馬車郎の私邸

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「コロナは米史上最悪の攻撃」、トランプ大統領の強硬発言の狙いとは?

 「コロナは米史上最悪の攻撃」とトランプ大統領が言う狙いとは?答えはシンプルで、大統領選を見据えたものだ。目的があって印象に残るフレーズを使う。トランプ大統領の常套手段と言えるだろう。「われわれは、わが国史上最悪の攻撃を経験している。これは本当に、わが国史上最悪の攻撃だ」「真珠湾よりも、(米同時多発攻撃でハイジャックされた旅客機が突入した)世界貿易センタービル(World Trade Center)よりもひどい」とトランプ大統領は会見で述べた。

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これは事実だろうか?たしかに、ジョンズ・ホプキンス大学によると、コロナウイルスによる死者は73418人(5/7朝時点)と米国が1位だ。大日本帝国による真珠湾攻撃では、米軍艦6隻が沈没し、約2400人が亡くなったと言われる。ワールドトレードセンターへのテロ攻撃による死者は合計で2763人だった。なるほど、トランプ大統領の言うことは客観的には正しい。

 

戦争を引き合いに出すのは、(倫理観はさておき)印象付けには効果的だろう。甚大な数かと言われると、米国人の死者数は第2次世界大戦が約40万人、ベトナム戦争が約6万人だったから、戦争と比べるのが、ことの種類は違うが、ことの重大さを明快に示すにはたしかにふさわしい。米国では元々インフルエンザや銃で数万人亡くなるのだから(なお、2020年初から5/6までに銃で亡くなった人は13693人だ)、こちらと比べてしまってはそうインパクトは大きくはないのだ。

 

大統領選再選のために、トランプ大統領と共和党が「対中国の姿勢」を大論点に選ぶのは理にかなった戦略だ。経済はトランプ大統領と共和党にとって最重要な論点であり、米国の活力の源だが、コロナウイルス感染症抑止のためのロックダウンにより、経済活動はなおも麻痺している。5/6発表の米ADP民間雇用者数は、4月は桁外れの2020万人減と過去最大になってしまった。緩やかな景気後退や金融危機とは性質が異なるため、経済の落ち込みの理由は明快だ。つまり、「中国から来たコロナウイルスだ」という子供でもわかるメッセージである。シンプルな論点はわかりやすい。

 

WSJ紙によれば、米国人の中国人に対する不快感は、コロナウイルスも梃子に増している模様だ。ピュー・リサーチ・センターが米国人1000人を対象として3月に実施した調査によると、米国人の約3人に2人は、中国を快く思っていない。この調査が開始された2005年以降、最も否定的な評価となった。トランプ政権の発足以降、その割合は20ポイント近く拡大した。習氏に対し肯定的な見方をする人の割合も、過去最低となった。

 

また、対民主党の観点でも「対中国の姿勢」を問うことは重要だ。まず第1に、純粋に米国の国防上の理由から、避けては通れない論点だ。もちろん、対中国で共和党と民主党は、超党派で協力する余地はある。WSJ紙によると、 中国のパワーと影響力を米国にとっての主要な脅威と考える者が共和党員の68%、民主党員の62%に上る。問題意識は共通である以上、どちらが優れた対中国の向き合い方や戦略を提示できるか(パフォーマンスも含め)は競うべき政策論争なのだ。

 

第2に、民主党大統領候補バイデン氏を迎え撃つうえで、バイデン氏の舌鋒を弱める、あるいは、民主党よりも中国に対してタカ派的に振る舞えると印象づける効果が期待できる。息子のハンター・バイデン氏が中国との間に持つビジネス上の関係などの"ツッコミどころ"がある点も、ネガティブ・キャンペーン上は大きい。

大統領選ウォッチの大論点は「対中国」で決まりだ。政治に関心が低い中道派・ノンポリの票がシンプルな論点づくり(見方によっては経済からの論点のすり替え)によって、どう流れるか。大統領選の帰趨をめぐる大きなポイントになりそうだ。