馬車郎の私邸

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サイバーエージェントによるノア買収記者会見・その後の株価の動きなどについて

機を捉えて急ぎ書いた「緊急執筆!ノアとDDTファンのためのサイバーエージェントってどんな会社?講座」記事は丸藤副社長にリツイートされたため、サイバーエージェントのおおざっくりな全貌と現況とが、多くの人に伝わったようで良かった。少なくともSWSのようなことにはなるまい。

今日は、サイバーエージェントによるノア買収記者会見の内容を軽く振り返った上で、その後のサイバーエージェントの株価の動きなどについて見ていこう。あえて途中で様々な企業にも言及しているが、ひとまず読み進めていただきたい。

1/29付でサイバーエージェントによるノア買収が正式発表されたが、プレスリリースグループ参画に関する記者会見は総じて安心感がある内容だった。29日は順当な決算内容のNECではなく、半導体製造における洗浄装置の大手スクリーンの決算説明会に行っていた。半導体市況の回復のなかでの受注の先送りに、アナリストたちが様々な質問を経営陣に浴びせるなか、左耳でこっそり記者会見をイヤフォンで聞いていた。

要点をまとめると以下の通りだ。
・ノアはサイバーエージェントの100%連結子会社になる。
・ノアとDDTプロレスは同じグループ企業として営業・広報などオフィスワークを共有する。大社長こと高木三四郎はノア社長も兼務し担うのは企業経営部分。現場に関しては一切タッチせず、プロレスリング・ノアの選手・スタッフに一任。
・武田有弘氏は執行役員として経営陣に残る。
・丸藤選手は再び副社長に就任する。
・リデット社は引き続きスポンサーとして残る。ザ・リーヴ社も。
・サイバーエージェントの藤田社長が高木社長の手腕を高く評価してる点が印象的であった。
・杉浦選手は変わらず"会社の犬"であり続ける(ここ重要)。
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高木社長に私が期待するのは、まず第一にCCCの改善だ。かつてアップルもパナソニックもまずはここから立ち直った。一から事業を起こした実績を持つだけに、こうしたことに熟知していることは想像に難くない。サイバーエージェントの資本が入ることによって、倒産の心配はひとまずしなくて良さそうだが、上場企業の子会社になり社会的信用を得る一方で、きっちりと収益を上げるという責務も負う。これまで以上に大胆な投資もできるようになった一方で、コストマネジメントを中心に財務規律は一層強化する必要があろう。

もう一つはメディア戦略だ。娯楽が多様化し、デジタルに様々な情報を浴びるこの時代、プロレスラーの試合というコンテンツを消費者により幅広く届け、前向きな感情を沸き起こさなくてはならない。ファンを創出するには、相応の先行投資費用がいる。まさに新・親会社のサイバーエージェントがAbemaTVに先行投資費用を投じているわけだが、その波を捉えて費用対効果に優れた方法を優先順位をつけて順次打ち出す必要がある。

さて、こうした一連の流れから、サイバーエージェントはプロレスリング・ノア子会社化を好感し、約16%の力強い逆行高を演じた…と書きたいところだったが、実際には20/9期第1四半期決算の内容が、事前の期待値が低い中で好感され、買い戻しの動きや短期筋の買いを集めたというのが正確な説明だろう。前年同期が非常に不振で増益のハードルが低く、ネット広告の収益復調やAbema有料会員の順当な伸び(59.3万人、19/9期は51.8万人)が評価されたのだろう。
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とはいえ、門出の祝いとしてサイバーエージェントの株価の急伸は悪いことではない。なにしろ、この日29日の日経平均株価は1.7%安だったのだから。サムスンの堅調な見通しや米ラムリサーチの楽観的な半導体製造装置市場の見通しをあざ笑うかのようにザラ場は総じて振るわない展開。新型肺炎の消費や生産動向への影響度に対する警戒感が高まり、春節休場明けの中国はハンセン数・香港市場が約2.7%、さらには台湾5.75%の大幅下落に引きずられる展開だった。

翌30日のノアGLOBAL Jr LEAGUE 2020の前には力強い決算内容の富士通ではなく、、半導体の前工程製造装置の国内最大手・東京エレクトロンの決算説明会後に駆けつけた。この日の大会は大いに盛り上がり、株式市場にも熱が伝わり、翌1/31のサイバーエージェントの株価は大幅続伸の前日比+4%の上昇(4,415円、前日比+170円)、自律反発した日経平均株価の上昇幅+1%高(終値23,205.18 円、前日比+227.43円 )を上回った…と書きたいのだが、この説明も正確ではなく(そうであってほしいのは山々だが)前日の流れが続いたと見たほうが良いだろう。なお、この日富士通は力強い決算内容と自社株買いが評価され急騰した。

