在の年金受給者への給付の膨張を抑え、将来世代との格差を縮める改革は急務である。この大きな目的を達成するための忖度は、必要だ。

与党政治家の都合、切り取って揚げ足取りをどこかでしてやろうという野党やメディアのことをあらためて考えたうえで、官僚たちは業務に取り組むことを意識しなくてはならない。金融庁はNISA制度の恒久化なども見据えてやや前のめりになった面もあったように見受けられる。だが、こうしたことでめげずに、より良い制度改正に向け職務を果たすことを望みたい。年金と老後の生活は重大論点であり、内閣、与野党、各省庁を巻き込んだ仕組みで、前向きに進める必要がある。喫緊の大きな課題なのだから。

次回、後編はメディア(テレビ、新聞、ネット)、個人(現役世代、高齢者世代、10代)について、書く。今しばらくお待ちを。

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