馬車郎の私邸

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与野党とメディアが向かい合うべき真の論点は、"現役世代の所得と消費"だ

ERCAZYfU8AAVvis2019年10~12月期に実質国内総生産は前期比年率換算で6.3%減となった。これは、四半期成長率として過去10年で2番目に悪い。とりわけ、家計消費支出は10~12月期に年率換算で11.5%減少した。米中貿易摩擦の余波や恐るべき台風19号もあったとはいえ、駆け込みが以前程は大きくなかった割には落ち込みが酷い。もちろん、終わった10-12月がめちゃくちゃ悪いのは、そもそもわかりきっている。むしろハードルが低くなり、今年の10-12月期における前年同期比伸び率が高くなるのは歓迎だ。
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もちろん、消費増税が悪手なのは言うまでもないし、今更指摘する価値もない。消費増税に関してはどうせやるなら悪事は一気にやってしまえと大昔に書いているが、もう10%になってしまったのだから終わった話だ。問題は、さらなる増税をしなくてもすむように、財政支出をコントロールするか、制度設計を組み替えることである。

海外経済や政治情勢、天災や疫病はコントロールできない。しかし、ビジネスをうまくやりやすくすることや社会構造や制度の再設計、中間層や低所得者層の所得面の下支え、消費を喚起する方策を模索することはできる。政治は経済をすべて思いのままにはできないが、経済活動の邪魔をしないことや促進したい分野の手助けを担うことは可能だ。

目先的にも、経済・政治の観点から気にすべき点は、現役世代の所得・消費だろう。現役世代の可処分所得の情勢は足元で深刻である、厚生労働省の推計によれば、労働市場の逼迫にも関わらず、インフレ調整後の給与は12年から18年までに3.5%減となっている。消費を喚起する前に、可処分所得が増えなければ、消費が厳しい状況というのは構造的に変わらない。様々な問題の根幹はここにある。
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実のところ、見えにくい形で可処分所得の重石になってきたのは、2度の消費増税の前に社会保険料の上昇がある。この点は、「消費増税の裏で行われてきた見えざる増税のことも考えよう」の記事で書いたとおりだ。

2022年度にも医療・介護・年金を合わせた社会保険料率が初めて30%(労使合計)を超えるとの推計されているが、医療費の増勢に加えて、足元では介護保険の負担がさらに上がる見込みだ。主に大企業で働く会社員の介護保険料が4月から大幅に上がる。年収が高い人に多く払ってもらう仕組みが全面施行され、年1万円を超える負担増になる人が続出する模様である。

日経新聞の説明を借りると、介護保険を取り巻く現下の情勢はこうだ。介護保険料は原則、40歳以上のすべての人が負担する。サービス利用時の高齢者の自己負担は原則1割で、残りは国と自治体の支出と、保険料で半分ずつを賄う仕組みだ。企業で働く人の場合は、保険料は企業と折半の負担になる。介護保険の費用は高齢者が増えると膨らむうえに、1人あたりの費用も19年は17万円と15年に比べて7.7%増えた。手厚い介護が必要な高齢世代が多くなったためだ。18年度の介護費は10兆円と制度創設時の3倍になり、健康保険組合連合会に加盟する健保の保険料率は10年度と比べて3割上がった。

このように、消費税だけでなく、社会保険料もまた現役世代の所得と消費を蝕んでいる。現役世代の利害を代弁する政党は出ないものか思案に暮れているわけだが、所得と消費について施策を講じるには、財政支出、社会保障費とその仕組みのマネジメントが不可欠だ。あまりにも既存の高齢者にとって優位な状況が政治の不作為により引き伸ばされている。とはいえ、現役世代と高齢者世代をことさらに煽る気はない。

現役世代は明日の高齢者世代でもある。総務省統計局の推計によると、日本の人口は1億2641万7千人だ。現役世代に当たる15~64歳人口は 7544万人で、総人口の60%(59.67%)を占めている。反面、65歳以上人口は 3554万6千人で28%を占めている。国立社会保障・人口問題研究所によると、65歳以上の老年人口割合(高齢化率)は2065)年には38.4%へと上昇すると見込まれている。この上昇分には今の現役世代が含まれる。現役世代にとっても自分たちが高齢者になった際にも維持可能な制度設計は急務なのだ。

2022年には、人口のボリュームゾーンたる団塊世代が、75歳以上の後期高齢者と化す。時間の浪費ほど恐ろしいことはない。だから、意味のない質問意味のない質問と指摘して、意味のない謝罪をすることは虚しい茶番劇は通過した。だが、それでも予算委員会で予算を議論せず欠席を繰り返す野党も、揚げ足を取られ続ける与党も情けない。メディア野党べったりでも、与党べったりでもだめだ。病理から抜け出して論点設定と軌道修正をする主張が求められよう。与野党とメディアが向かい合うべき真の論点は、"現役世代の所得と消費"であり、それに関わる制度設計の見直しに向き合うことだ。コロナウィルスへの対処も含めて、時間は少ない。
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