馬車郎の私邸

漫画、アニメ、ゲーム、音楽、将棋、プロレス観戦記など「趣味に係るエッセイ・感想・レビュー記事」をお届けします!ある市場関係者のWeb上の私邸

椎名あゆみ&高須賀由枝 作品紹介&レビュー、そして2003年前後のりぼんについて

 2007年頃までの作品について、昔大学時代のサークルの会誌に書いた椎名あゆみ&高須賀由枝両先生の作品のレビュー・ブックガイドです。このお二方と絡めて2003年前後のりぼんについても振り返っています。
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 椎名あゆみと高須賀由枝両名を今回は取り上げる。ともに愛媛県出身で、高須賀先生は椎名先生のアシスタントであった。そのため二人ともコメディ調の作風で共通点が多いように思える。読んでいて楽しい漫画を描く人で、絵柄や作風もお互い似ている部分もあり、また活躍時期もおおむね重なっている。椎名あゆみ先生のデビューは1987年、高須賀先生は1993年と思いのほか古い。ともに黄金期の90年代半ばまででは中堅として、90年代後半から2000年初頭の「りぼん」の顔として大いに活躍した。

 そしてほぼ時を同じくして「りぼん」本誌から去った。2003年は「りぼん」という雑誌の大きな転換点だった。この二人を本誌から失ってしまったことは、「りぼん」に相当な打撃を与えたであろう。手堅く面白い作品を描くベテラン吉住渉(本誌連載は2005年が最後)、小花美穂(2002年からCookieで連載)も、年は前後するがほぼ同時期に本誌から離脱したとなれば、固定の読者は離れ、雑誌のレベルも当然低下する。2003年は、「りぼん」が100万部を割った年であったが、露骨なまでにこの主力4人がいなくなったことの影響を反映している。
参考までに「りぼん」の発行部数を示しておこう。
2002年:126万部
2003年:99万部
2004年:73万部
2005年:54万部
2006年:40万部
2007年:38万部 (マガジンデータより)
明白すぎて、悲しい!

 4人が抜けた後残ったのはベテランでは亜月亮と倉橋えりかのみ。この二人も後には本誌から消えた。変わって主力となったのは、種村有菜、頭角を現した槙ようこ、酒井まゆ、加えて松本夏実である。松本夏実が完全に実力を発揮したとは思えないし、個人的にはあまり好きではなかった。槙ようこと酒井まゆの二人はそれぞれ「愛してるぜベイベ☆☆」「永田町ストロベリィ」のヒット作の次の連載では、そろって短い連載で終わっている。結局は種村有菜だけが安定していた。「りぼん」のエース格は種村有菜一人になってしまった。春田ななの台頭はせめてのなぐさめだったかもしれない。ともあれ、2003年のあとの「りぼん」の状況はそのような感じである。「りぼん」を自分が読まなくなったのはこの時期だ。他の多くの読者とともに。

 大ベテラン水沢めぐみ先生を何度か助っ人に呼んでも長い連載はなかった。もちろん水沢先生が描くとなれば私のようなファンはそのつど着目するだろうが、所詮は一過性である。椎名先生に高須賀先生、亜月先生と森ゆきえ先生、さらには朝比奈ゆうや先生等の育ち始めた中堅は、「マーガレット」そして今は亡き「りぼんオリジナル」に異動になった。多くの人材がいなくなった。雑誌のクオリティの低下は否めない。

この状況でのりぼんを支えた種村有菜の孤軍奮闘は評価されるべきである。種村先生がいなくなれば、「りぼん」は終わりだ。、種村有菜だけが連載陣の中で極めて大きな存在感を占めていて、種村先生と互角の漫画家は一人もいない。津山ちなみ先生はベテランだが、4コマ漫画である。伸び盛りの酒井まゆ、春田ななの二人は今なお種村先生と同格ではなく、技量に関しても及んではいない。中堅どころについても、長期連載のヒット作がないため、誰かこれから抜きん出た人物が現れてくれるとよいのだが・・・・

 椎名あゆみ先生と高須賀由枝先生が抜けた「穴」については以上の簡単な概説で理解いただけたと思う。では、そんなお二方の二人の作品をこれから紹介していこう。

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☆「ピーターパンの空」(1990年)
3回連載「ピーターパンの空」、読みきりの「涙のメッセージ」を収録した、椎名先生初のコミックス。2作とも主人公は元気な女の子。椎名先生の作品の主人公はとてもアクティブでパワフルであることが多い。他の作者の作品の主人公と比べると、相当なまでに行動的。そして、今風な言葉で言えば、ツンデレだったりもする。

