馬車郎の私邸

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酒井まゆ&春田なな 作品紹介&レビュー

昔大学時代のサークルの会誌に書いた酒井まゆ&春田なな両先生の作品のレビュー・ブックガイドです。2007年頃までの作品についてです。
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 あえて今回は、酒井まゆと春田ななの二人を取り上げる。なぜか?面白いからだ。面白くないものをわざわざ勧めるつもりはない。確かに、これまでにこのレビューで取り上げてきた、水沢めぐみ、吉住渉、小花美穂、椎名あゆみ、高須賀由枝といった漫画家たちには、評価も格も実績も技量も作品の数も、今はまだ及んでいないだろう。だがしかし、個々の作品では十分な面白さを備えており、何よりこの二人には未来がある。80年代から90年代の「りぼん」の栄光を築いた人々は、今は「りぼん」にいない。そう遠くない昔、2000年以降に台頭し、今の「りぼん」の中核をなす両先生の作品は、種村有菜の華やかさに隠れがちなのかもしれないが、なかなか侮りがたいものがあるだろう。

 両人とも、かなり手堅い作品を書くので、どの作品も一定の面白さがあるが、逆に言えば心を揺さぶるほどの感動やカタルシスがあるかというと、自分個人の印象としては、それほどではない。しかし、正統派学園ものの雰囲気や、絵柄の可愛らしさ、感情描写の細やかさといった点はしっかり抑えられている。その意味では、「りぼん」の作品に慣れ親しんできた人たちには大いに受け入れられるだろうし、自信を持って推薦できる。一言で言えば、「普通に面白い」というのが正直な感想だ。

 先日、酒井まゆ先生と春田なな先生からサインをいただく機会があった。お二方とも若く、まだまだこれから良い作品を描き続けるだろう。春田先生は自分よりも2歳年上、酒井先生は5歳年上なのだから、あまり年も変わらない。今の20代とは感覚も近く、作品の人物の、感性や考え方といった部分で共感できる部分も多いのではなかろうか。「りぼん」を読まなくなった人が、ふと何か少女マンガを読みたくなったら是非この二人の作品を読んでみるといい。酒井先生は「ピーターパン・症候群」と「ロッキン★ヘブン」、春田先生は「サボテンの秘密」「ラブ・ベリッシュ!」が特にお勧めだ。では、酒井先生と春田先生の作品をこれから紹介していこうと思う。まだまだ、「りぼん」も捨てたものではない!
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・酒井まゆ先生編
☆「ボクたちの旅」
(「りぼん」2001年9月号から11月号に連載)
4作目の作品で、本誌の3回連載をつとめることになるとは、異例のことだろう。だがそれに見合った、手堅い仕事がこの「ボクたちの旅」という作品である。中学生の家出二人旅を描いた物語は、青臭いかもしれないが、自分を含めた当時の中学生たちには共感をよんだのではないか。
 デビュー作である「プライマル・オレンジ」(りぼんオリジナル2000年10月号)もなかなかだが、読みきりの「五月少女」も面白い。恋愛ものではなく、ライバルと友情が芽生えていく過程を、対話の応酬、平手打ちの応酬(!)を通して熱く描いている。

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☆「ナインパズル」全2巻
(「りぼん」2002年5月号から10月号に連載)
全6回の連載ということもあってか、地味で無難な印象。読みきり3作品もだが、昔リアルタイムで読んだはずなのにあまり覚えていない。決して悪くは無いが、まだ雌伏の時期であったか。だが、おそらくは編集部の意向とともに、次の作品で酒井先生の実力が開花する。

