馬車郎の私邸

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ブシロード上場後初の本決算―意外と安泰ではない?新日本プロレス

ブシロードは8月の閑散・悪材料噴出相場で、物色に困った短期筋の人気を捉えたのか、意外にも堅調な動きを見せた。マザーズ上場の小型株は資金流入も流出も早く、実際の業績動向を度外視してトレーディングされることがままある。とはいえ、9/13の大引け後に19年7月期の本決算と20年7月期末の見通しを発表したので、まずは業績面を見てみよう。

決算短信によれば19/7期は売上高322億円(+11%)、営業利益30.6億円(+4%)。PER 25.7倍、PBR4.09倍(9/13時点)のグロース株としてはやや物足りない増収率・増益率と言えよう。売上の伸びが評価できるものの、利益がついてきていないというわけだ。

主力のエンターテイメント事業は決算短信の報告によると以下の通り。

当社グループのエンターテイメント事業は、TCG(トレーディングカードゲーム)部門、MOG(モバイルオンラインゲーム)部門、音楽部門、MD(マーチャンダイジング)部門、メディア部門の5部門で展開しており、特に自社IPにおいてはそれぞれの部門の持つ機能を活用しながら発展させていくビジネスモデルを構築しています。TCG部門は看板ブランド「ヴァイスシュヴァルツ」が発売以来過去最高の売上高を達成し、11年の歴史を経てなお当社売上の柱の1つとして存在感を示しています。MOG部門は「少女☆歌劇レヴュースタァライト-ReLIVE-」と「名探偵コナンランナー 真実への先導者」をリリースし、「バンドリ!ガールズバンドパーティ!」の簡体字版リリース等、海外展開にも積極的に取り組んでまいりました。またメディア部門は年末年始特別番組「24時間バンドリ!TV」の放送や音響制作事業をスタートさせるなど新たな試みによってビジネスの幅を着実に広げております。そして当連結会計年度において特に売上高の伸びを牽引したのは音楽部門とMD部門であり、それぞれ前期比で59.8%増、58.8%増を達成いたしましたこの牽引を支える要素の1つは「バンドリ!」IPの成長であり、「バンドリ!」IPは当社が目標としている「年商100億円以上のIP」まであと一歩と迫ってまいりました。これらの結果、売上高26,675,397千円(前期比11.8%増)、セグメント利益2,450,367千円(同13.5%増)となりました。

エンタメ事業は二桁増収・増益であり、合格点だろう。アニメのCMというとKADOKAWAとブシロードがガンガンやっているイメージがあるが、そうした費用を吸収して増益が出来たようだ。カードゲーム「ヴァイスシュヴァルツ」は、KONAMIの「遊戯王」や老舗の「マジック・ザ・ギャザリング」が健在ななかで、しっかりと存在感を示している模様。「バンドリ!」は、エンタメ事業の約3分の1ほどを占めているようだが、どの程度勢いを持続できるが注目点となろう。

だが、問題はスポーツ事業だ。こちらは利益面で足を引っ張る要素だ。決算短信から状況を見てみよう。

スポーツ事業の主たる柱である新日本プロレスにつきましては、興行数は前期に比べわずかに減少したものの、中規模~大規模の興行を連日同一会場で開催する施策により、集客数は増加し、興行日程の効率化を図ることができました。結果、新日本プロレスの興行部門売上は、前期比で12.8%増を達成いたしました。また、2019年4月にはニューヨークにあるマディソン・スクエア・ガーデン(MSG)での興行をアメリカのプロレス団体ROHと共同開催しました。新日本プロレス創立以来初となるMSG大会は、海外興行において過去最高である16,534人を動員し、今後の海外事業拡大への弾みとなりました。コンテンツ部門につきましては動画配信サービス「新日本プロレスワールド」が会員数10万人を達成MD部門につきましては、興行集客数の増加に加え、積極的なキャンペーン展開、コラボアイテム等の新商品の開発・市場投入により堅調に推移いたしました。今後とも新日本プロレスブランドは当グループを支えるIPの1つとして、グループ一丸となって成長させてまいります。また、(株)キックスロードで展開するキックボクシングブランド「KNOCKOUT(ノックアウト)」につきましても、1つのIPとして確立すべく、2019年5月より新体制でのリブランディングを推進しております。これらの結果、売上高5,500,442千円(前期比9.6%増)、セグメント利益608,269千円(同21.1%減)となりました。

新日本プロレスは国内シェアナンバーワンのプロレス団体であり、スポーツ事業絶対額として55億円の売上高とセグメント営業利益6億円は立派だ。しかし、前期比21%の営業減益は株式市場の目からするといただけない。グロース株に与えられる高いバリュエーションと期待値は成長あってこそなのだから。エンタメ事業の足を引っ張るのは良くない。一過性費用や戦略的な先行費用がかかったとの言及はなく、単なる費用増による減益と見るのが妥当だろう。詳しくは、今週の決算発表説明会を待つ必要がありそうだ。キックボクシングブランドの損失や利益がどの程度かはわからないが、このセグメントにおける影響はそう大きくはないだろう。

明るい面としては、集客数は増加を主因に、19/7期末新日本プロレスの興行部門売上は前期比で12.8%増となっている点だ。興行日程の効率化についても、巡業経費節減の観点で良い施策だ。動画配信サービス「新日本プロレスワールド」が会員数10万人というのも、収益の下支え要因として心強い。雑な単純計算をすれば、10万人×1000円/月で月商は1億円、年間売上は12億円にのぼる。もちろん運営経費も相当にかかるとはいえ、ブシロードがユークスから新日本プロレス2012年に買収した頃の売上が10億円ほどだったそうだから、立派なもんだ。