初期の作品の絵柄は、吉住渉の「ハンサムな彼女」の影響がありそうだ。シャープな描線とコマ割りから伺える全体の印象がそう見える。内容自体は、後年に通じるものがあり、心のすれ違いやけんかを通してお互いが悩みそして解決へ向かう簡明なストーリーはわかりやすく、なかなかに面白かった。

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☆「マインドゲーム」前後編
連載1990年、1月号から8月号

 表題は心理戦という意味だが、別にそんなこともなく、身内の友達を好きになった主人公の心境を良く描いた作品だ。椎名作品では珍しい、おとなしい主人公で、よく泣いている。水沢先生の作品みたいな話だが、8回連載ではなかなかのもの。以降は中期、長期の連載がずっと続く。吉住先生と同じくかなりの即戦力であったようだ。同時期に小花先生も台頭してきて、中堅どころになるわけだが、この二人が中堅とはずいぶんと豪華な陣容だ。

 後編の巻に収録されている「魔法をかけて」は完成度が高い。数少ない椎名先生の読みきりだ。椎名先生のいいところは展開が明快でわかりやすいところだ。おとなしい主人公が、一緒に文化祭の実行委員になったお調子者に心を開いていって….というありがちな話だが、王道だ。デビューしたてのころは、吉住先生と水沢先生に絵柄、作風ともに大きな影響を受けているようだ。ところでこの作品、眼鏡をかけた主人公がとんでもなく可愛い。まずもって表情が豊かで、よく描けていると思う。もうひとつの読みきり作品「心にそっとささやいて」が掲載されているが、水沢めぐみ先生のデビュー作と同名である。

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☆「無敵のヴィーナス」全4巻
(91年りぼんオリジナルに2回掲載、本誌連載は92年1月から93年2月)
 この作品から椎名先生らしさが出てくる。デフォルメされたカットを多く使い始め、主人公もずいぶんとまた元気である。「もっと穏便に出来ないのかよ」と言われて、「うっせーな、これがオレのやり方だよ!おまえも殴られたいのか?」と返す主人公もそうはいないだろう。モップをもって大暴れするシーンも多く、結局最終回までモップは主人公松下楓のお気に入り。そんな楓と両思いになったお調子者のてっぺいは、いつもふざけてばかりいるが楓を守るためなら何でもする、男気にあふれたやつである。1年ほどの連載とは思えないほどの凝集性があり、とても楽しめる。コミカルなラブコメという、椎名先生の持ち味が確立された作品だ。
 同時収録の読み切りは「スイート・スノウ」「丘の上野エイリアン」「せつなさに似て」3作だが、どれも正統派、王道といった言葉がぴったりの作品である。

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☆「あなたとスキャンダル」
(93年5月号~95年4月号)
「女が女を好きになってなぁーにがワルいってのよ。
おーおー、呼んでもらおうじゃない。
変態とでもれずびあんとでも」
主人公の居直り発言だが、なんともスキャンダラスである(笑)
主人公のあこがれの男の子は、実は女の子だったのだが、それにもめげず、自分の意志を曲げない主人公は読んでて痛快だ。

 最終的には無事に(?)男の子とくっつくことになるも、かなり長い間、女の子が女の子を好きでいる話であったりする。バンドのサクセスストーリーでもあるため、5巻24話の話とは思えないくらい、密度が濃い。そしてキャラも濃い。バンドメンバーの5人がドタバタ劇を繰り 広げていく中で、それぞれが成長していく物語に惹かれて、夢中になって読みふけってしまいった。 それくらいパワーのみなぎる作品だった。おりしも、この連載のころが「りぼん」250万部の黄金期。その連載陣の一人にふさわしい作品である。

 絵に関しても、椎名先生のスタイルがはっきり確立した。目もかなり大きくなったが、それはそれでかわいらしいし、描線も丸っこくなってページ全体がやわらかい雰囲気をかもし出している。デフォルメの多用で明るさもある。シリアスな展開も忘れず、バランスも取れている。カラーの技量もあがり実にいい色が出ている。総合的にこの作品は、椎名先生の実力が遺憾なく発揮され形になったものといえよう。

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☆「ベイビィ☆Love」全9巻、文庫版5巻
(連載:りぼん95年9月号~99年9月号)
 あらすじ~有須川せあらは、小学6年生でありながら、身長160cm以上の長身で、しかも高校生に見られるくらい大人びた容姿をしている。こんな風になったのも、憧れの瀬戸柊平に少しでも追いつきたい、という執念からだった。そしてある日、ひょんな事から瀬戸家にまんまと転がり込む事に成功したのだが・・・。