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☆「永田町ストロベリィ」全5巻
(「りぼん」2003年2月号から2004年10月号に連載。全21回)
 本格的な台頭を見せたのはまさしくこの作品。表紙や巻頭カラーをたびたび受け持ち、主要連載陣の一角を占めることとなった。おりしもこの作品の連載時期には、高須賀由枝、椎名あゆみ、小花美穂といった面々が本誌からいなくなっていく時期でもあった。世代交代の渦中の作品でもあったのだ。種村有菜・槙ようこ、酒井まゆの3頭体制でいこうという意向が編集部にあったかは、断定はできない。だが結果的にそうなったのは事実で、この時期に今まで本誌に読みきりを描いたり連載していた人が大量にいなくなったことも事実である。この転換点が、「りぼん」に何をもたらしたかは語るまでも無い。
 しかし、それは別にしてこの作品単体を見るなら十分に面白いと思う。絵も安定してきて、登場人物も可愛げがある。酒井先生は、小花美穂先生のアシスタントをしていたことがあり、トーンの多用や線の細やかさではところどころ似ている部分もある。一方で話については、小花先生にはいくぶん厳しさがあるが、酒井先生はやや甘い。だから、酒井先生に話の面ではもっと厳しさに徹する部分が出てきて、絵の技量や安定性が増せば、手放しで賞賛できるような素晴らしい大作が生まれるだろう。それだけの素養を酒井先生は持っている。
 批判者として読むか、ただの一読者として読むかでこの作品の評価は大きく変わるのではないか。前者の読み方なら、「甘い!」と思うこともあるだろうし、後者の読み方であれば「良かった、良かった」と読んでいく中で思うこともあるだろう。難しいところだが、漫画は楽しんだもの勝ちだと思う。うがった見方をせず、素直に読んでいけば良い話だし、他の4巻、5巻の中期連載の漫画に決して劣るものではないと、私は思う。収録されている読みきり作品も良い出来栄えだ。

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☆「ピーターパン・症候群(シンドローム)」
全2巻(「りぼん」2005年2月号から10月号に連載。全9回)
 5巻の漫画の次なのに2巻で9回連載だから、たいした作品でないと見るのは早計だ。この作品が酒井先生の作品で最も完成度が高いと思う。ファンタジーのようでいて、実はSFなのだが、話が実にきれいにまとまっていて、読後感も爽やか。未回収の伏線も見受けられ、実は打ち切りなのかもしれないが、だとしても面白い作品が出来たということに変わりは無い。
 しかし、問題は同時期の槙ようこの「STAR BLACKS」も2巻で終わってしまったことである。種村有菜の「紳士同盟」は始まったばかり、台頭し始めた春田ななの「サボテンの秘密」、武内こずえの「アゲハ100%」といった連載陣では貧弱さは否めない。吉住渉も、2005年8月号を最後に本誌から名前が消える。
 だから、この作品が長期連載にならなかったためにさらなる「りぼん」の部数の低下を促進したという見方も出来る。そうした観点でこの作品を評価しないむきもあるだろうが、あくまで作品単体で考えるなら、十分よいものだと思う。少なくとも私は楽しませてもらった。


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☆「ロッキン★ヘブン」既刊7巻
(2006年1月号から2008年8月号まで連載、全32回)
 捲土重来の長期連載は、「りぼん」らしい王道学園ものである。主人公たちの人間関係と恋愛模様もよく描かれていて、悩みも苦しみも楽しさも友情もたくさん詰まった良作だ。時たまシリアスな部分もあるが、主人公と一緒に一喜一憂しながら楽しく読めるだろう。
 絵柄については、おおむね良好だと思うが、いささかむらがある気もする。例えば、1巻目は異様に目が大きくバランスが悪いコマが見受けられる。トーンの多用が濫用になっている時もしばしばあり、ページの面積の9割以上がトーンで埋め尽くされていることもあった。単行本ならそうでもないが、本誌の時はかなり読みづらいことがあった。眞那さんが苦言を呈するのもわかる話だ。
過ぎたるは及ばざるが如しという言葉もある。
 とはいえ、3年近くの連載を勤め上げたことは立派である。なんだかんだで面白いし、過ぎ去った高校生活を懐かしみながら読むのも、また一興だろうと思う。
「ロッキン★ヘブン 」第8巻 酒井 まゆ


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・春田なな先生編

☆「ティーンズブルース」
読みきり5作品を収録。2000年、「りぼんオリジナル」12月号に掲載されたデビュー作「愛の♥愛のしるし」は、なんと中学2年生のときの作品である。初々しさと微笑ましさがなんとも照れくさいが、これを中学・高校の時に描いていたのだなと思うと、偉大だなと思えてくる。

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☆「侍ダーリン」
(「りぼん」2002年11月号から2003年1月号に連載)
3回連載の表題作と読みきり2編を収録。絵はすっきりさっぱりはっきりといった感じで読みやすい。読みきりにせよ、初めての連載にせよ、丁寧でいい仕事をしている。買って損の無い一品だ。