週明け2/3の日経平均株価前週末比1%安(22,971.94円、前週末比-233.24円。1/31の米国市場の下落の流れを引き継いだ。サイバーエージェントの終値は前週末比-0.6%程度の下落にとどまった。(4,390円、前週末比-25円)

以上で、サイバーエージェントの傘下入り後の株価の動きをざっくり追ってきた。新型肺炎の影響にマーケットが警戒感を強めるなかで株価が大幅上昇したことは素晴らしいのだが、大局的には行きつ戻りつの相場の中にある。それもこれも、サイバーエージェントの各事業の成長が鈍化し増収ながらもその伸び率が縮み、AbemaTVに対する先行投資費用故に、営業利益は300億円前後で横ばっているからである。したがって、NOAHとDDTはAbemaTVのコンテンツとして魅力ある存在になることが求められている。我々ファンはリング上の戦いに熱中してさえいればよいのだが、一方で上場企業の連結子会社になるとは、こうした目線も向けられるのだということも心の隅に覚えておいてほしい。

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さて、ここまで意図して日本を代表するエレクトロニクス(and IT)企業についても言及してきた。その理由は、厳しい外部環境であっても順当に利益を伸ばしている企業はしっかり株式市場から評価されており、もちろん復活についても同様だ。下のチャートはNECと富士通の3年相対株価チャートだ。意外に思われるかもしれないが、米中貿易摩擦に伴う世界経済の減速感にも関わらず、大筋右肩上がりとなっている。日本のだめなオワコン企業と見做している人も多いだろうが、リストラの一巡に加え、国内ITの堅調さに支えられて、急速に収益性が改善している。遥かに規模の小さいNOAHも経営の舵取り次第では蘇る余地はある。

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もちろん、高付加価値なプロダクトを有する企業は高い収益性の維持が可能で、売上が落ち込む局面でも一定の収益の確保。かつて隆盛を誇った日本の半導体企業は、今となっては世界の売上上位15位に入るのはCMOSイメージセンサーのソニーと、NANDフラッシュメモリの(旧・東芝メモリ、東芝が約40%の持ち分を保有)のみだ。しかし、半導体の素材・部材に加えて、高い競争力を有する製造装置企業は健在である。代表的なのは東京エレクトロン(前工程:塗布・現像、洗浄、エッチング、成膜など)やアドバンテスト(後工程:半導体が正しく動作するかをテストするテストシステム)などだ。こうした企業は、他社には真似できない極めて高精度か高難易度な技術を背景に、高い利潤を誇る装置の販売・保守サービスを行っている。

ここで、NOAH(もちろん、DDTも)が意識すべきは、プロレスのコンテンツのなかにおいて、どういった競争力を持つブランドなのか再認識し、そのうえで次の展開を考えることだ。拳王選手は、昨年1年間NOAHのブランド力はめちゃくちゃ高まったよな?と述べた。その評価は重要だ。だが、その中身を分析する必要もある。たとえばSWOT分析(外部環境や内部環境を強み :Strengths、弱み :Weaknesses、機会 :Opportunities、脅威 :Threats)は一つのツールになるだろう。

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次は、電機大手を並べたものだ。かいつまんで言えばいわゆる総合電機の中ではソニーが圧倒的で、NOAHあるいはサイバーエージェントが見習うべきは、大企業の中ではエンターテインメント事業が主力の(ゲーム・音楽・映画が営業利益の6割以上)ソニーだろう。私個人は、NOAHのプロレスは素晴らしいと感じているが、プロダクトプッシュするだけでは良い経営にはならない。プロレスラーの試合というNOAHのコア・プロダクトをどのようなチャネルを通じて、どのように届け、マネタイズするのか。これが最も重要である。ヒントは米津玄師やFateシリーズにあると私は見ている(本来ならばKADOKAWAが育てるべきだった

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さあ、まとめに入ろう。杉浦選手は、「いい景色も悪い景色も、見たくもない景色も見てきた」と述べた。それは株式市場も世界経済・日本企業も同じだ。杉浦選手が自衛隊員として国を守り、NOAHを20年守ってきたのは今更説明するまでもない。この20年間で様々な変化を生き抜いてきたのは、変化を遂げ続けた企業である。世界各国の産業構造、テクノロジーの進化、消費者の嗜好や懐事情など時代の激しい変化は枚挙にいとまがない。

このような状況下で、選手オーナーが経営する興行団体という旧来の伝統的なプロレス会社の形態では、もはや対応しきれなくなったのである。NOAH、DDTを擁するサイバーエージェントは、企業経営化によってひとまずの隆盛を見た新日本プロレスの良いところはお手本として取り入れ、一方でチャレンジャーとして差別化するべき点はしっかり違いを打ち出して、その上で新たな試みにも果敢に挑み、新しい景色を見せてくれると期待している。