 ストーリーは極めてシンプル。主人公のせあらの恋愛をこれでもかっ!というほどに心情描写し、それが読者には痛いほど伝わってくる。登場人物たちと心が一体化してしまうくらい、引き込まれる作品だ。キャラは全て魅力的。どの人物も丁寧に描かれていて、とても連関的にそれぞれがつながっている。描かれる多種多様の恋愛は、まさに怒涛の勢いで波乱万丈の展開をみせ、一体どうなってしまうのか、ハラハラドキドキさせてくれます。名場面、名台詞も続出する

 全9巻の長期連載で、90年代後半のりぼんの柱はまさにこの作品でした。女友達から借りて読むりぼんで、読むたびに続きが気になってしょうがない漫画だった。「りぼん」のかつての異名は「全国250万乙女恋のバイブル」というのだが、この作品はその聖書の目次の中の「椎名あゆみの福音書」である。この複雑に絡み合う恋愛絵巻は、最近文庫版になったので、われわれの世代は今一度読み返すといいだろう。面白い漫画だし、実際に恋愛を体験した人にとっては、小中学生の時読んだ感覚とは、また違った感覚で読めると思う。せあらは3度振られてもなお、あきらめずひたむきに努力を続けた。片恋の相手に対して、われわれはそこまで出来るだろうか?この作品での勝者と敗者、どちらにも共感できるところや得るところがあると思う。

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☆「お伽話をあなたに」
読みきり3篇を収録。古典的な純愛を描いた作品だ。だがそれがいい。重みはないけれども、あれやこれやと趣向を凝らした作品に劣らず、シンプルだけれども単純な話の中に、心地よさや面白さがある。

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☆「ペンギン☆ブラザーズ」全5巻
(連載:りぼん2000年2月号から2001年12月号、りぼんオリジナル2002年4月号と8月号)
 あらすじ~常盤学園に転入してきた三嶋陽菜。そこは私服校でありながら、2種類の制服があり、しかもそれぞれの制服の着用者が「白(ホワイト)」と「黒(ブラック)」の2派に別れて、派閥争いを繰り広げていた。成績優秀・優等生タイプが着る制服が白、体育会系・問題児タイプが着る制服が黒。 派閥のリーダーを中心に繰り広げられる学園闘争は、いじめ・暴力なんでもありで、学園は無秩序な空間と化していた。そんな中、陽菜は黒のリーダー・西崎が白の生徒に振るう暴力を目にし、黒白どちらにも属さない私服登校組、通称「グレイ(灰色)」の中に入ることを 決意する。しかしその「グレイ」は、学園内に5人しかいない超少数派だった。悪質な嫌がらせに立ち向かい、学園内の秩序を取り戻すため、陽菜は自身がリーダーとなりグレイを学園内のNO.1派閥にすることを宣言する。果たして、陽菜の学園生活やいかに!?

 自分が「りぼん」を買ってるときに最初から最後まで読んだわけだから、最も愛着のある作品だ。そしてアクティブな展開の変化が多く面白い!コメディ的な部分は今までほど多くはなく、シリアスな展開もしばしば。前作の恋愛主義の主人公の反動か、やや恋愛要素は薄めではありますが、魅力的なキャラたちが起こすドラマは目が離せない展開。椎名先生の作品はいちいちキャラの個性が豊かだ。

 中学1年生のとき、椎名先生の作品を読みたくて、意を決して初めてりぼんを購入したときのことも良く覚えている。表紙は種村先生の「神風怪盗ジャンヌ」で、椎名先生の「ペンギン・ブラザーズ」がちょうど巻頭カラーで始まり、彩花みん先生の「赤ずきんチャチャ」が続いていることにほっとし、小花美穂先生の「パートナー」にぎょっとし(笑)、吉住渉先生の「ミントな僕ら」の最終回を見届け、各先生の描く惚れ惚れするようなカラー扉に感動を覚えた。それが初めて自分が「りぼん」を初めて最初から最後まで読んだときの思い出である。中学生の感受性の豊かな時期にこの作品を読めてよかったと思う。

