馬車郎の私邸

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緊急執筆!ノアとDDTファンのためのサイバーエージェントってどんな会社?講座

本邦屈指のクオリティペーパーと名高い東スポが28日に報じたところによると、プロレスリング・ノアのIT企業「サイバーエージェント社」傘下入りがわかったとのことだ。ノアを運営する「ノア・グローバルエンタテインメント株式会社」の株式が100%譲渡され、完全子会社となったという話である。

どのような情報源によるものかは記事では明らかにされていない。なお、筆者は事実関係を把握する立場にない。正式発表はなされておらず、事実だとすれば、サイバーエージェントの四半期決算発表は明日29日なので、そこで発表される可能性が高そうだ(どうしよう、NECの決算説明会に行くのやめようかしら…)。

ノアは再建の途上で、16年11月にITシステム開発会社「エストビー」に事業譲渡され、さらに19年2月には広告や興行事業を行う「リデットエンターテインメント株式会社」にオーナー会社を変えた。私達の好きなプロレスリング・ノアの事業継続を助けてくれた二社にはあらためて御礼申し上げたい。もし今回の話が本当ならば、(現ブシロード体制になる前の)新日本プロレスにとってのユークスにあたる存在になるからだ。

私はNOAHの観戦記の執筆でおなじみの存在(?)かもしれないが、本業では株式市場の観点から、世の中の動きと企業の業績動向を観察している。そのため、サイバーエージェント社の業況についてひとまずご説明差し上げておこうと思い、取り急ぎ一筆奏上する次第だ。

サイバーエージェントは一言で言えばIT企業だ。しかし、これでは漠然としすぎて何ら説明になっていない。より事業の現状と構図を明快にまとめるならば、ネット広告と婚活アプリ、各種モバイルゲームを利益柱にしており、それらの事業で稼いだお金をAbemaTVに投資して、さらなる成長を目指している会社ということになろう。

したがって、買収自体は驚くことではない。AbemaTVに必要なコンテンツであると見做したというだけの話だ。17年9月にはDDTが発行済み株式の100%をサイバーエージェント社に譲渡しており、すでにグループ傘下に入っている。プロレス団体の中でもややエンタメ色の強いDDTとスポーツ色の強いNOAHは補完的関係にある。また、両団体の関係は歴史的に大筋良好であり、相互に選手を興行に派遣することは珍しくない。

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会社説明資料によれば、営業利益は300億円前後の踊り場局面が続いている。株式市場はこの先行投資局面を正直物足りないと思っているようで、株価はこの1年3000円~5000円のレンジ往来が続いており、方向感のない展開だ。さぞかし勢いがあって成長しているのだろうと思われる方もいらっしゃるかもしれないが、残念ながらそうではない。売上規模の拡大でグロース株としては増収率も今一つで、利益増勢局面入りが果たしていつになるのか見極めようという情勢だ。

直近本決算の19/9期(19年度)業績について、投資育成・その他事業はひとまずおいて、主力3事業の営業損益を見てみよう。メディア事業は営業損失178億円(うちAbemaTVが営業損失208億円)、広告事業の営業利益は206億円(前期比3%減益)、ゲーム事業の営業利益は260億円(前期比3%増益)。各主力事業の利益は高水準ながら横ばい局面と言えよう。AbemaTVに対する先行投資により、さらなる成長を模索せざるを得ない状況にあるというわけだ。

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各事業をもう少しわかりやすく言うと、メディア事業は婚活アプリ「タップル誕生」、AbemaTVがメインである。「タップル誕生」はまさに大手の地位にあるのだが、競争もすでに激しい領域だ。AppAnnie社によれば、2019年における世界の非ゲームアプリの消費支出1位はマッチグループの「Tinder」(ネットフリックスは1→2位に)であり、手強い競合である。「オンライン婚活サービス戦国時代!―日本人の意識変化とマッチングアプリの普及の現状を整理してみる―」に状況はまとめたので、詳しくはこちらを参照されたい。

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AbemaTVの有料会員数は51.8万人とまだまだ発展途上だ。既存テレビメディアやニコニコ動画・生放送(しっかりしてくれKADOKAWA!)の領域を蚕食しつつあるものの、収益化の道筋は現状まだ見えてはいない。力を貯める時だ。

広告事業はインターネット広告を展開しているが、増収の一方で利益は停滞局面を迎えており、業界の大手プレイヤーでありながら、次なる成長を模索する局面にある。

ゲーム事業はモバイルゲームを多数展開している。代表的な作品は「グランブルーファンタジー(AppAnnie社によれば2019年の日本のゲームアプリ消費支出の7位)」、「プリンセスコネクト」「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」などである。「バンドリ!」は新日本プロレスを運営するブシロードの主力コンテンツの一つであり、スマートフォンゲームにおいてはノア、DDTの親会社グループが手掛けるというのは面白い構図だ。多数の定番ゲームを擁するとはいえ、モバイルゲーム市場は成熟しており、右肩上がりの売上・利益成長というわけにもいかないのは悩ましい。

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以上でサイバーエージェントの業況を見てきたが、問題はNOAHにとってどのようなメリットがあるかだ。M&Aやバリュエーション、シナジーに関する専門的な分析は省く。なにぶん今日の今日の話なので、ざっくりとした話を親会社に(なるはずの)サイバーエージェントではなく、あえてNOAH寄りに書いておこう。

一番大きなメリットはなんといっても資本力だ。プロレス団体の商品はレスラーであり、レスラーという人的資本を支える支えるには金が必要だ。上記の通り、サイバーエージェントの業況は余裕綽々で唸るほど資金が潤沢というわけではない。先行投資局面の企業だ。とはいえ、控えめに見積もってもマネジメントやスタッフも含めた人的資本充実に加えて、興行運営・プロモーションの面においても、NOAHは現状以上の投資拡大はできるだろう。

メディア事業において、動画配信サービスの充実は課題だ。ブシロードの決算動向記事で書いたとおり、動画配信サービス「新日本プロレスワールド」が会員数10万人というのも、収益の下支え要因として心強く、雑な単純計算をすれば、10万人×1000円/月で月商は1億円、年間売上は12億円にのぼり、これはユークス時代の新日本プロレスの売上高に匹敵するほどだ。NOAHも同様のサービスを構築するか、AbemaTVのインフラを活用して試合やプロモーションのための動画を配信し、マネタイズしなくてはならない。

しかしながら、こうしたサービスは初期投資およびサービス維持の固定費がかかる。NOAHの場合は、日テレジータスとの関係もあり、過去のアーカイブや放映権も含めてどういった権利の整理をするかも注目点の一つになりそうだ。私の場合、1000円/月でNOAHの試合を見られるようになるならば、AbemaTVに加入する用意がある。だが、問題は私のようなファンが何人いて、どのくらい広がりそうか、サービスを構築したとして損益分岐点を超えるのはいつかということだ。

メディア事業におけるAmebaや、インターネット広告事業も大いに活用して広告宣伝を行う必要があろう。ゲーム事業においては、NOAH・DDTの選手が登場するファイヤープロレスリングのようなゲームのリリースを個人的には期待したい。鈴木鼓太郎がファイプロでよく愛用していたレスラーが「氷川光秀」であったとことは有名だ。もしかしたら、プロレスの未来に向けた先行投資になるかもしれない。

かなり駆け足で書いてしまったが、ひとまずは筆を置く。目先は1/30後楽園ホールのGLOBAL Jr. LEAGUE 2020こそが喫緊の関心であり、リング上の戦いこそが最も重要だ。ビジネスの成長についてはまた改めて書く機会を設けたいと思う。

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