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☆「いとしのご主人サマ」
(「りぼん」2003年5月号から9月号)
これまでの作品は中高生のリアルな感覚に基づいていて、人物の感情にそうだよねと共感できることも多かったが、今作はいささか突飛な印象を受けることもあるだろう。とはいえ、5回の連載の機会をものにして、次の飛躍に備えることが出来たのは、「りぼん」にとっては良い収穫であった。堅実で手堅い作風の春田先生は、得がたい人材だと思う。

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☆「サボテンの秘密」全4巻
(2004年2月号から2005年6月号まで連載。全17回)
好きな人が徹底的なまでに鈍いというのは、困ったものである。主人公は苦悩し、読者も同時にやきもきするはめになり、とにかく主人公を応援したくなってしまう。春田先生は、読者に主人公への共感をもたせるのが実に上手い。気づいてくれない相手の鈍感さ、相手が何を考えているのかわからない不安。そうしたことに苦悩することは、現実に良くあることだ。それだけにいっそう、主人公の感情が身近なものに思え、なおかつ共感を呼ぶのである。漫画作品の奇想天外さといった部分ではあまり劇的ではないが、読む人との登場人物の距離感がとっても近い漫画だと思える。
ちなみに第4話は高校の卒業式の日が締め切りだったそうである。恐ろしい。しかも、連載中バイトもやっていたそうだ。春田先生は、かなり豪胆な人である。すごいことだ。

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☆「ラブ・ベリッシュ!」全5巻
(「りぼん」2005年9月号から、2007年5月号まで連載。全21回)
可愛く、爽やかで、楽しい。
少女マンガの模範のような作品だ。春田先生は、水沢めぐみ先生や吉住渉先生たちのような王道路線の継承者といえるかもしれない。安定感と安心感があるのはいいことだ。絵も前作よりレベルアップしていて、展開も飽きない。完成度云々というよりは、楽しんで読めるというところに魅力があると思う。成熟した作品ではないが、春田先生のこれからに期待させてくれるという点で、評価されるべきである。

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☆「チョコレートコスモス」既刊3巻
(「りぼん」2007年9月号から2008年11月号まで連載、全15回)

あらすじは、主人公が海で出会い恋をした相手は、なんと学校の家庭科の先生であった!というもの。なかなかインパクトのある第1話だ。飄々とした先生に片思いする中で、揺れ動く主人公の思いがよく描けているなと思う。話の状況設定や人物たちはともかくとして、恋愛感情に現実味があるところが春田先生のいいところだ。ニコニコ動画なら、「心情描写に定評のある春田なな」というタグをつけたいくらいである。
ただ、登場人物の少なさが災いしてか、長期連載に発展することなく終わってしまった。地味な面白さは悪くは無いのだが、最終回も無難な着地点という感じで盛り上がりには欠けた。前の2作も本当にこれ最終回?という印象だった。わりとそつのない、春田先生の弱点はここかもしれない。これから咲き、何度も最終回を描くことになるだろうが、「え、終わり?」ではなくて、「終わったなぁ…」という余韻やカタルシスを感じる最終回を描けるようになれば、さらにいい作品が出てくると思う。
以上で、この二人の既刊全てのレビューは終了だ。ところで、2008年の11月14日発売される単行本3冊をご存知だろうか?それは、
・種村有菜「紳士同盟+」⑪ (最終巻)
・酒井まゆ「ロッキン★ヘブン」⑧ (最終巻)
・春田なな「チョコレートコスモス」④(最終巻)
見てのとおりである。全て最終巻だ。槙ようこが消えてしまった今、この3人こそ「りぼん」の主力三本柱だ。それが揃いも揃って、最終巻を出す。編集部の調整ミスと言っても過言ではない。「紳士同盟+」は終わり時だったかもしれないが、「ロッキン★ヘブン」はもう少し続けても良かったのではないか。12月号の連載陣に、種村有菜と春田ななの名はない。酒井まゆの「MOMO」は連載4回目で始まったばかりだ。すこぶる危険な状況である。なんにせよ、救世主の到来が無い限りは、種村有菜、酒井まゆ、春田ななの3人が「りぼん」の運命それ自体を体現しているのである。
感想:「チョコレートコスモス」第4巻 春田なな 

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