各会場はしっかりと埋めており、国内でこれ以上集客を伸ばすのは容易ではないと見るならば、動画配信サービスの拡大と海外市場の拡大に活路を求めるのは妥当だ。以前書いたように、タカラトミーからやってきたハロルド・メイ社長の手腕に期待したいところだ。

しかし、エンタメ事業が好調な裏で、スポーツ事業が減益により足を引っ張っているのはよろしくはない。会社全体としては利益率が悪化するからだ。19/7期のスポーツ事業の増収率は前期比9.6%となった一方で、前期比21%もの大幅営業減益というのは、かなり大きく費用が増加したと見られる。会場使用料や運営経費など諸々あるのだろうが、昨今の選手獲得の状況を踏まえれば、おそらく最大の要因は人件費と考えるのが自然だろう。

一プロレスファンとして素朴に感じるのは、レスラーを抱えすぎているという点だ。(ちなみに私の推しは“キング・オブ・ダークネス”EVIL選手だ。週プロのインタビューの丁寧な受け答えが魅力の一つ。真壁選手も動画を作るくらい好きだったりする。)選手紹介を見ると実に73名も所属レスラーがいる。このうち31名(!)が外国人レスラーだ。

よく言えば分厚いレスラー層を誇っているとも言えるし、悪く言えばせっかくの良いレスラーたちをダブつかせているとも言える。ベルトがあまりにも乱立しており、ややこしいばかりか、IWGPヘビーは特定のレスラーしか戦線を形成していない。タッグベルトはヘビー、ジュニアともビッグマッチで3WAY、4WAYマッチをやらざるを得ないのは感心しない事態だ。

例えばある興行を全8試合と仮定してモデルケースを考えよう。メインまでの4試合でタッグとシングルを2試合ずつと考えれば4×2+2×2で12人。その前の4試合で、8人タッグを2つとタッグマッチを2つやると16+8で24人。合計8試合で出場できるのは36人であり、これでやっと所属レスラーの約半分だ。

大量の外国人たち、ヤングライオンや生え抜き、永田ら第3世代などベテラン勢、鈴木軍の面々、旧ノア勢など、彼らはそのポテンシャルを十二分に発揮しているのだろうか。彼らのレスラーとしてのキャリアを考えると、中には今の新日本プロレスのカード編成の中に埋没してしまっているように見える選手もいる。それも競争社会なのだからという見方もあろうが、やはり73名というのは適正規模を逸脱している可能性が高い。

サブブランドの立ち上げやネット配信用の試合、他団体派遣・武者修行、アメリカ市場におけるエリアを限定した橋頭堡構築と常設会場・ツアーによる興行の本格化などを考える必要がありそうだ。なんにせよ経営資源であるレスラーたちを、より活かせる方法をもっと模索すべき局面にあるかもしれない。

ブシロードは新年度の見通しについて、20/7期は売上高360億円(+12%)、営業利益31.4億円(+1%)を見込む。エンタメ関連産業が期初予想を保守的に出してくるのは世の常だが、1%の増益見通しはやはり寂しいものがある。9/17の取引は決算を受けて買い先行で始まったものの、勢いは続かず、前営業日0.76%安で取引を終えた。さて、会社側の今後の見通しについてのコメントを見てみよう。

2020年7月期はこれまでの「IPディベロッパー」戦略を踏襲し、IPの国内外での拡大への取り組みを着実に進めつつ、投資や協業も含めた新たな挑戦を継続してまいります。エンターテイメント事業につきましては、引き続き各部門の事業を伸張させながら、特にMOG部門において、「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルALLSTARS」や「カードファイト!!ヴァンガードZERO」など有力な新作タイトルのリリースを中心に売上高を拡大させてまいります。一方で「D4DJ」や「ARGONAVISfrom BanGDream!」などの新規IPを育成・発展させるために、売上高の二桁成長を目標に置きつつも開発費及び宣伝費への積極的な投資を行ってまいります。それらによって既存IPの上に新規IPを積みあげる積層型の収益モデルをより確固たるものに成長させていき、中長期的な企業価値向上を目指してまいります。スポーツ事業につきましては、新日本プロレスを中心に、メディア事業拡大によるコンテンツ部門の成長促進や米国を主とする海外展開の拡大、また東京ドームでの2連戦など規模拡大によるさらなる興行部門の伸長を図ってまいります

エンターテイメント事業は順調な見通しを示す一方、開発費・宣伝費も相応に投下する予定のようだ。スポーツ事業は、今年のG1の興行と東京ドーム2大会の客入りが、大所帯に見合ったかたちでどの程度損益分岐点からの上積みを増やしてくれるか。また、新日本プロレスワールドの会員数が10万人を超えてどこまで伸びるかが注目点だろう。海外展開についてはハロルド・メイ社長が描く戦略の実効性に期待したいが、1年で成果が出るタイミングではないだろう。

なんにせよ、週刊プロレスとワールドプロレスリングの番組、株式マーケットを見つつ、ブシロードの今後を見守っていこうと思う。願わくばWWE(ワールド・レスリング・エンターテイメント)並みのコンテンツ産業の銘柄に育ってほしいものだが、私が本当に見たいのは単にリング上の戦いの充実のほうなのかもしれない。

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