馬車郎の私邸

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論点―身の丈、雨男、香典、日当、お花見よりももっと大切なこと

4つほどグラフを見てもらいたい。国会議員は政府予算や国益の観点などから、例えばどんな優先順位で政治活動の時間と労力を使うべきだろうか?
グラフは、上から順に、①社会保障給付費、②中国の軍事費、③科学技術関係予算、④桜を見る会の支出額だ(出所:内閣府、日経新聞、毎日新聞)。
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国会の運営経費は1日約3億円とも俗に言われるが、年に1回、1億円にも達しないイベントの話題は、この度の会期の短い国会の中で取り上げるレベルの話なのだろうか。長期政権のおごりや緩みを指摘するのは大変結構で、その点は私も一定の理解を示してはいる。

しかし、"腐敗しきった邪悪な"安倍政権がこの程度のことしかできていないというのでは、お可愛いこと…というほかないだろう。

したがって、議員の本来の職務は国家の課題や予算の使いみちを議論したり、法律を作ることだ。週刊誌などから騒げる話題を見つけて喚き立てることではない。

それには、優先順位をつけて論点設定をする必要がある。論点とは「解くべき問題」のことであり、論点を誤って設定していると、問題を解いても成果に繋がらない。

問題解決のステップは、(1)問題設定、(2)解決策の立案、(3)実行、(4)問題解決であり、ひたすら与党の足を引っ張ることだけ考えていれば、それができるわけではない。

以下のように、池田信夫氏が指摘する点はまったくもって正しい。
「それより問題は、国会で野党が法案も予算案も議論しないで、こういうスキャンダルばかり取り上げることだ。その理由は単純である。マスコミがそれしか報じないからだ。政策に知識も興味もない有権者が政治家を選ぶ普通選挙ではポピュリズムは避けられないが、国会がスキャンダルで埋め尽くされるのは日本の特異現象である。これはマスコミで社会部が強いからだ。」

実にあっけらかんと述べているが、的を射ている(ただし、一プロレスファンとして、プロレスと言う言葉の使い方は妥当ではないように感じる)。

「CNNやBBCを見ればわかるように、海外の全国ニュースでは社会部ネタがトップを飾ることはほとんどない。事件・事故はローカルニュースである。そもそも社会部というセクションが存在しない。(略)これを野党が国会で取り上げるとマスコミは大きく報じるので、野党は社会部ネタばかりやるようになる。これは自民党にとっても都合がいい。野党に政権担当能力がないことを国民に印象づけられるからだ。」

内閣改造があると、大臣に何か失言はないか、なければ論旨を捻じ曲げるか、恣意的な切り取りを作って論点に仕立て上げるのが恒例行事化している。また、週刊誌報道を手がかりに、何か追及はできないものかと、常に野党は手ぐすねを引いている。さらに、与党の対応も総じて毅然としたものではなく、手っ取り早く辞任や陳謝を選んで、議会運営を優先せざるを得ないのが実態だ。最近もそうだ。

萩生田光一文部科学大臣は、そもそも感心しない腰巾着とも言うべき人物で、しかも失言癖で知られている。案の定、"身の丈"発言は当たり前のことをあけすけに言ってしまい反感を買った。世の中本当のことをあえて言う必要はない。「それを言っちゃあ、おしめぇよ」ということもあるからだ。また、大学入学共通テストへの英語民間検定試験の導入を2020年度は見送り、2024年度以降の導入が検討されることになったが、この点はたしかに早急に練り直しが必要だ。しかし、それより前にメディアや野党には、現代文の試験が必要かもしれない。河野太郎防衛相の"雨男"の言葉尻を捉えて、災害支援に奮闘する自衛隊を労う言葉の趣旨を悪意を持って無理矢理に失言に仕立て上げようとしていたからだ。

菅原一秀経済産業相の秘書が選挙区内の有権者の通夜で香典などを渡したとの疑い、河井克行法相は7月の参院選で妻の河井案里氏の事務所が運動員に法定額を超える報酬を支払うなど、公職選挙法違反の疑いで辞任した。辞任するにしても話が小さすぎて悪質性も僅少だ。週刊文春のおかげで2大臣の首級を挙げることに野党は成功(?)したが、スキャンダルにしてもあまりにもスケールが小さすぎる。一連の流れで、何か物事は前に進んだのだろうか。少なくとも、法律が時代に合っていないのではないかという点に目を向けるべきだろう。

身の丈にあわせて頑張ること、雨男が自衛隊を労うこと、秘書に香典を渡してもらうこと、日当を多く払いすぎたこと、お花見に後援会含めたくさんの人を招待すること…それらを取り上げるよりも、はるかに大きくて、重要で、緊急を要することはたくさんある。

19年度の国家予算は101兆円と過去最大だった。20年度概算要求は105兆円規模である。その内訳を見るだけで、より重要な論点は明らかだ。持続可能でより効率的な社会保障制度の設計、軍備増強を続ける隣国や不安定化する世界の中での国防、国の未来を支える教育・科学研究、猛威を振るう自然災害への備え…そのほか枚挙にいとまがない。議員の仕事は、少なくとも議事妨害ではないし、メディアの仕事は議論の材料を適切に多角的な観点で整理し、まっとうな意見を届けることである。

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