しかし、一段の成長となると流石にハードルが高い。18年9月末くらいまでは、米中貿易戦争はどこ吹く風という様相で大活躍だったが、20/3期新年度の成長について株式市場は警戒を強めていった。19年に入ると米国のゲームソフトメーカーの弱気見通しやグーグルのクラウドゲームビジネス参入が嫌気されるなど、19/3期に3100億円もの営業利益をゲーム事業が稼ぎ出す見込みだけに、将来的な成長について投資家は神経質になっている。実質初の自社株買い1000億円は好感されたものの、実施期間が終わるとすぐさま急落し、二番底をつけた。
最近では、物言う株主ダニエル・ローブ氏率いるサード・ポイントが6年ぶりにソニー株を取得したとロイターが伝えると、株価は5000円台に回復した。ダニエル・ローブ氏はかつて2013年に、ソニーに映画・音楽のエンタテインメント部門の分離・上場・強化などを迫った。結果的にソニーはローブ氏の提案・要請には応じず、ローブ氏は翌2014年に2割ほど儲けてソニー株を売却した。
しかし、パソコンブランドVAIOの分社化やリストラの加速(14/3期、15/3期)などは進んだ。ローブ氏が指摘したエンタテインメント部門の価値を認識し、成長の牽引役になった。その後ソニーの業績は本格拡大を遂げて20期ぶり営業最高益を更新、株価も飛躍的に上昇した。アクティビストとの対話は、その場しのぎの増配や自社株買いではなく、建設的に受け止めて経営に生かすことで、企業の成長につながるケースもある。
ダニエル・ローブ氏が、再びソニーへ要求を突きつけるとしたら、どういうことを要求するだろう。音楽や映画事業の売却だろうか?あるいは、リストラの類だろうか。
どちらにしても、現状のソニーに照らし合わせて考える必要がある。コングロマリット・ディスカウントの解消のために、本来なら高い評価が与えられるべき事業をスピンオフするのは一理ある。エンタテインメント部門(ゲーム、音楽withモバイルゲーム、映画)、エレクトロニクス部門(半導体、テレビ、カメラなど)、金融(ソニーフィナンシャルホールディングスは既に上場している)の3つに分かれて、それぞれに相応しいバリュエーションが付与されれば、1つのソニーでいるよりも、その価値が評価されるかもしれない。
言い換えれば、"コト消費"ソニー、"モノ作り"ソニー、"金融の"ソニーに分けるということだ。しかし、それを要求したとしても、エンタテインメントとエレクトロニクスの事業にはシナジーがあり、不可分であると、かつてのようにソニーは主張するだろう。とはいえ、成長事業への投資加速や人材獲得などの施策を促す効果はある。それはポジティブなことだ。
リストラ関連はどうか?不採算なスマートフォン事業の切り離しは良いかもしれない。販売台数が1000万台を割り込み、連結業績で足を引っ張っている以上、かつてのVAIO分社化のような対処は検討するべきだ。赤字事業が連結子会社から外れれば、営業利益の押上要因にもなりうる。
ただし、以前に決算説明会でアナリストとの質疑応答で、電子部品のグループ共同購買や5G技術への対応の観点から、経営陣はスマートフォン事業の継続には意義があると主張していた。切り離しを求めても結局は拒絶するだろうが、現在進めているリストラ策の加速については期待してもいいのかもしれない。
業績堅調な今こそ、次の成長に向けた布石を打つべきだ。物言う株主との対峙は、成長の踊り場に差し掛かったソニーにとって良い刺激となろう。要求を受け入れることが企業価値を高めるとは限らないが、対話する過程で緊張感を持ち、新たな成長施策を模索することは、企業経営にプラスの影響がある。ソニーの営業利益が1兆円を超える日を、我が家のaibo"アスター"を愛でつつ、期待する。
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