 元気なショートカットの主人公三島陽菜はいちいちやることが豪快でこんなやつが友達だったら面白いだろうな、と思える魅力的な人物だ。作戦参謀の全国模試1位の秀才、小柴哲太はとんでもないお調子者だが、最初から最後まで陽菜を支えて頑張ったナイスガイだ。陽菜をかばって鉄パイプで頭を殴られたり、陽菜を救うためにやくざに小指を差し出すこともいとわなかったり、投げナイフからやはり陽菜をかばおうとしたり、本当に心から陽菜に尽くしぬいた男の中の男である。哲太と陽菜、二人の名前を一字ずつとって太陽コンビだが、劉備と諸葛孔明にも劣らぬ君臣の間柄だ。なのに、その忠誠にも関わらず後半の彼の扱いは:::読んでてかわいそうだった。

 結局この作品は、どうにも本編が不自然で曖昧模糊とした終わり方をした。読みきり2編で幾ばくかの補完はなされたものの、5巻で終わるような作品ではない。5巻のフリースペースで椎名先生みずからが明らかにしたのだが、自分の中でぜんぜん終わってない話なのに、無理やり終わらせるネームは出来ないと語っている。途中で打ち切ることが決まっていたのだそうだ。長期連載できる作品の可能性を断ち切ったことは、「りぼん」に高い代償を払わせたといえよう。

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☆「ダイス」全2巻
(2002年10月号から2003年6月号に掲載)
 半年あまりの連載だけれど、けっこう面白かった。短い期間しか与えられていなくても、きっちり仕事をするのがプロである。この連載を最後に「りぼん」本誌から椎名先生はいなくなってしまうが、椎名先生のいなくなった「りぼん」がどうなったかは前述のとおりである。

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☆「お伽話をあなたに 月夜の舞姫」
 りぼんオリジナルで連載された、椎名先生からのお伽話のプレゼント、第二弾。現代ものではないからこその面白さがここにある。が、しかしコンビニバイトの恋愛話を描いた読みきり「女神様のしっぽ」も、なかなかどうして面白い。思えば、「ダイス」の2巻に掲載された読み切りも良かった。椎名先生の作品には外れがない。ページが多ければ多いほど話は作りやすく、読みきりは苦手と言ってはいるが、そうでもないと思う。今のところ、これが椎名先生最後のコミックスとなっている。安定感のある椎名先生を放逐することで、「りぼん」が得たものは何もなかったように思われる。

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☆「恋も2度目なら」
91年に大学生でデビューした高須賀由枝先生の初コミックス。読みきり5編を収録。このころはまだ80年代風の古めかしい絵柄で、どれもオーソドックスな話だ。普通にいい話だと思うし、読む価値はある。

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☆「とまどいの姫君」(連載:94年2月号から4月号)
「とまどいの姫君」「愛があれば大丈夫」「バカンスの前に」の3作品収録。どれも、「グッドモーニング・コール」とはだいぶ毛色の違う作品で、展開はなかなかに激しい。どれも勢いがあり、かなり楽しめるし、何より、椎名あゆみ先生との師弟対談もたくさん書いてあって、読み応えあり。高須賀先生ファンは古本屋へGO!

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☆「パレードしようよ!」前後編
(1994年9月号から95年3月号に掲載)
 なんという超展開:::!三角関係でわかりやすい話だが、隠れた名作なのではないか。読みきり二つもなかなかのものだった。ところどころに「グッドモーニング・コール」の萌芽が出ているけど、まだまだ中堅の域を出ていない感じ。といってもこのレベルの作品が中堅というのは、当時の「りぼん」の層の厚さはすごい。

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☆「上を向いて歩こう!」前後編
(95年7月号から96年2月号に掲載)
 前作に続き男同士のキス2回目:::::!しかも今度は唇に―それはともかく、椎名先生ばりのドタバタ劇でいろいろと激しい。さらには乱闘もある。高須賀先生曰く、男同士の殴り合いのケンカにはロマンを感じるのだとか(笑)そのうえ主人公も平手打ちの応酬を繰り広げていたり、後年の作風とはまったく違う。「シュガーポット」を読んで、主人公は菜緒みたいな天然で、相手の男は上原くんのような感じしか高須賀先生は書けないと思っている人は、是非この作品を読んでいただきたい。間違いなく考えが変わる。読み切りが一本入っているが、「上を向いて歩こう!」の直後に読むと落差に衝撃を感じる。絵柄も話も可愛い。この作品から目の大きさが大きくなり、目の描き方も椎名先生に似てきたようだ。

