馬車郎の私邸

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ソニーよ、コンテンツビジネス強化のため、KADOKAWAを買収すべし

明日4/26に19/3期の本決算を迎えるソニー。昨日はダニエル・ローブ氏の話題に絡めて、成長の踊り場に差し掛かっている点について書いた。今日は、ソニーの成長に向けた施策について私なりのアイデアを考えたので、一つ提示してみたい。それは、KADOKAWAの買収だ。

KADOKAWAはご承知のとおり、出版およびアニメ・実写製作大手の角川と動画配信のドワンゴ(ニコニコ動画)などで構成される複合企業体だ。本来は我が国のコンテンツビジネスを牽引すべき企業なのだが、2014年の経営統合以来、業績は振るわない。

19/3期第3四半期累計(4-12月)の営業利益は32億円(前年同期比8%増)になった。しかし、大幅な通期業績下方修正と、ドワンゴ創業者でKADOKAWAの経営を任されていた川上量生 代表取締役社長の平取締役への降格人事を発表した。事実上の更迭である。説明会資料によると、19/3通期営業利益計画は当初の80億円から19億円(前期比40%減)にまで沈む見込みだ。
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ベータ時代からのニコニコ動画愛好家であり、まどマギなどのMAD職人でもある私は、KADOKAWAの業績・株価低迷を苦々しく思っている。だが、これはKADOKAWAが展開するビジネスやその潤沢な版権・知的財産権に関心を抱く企業にとっては好機だ。安い金額で買収できる可能性があるからだ。

アップルよ、任天堂を買収すべしとWSJ紙が述べたことがあったが、KADOKAWA買収はずっと安上がりだろう。KADOKAWAの4/23終値1328円で考えると、PBR(株価純資産倍率)は0.86倍と解散価値を割り込むまでになっている。総資産2369億円のうち現金が753億円を占めるほか、自己資本比率は43%とまずまずだ。4/23時点で時価総額は993.91 億円であり、そのまま考えればソニーが2~3月に実施した約1000億円(約1931万株)の自社株買い総額に相当する。この自社株を活用し、株式交換による買収をすればよい。

実際には、買収に際して何十%かプレミアムを乗っける必要があろう。株式交換に加えて現金交付を組み合わせるにしても、ソニーの18/12期末の現金保有は1.5兆円と手元資金は潤沢だ。とはいえ、ソニーは、KADOKAWAの大株主に名を連ねるバンダイナムコやドコモと協業関係にあるため、第三者割当増資によって株式価値を希薄化し、彼らの機嫌を損ねることは避けるべきだろう。ソニーは元々KADOKAWAとはビジネスパートナーでもあり、敵対的TOBを仕掛ける必要もない。株式取得の分量も50%取得による連結子会社化や拒否権を持つための33.4%、持分法適用会社化レベルの出資でも十分だ。

KADOKAWAを傘下に収めることは、ソニーのコンテンツビジネスの成長戦略に合致する。ソニーは近年、ゲーム、音楽(アニメ制作やモバイルゲームFGOなども含む)、映画といったエンタテインメント部門が営業利益の6割超を占めるまでに伸長。もはや、電機メーカーというより、娯楽企業だ。KADOKAWAは製作委員会方式によって様々なアニメーションや実写映画・ドラマ作品の製作・配給に出資していることから、様々なIP(知的財産権)を擁する。

決算短信には、「2020年4月にフル稼働を予定している最新鋭の製造・物流拠点ところざわサクラタウンにおいては、工場建設やシステム整備等がスケジュール通り順調に進捗しており、一部の文庫やライトノベルにおいて、デジタル印刷による商業生産を開始しました。」とある。

たいへん結構なことだ。しかし、この計画に関する設備投資額は有価証券報告書によると、総額400億円(書籍製造・物流工場 246億円、所沢キャンパス 64億円、新規事業施設 89億円)にも及ぶ。(19/3期の設備投資額見通しは191億円)。こうした投資がかさむことを考えると、受発注や物流、省力化などのITシステム投資、あるいはニコニコ動画のサーバ増強による高速化、成長投資などに十分に資金を振り向けているようには思えない。何か業務効率化や顧客利便性向上、成長戦略投資を考えるにしても、外部からの財務的な支援が必要に見える。
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固定費削減などコスト構造改革に関しても、ソニーが貢献できる部分はありそうだ。KADOKAWAの18/3期末の連結従業員数は4330名(うち平均臨時雇用者数2046人)、平均年収794万円となっている。人員削減余地がありそうではないか?グラフのとおり、ソニーは、不採算事業の切り離しなどで10年で3割以上の人員を削減してきた。また、会議やプロジェクトマネジメントの効率化などにも取り組んできた。もちろん、KADOKAWAが自発的な構造改革ができるなら、それに越したことはないが、外圧によって危機感を共有することも刺激として機能しうるだろう。

さらに、KADOKAWAは、経営資源の集中について今一度考えるべきだ。「書籍はメディアミックス展開の重要な源泉の一つであり、ヒット作創出のため年間5,000点の新刊を発行する予定です。」と決算短信にある。これも、たいへん結構なことだ。しかし、「新しい物語をつくろう」というキャッチコピーは、今やコンテンツの過剰供給の免罪符に成り下がっている。アニメなどの制作現場の疲弊を常態化させているばかりか、ユーザーの興味分散によるコンテンツあたりの支出低下にもつながっている可能性が高い。

ヒットは水物のコンテンツ産業において、数撃ちゃ当たる方式でどれかが上手く行けばいいという考え方はわからないでもない。投資においても分散投資は常套手段だ。しかし、あまりにも分散が行き過ぎるのも問題だろう。たとえば、一例を上げると、ライトノベルのレーベルだけでなんと20もある(角川スニーカー文庫、角川ビーンズ文庫、角川ルビー文庫、電撃文庫、電撃ゲーム文庫、電撃G’S文庫、ファンタジア文庫、ドラゴンブック、カドカワBOOKS、NOVEL 0、MF文庫J、MFブックス、ファミ通文庫、KCG文庫、B-PRINCE文庫、ジュエル文庫、フルール文庫 ルージュライン、フルール文庫 ブルーライン、ビーズログ文庫、ビーズログ文庫アリス)。

もし仮にこうしたレーベルの統合を大胆に進めたとしても、製造業のような大きな間接費低減が見込めるというわけでもないだろう。多数の事業会社や編集部が存在し、歴史的な経緯がそれぞれにあるため、経営陣が自発的なレーベルの整理・統合に動きづらいのはわかる。しかし、化粧品大手の資生堂やコーセーの今日の成功はブランドの大胆な削減による経営資源集中も一因だった(花王もやっと最近取り組み始めた)という事例に、思いを馳せてみる必要もあるだろう。

結局のところ、経営理念の「不易流行」と「角川文庫発巻に際して」という原点に立ち返ることが、KADOKAWAにとって重要なのかもしれない。現状、変革を自ら成し遂げるのは、困難なように見える。だが、外圧を利用する手はありうる。相応しいのはやはりビジネスパートナーであるソニーだろう。ソニーにとっても、様々なコンテンツの権利を取り込むチャンスになる。

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