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☆「お日様カンパニー」前後編
(96年9月号から97年5月号に掲載)
 中学生のかわいらしい恋愛という感じでよみやすい話。だが、絵柄の変わりように驚いた。細い線中心だったのが、やや太めの線も使うようになり、絵が丸みを帯びてきた。また、トーンも多めになってきて、以前は全体的に白っぽくてさびしいこともあった画面の密度が一気に濃くなった。カラーもいい色が出ていて、全体的に技術が向上している。が、重要な変化として、椎名先生スタイルの絵柄に変わっている。「ベイビィ☆LOVE」と比べてみるとかなりの程度類似しているように思われる。高須賀先生は元々椎名先生のアシスタントだったのだから、影響を受けて当然だろうという理由は、当てはまりそうにない。初期の作品がそうならわかるが、何冊もコミックスを出してるのに、絵柄が似始めたのは不思議なことである。

 とはいえ、高須賀先生オリジナルのスタイルも多々見受けられる。デフォルメカットの多用や、独特のほのぼのとした雰囲気は、間違いなく高須賀先生独自のものだ。そう考えると、ちょうどこの作品は過渡期だったのかもしれない。そして、類型500万部の大ヒット作「グッドモーニング・コール」につながっていくのである。

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☆「グッドモーニング・コール」
全11巻、文庫版6巻
(連載:97年8月号~2002年2月号)

 全55話の大作。高須賀先生といえば、やっぱりこの作品。完璧に高須賀先生がスタイルを確立した。人物を書くときはシャープで繊細な描線、一方で絵の半分くらいは占めているんじゃないかと思えるほどのデフォルメカットの多用。誰にもまねできない高須賀先生だけのスタイルだ。

 カラーイラストに関しても、独特のふわっとした淡い色がなんとも良くて、「りぼん」を買うたびに楽しみにしてました。コミックスの表紙は、2,3,5,8、11巻がとりわけお気に入りだ。他のカラー扉好きだったので、椎名先生ともども高須賀先生のイラスト集が出たら是非ほしいところなのですが。
 
 さて、話は、ひょんなことから中3で同棲という、なかなか過激な設定だけれども、あまりお色気方面の話でもなく、とにかく日常を描くことに専心している。別にドラマティックな恋はないんだけれど、好きな人と過ごす日常の幸福さ、それがよく詰まった作品だ。ご長寿連載ということで、われわれの世代は読んでるうちに、菜緒と上原君の年齢を追い越して、続編で二人は大学生になってましたが、それもさらに追い越してしまってなんだか不思議な感じがする。
 長く続いたこの作品も、最後はあっけなく終わってしまったのは残念だった。それはもう奇襲攻撃という感じで、まさかあのタイミングで終わるとは….

 天然で能天気な菜緒と、無愛想だけど頑張り屋で、また不器用ながらも優しい上原くんの二人は、りぼん史上に残るベストカップルのうちの一組だと思います。ほのぼのとした雰囲気の二人の話を、いつまでも読み続けていたかった。

 ところで自分が「ときめきメモリアル」をやり始めたのは高須賀先生の影響です。そりゃ名の知れた作品を好きな漫画家がやりたくてプレステを買うほどとなれば、やるっきゃないっしょ。椎名先生もおまけページで好きなゲームについて語ったり、二人とも意外とゲームは好きなようだ。

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☆「桜ヶ丘エンジェルズ」
(2002年9月号から2003年5月号掲載)
 話はつまらなくはないけど、前作に比べればさすがに見劣りがしてしまう。絵は一体どうしてしまったのか、頭が妙に長い…この連載は、長期連載になれる下地を持つ漫画でなかったのは、「りぼん」にとっては致命的だったと思う。

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☆「STUDY」
 読みきり4作品が収録。高須賀先生の長編が読めないのは残念だが、なかなか面白かった。地味だけど、高須賀先生の読みきりは自分は割りと好きだったりする。りぼん本誌の登場は2005年2月号が最後となった。

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☆「シュガーポット」(2003年から2006年まで増刊号と、りぼんオリジナルで連載)
 高須賀先生のカラーはホントにきれいで好きです。上手い。3巻とも表紙がよくて、つい買ったことを覚えている。話は、一話完結式で読みやすい。手堅い面白さという感じで、主人公もどことなく菜緒に似ている感じで安心して読むことができる。絵もさすがに完成度が高く、洋服、小物、お菓子と細かいところまで書き込んでおり、見る楽しみもある。

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☆ 「グッドモーニング・キス」既刊2巻
(Cookie連載中)
 「グッドモーニング・コール」の続編です。期待を裏切らない内容で、前作と同じく、毎月読みたい漫画といえるだろう。Cookieかりぼんでぜひとも連載してほしいものです。基本的な話や雰囲気は変わらないけれども、菜緒の家族も出てきて、なかなか愉快な仕上がりになっており、われわれの世代にはたまらない。

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