馬車郎の私邸

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ローマ皇帝だって朝起きるのは辛い…:「自省録」マルクス・アウレリウス・アントニヌス、岩波文庫

高校の世界史で"哲人皇帝"マルクス・アウレリウス・アントニヌスという長い名前に辟易した人は多いだろう。その名前とともに著書「自省録」の名前も覚えれば、文化史の方でも点を稼げるかもしれない。とはいえ、棒暗記だけでは虚しい。

だが、実際に「自省録」を読んでみると、1800年前ものローマ皇帝にぐっと親近感が湧いてくるだろう。これは彼の私的なメモであり、公刊する意図はそもそもなく、自分自身のためのセルフ・ライフハック集なのだ。彼ほどの傑物の考えの一端は覗き見るだけでも実は面白い。

春眠暁を覚えずというが、5時半のアラームをスマホと目覚まし時計を両方を即座に消して、二度寝するのは心地よいものだ。しかし、激務に耐えるローマ皇帝は「自省録」に以下のように書いて、自らを鼓舞している。

第五巻 一 明けがたに起きにくいときには 、つぎの思いを念頭に用意しておくがよい。「人間のつとめを果すために私は起きるのだ。」

「人間のつとめを果す」という叱咤激励具合がいかにも大げさで愉快である。しかもこれだけでは終わらない。

自分がそのために生まれ、そのためにこの世にきた役目をしに行くのを、まだぶつぶついっているのか。それとも自分という人間は夜具の中にもぐりこんで身を温めているために創られたのか。「だってこのほうが心地よいもの。」では君は心地よい思いをするために生まれたのか、いったい全体君は物事を受身に経験するために生まれたのか、それとも行動するために生まれたのか 。

「だってこのほうが心地よいもの。」思慮深いローマ皇帝といえども、お布団には勝てないのか!?「行動するために生まれた」という前提をおかねば、お布団の魔力の軛からは抜け出せないのである。そう、行動するのだ!

小さな草木や小鳥や蟻や蜘蛛や蜜蜂までがおのがつとめにいそしみ、それぞれ自己の分を果して宇宙の秩序を形作っているのを見ないのか。しかるに君は人間のつとめをするのがいやなのか。自然にかなった君の仕事を果すために馳せ参じないのか。「しかし休息もしなくてはならない。」それは私もそう思う、しかし自然はこのことにも限度をおいた。同様に食べたり飲んだりすることにも限度をおいた。ところが君はその限度を越え、適度を過ごすのだ。しかも行動においてはそうではなく、できるだけのことをしていない。

「しかるに君は人間のつとめをするのがいやなのか。自然にかなった君の仕事を果すために馳せ参じないのか」務め、仕事!適度な休息をとって仕事に行く。ローマ皇帝だって、そうなのだ。我々ごとき社畜サラリーマンが、人間の務めである労働に勤しむべく、気力を振り絞って起き、仕事へ行くのは当然のこと(?)と思って、頑張ってみよう。ローマ皇帝気分になれる。

第六巻-二  君が自分の義務を果すにあたって寒かろうと熱かろうと意に介すな。また眠かろうと眠りが足りていようと、人から悪くいわれようと賞められようと、まさに死に瀕していようとほかのことをしていようとかまうな。なぜなら死ぬということもまた人生の行為の一つである。それゆえにこのことにおいてもやはり「現在やっていることをよくやること 」で足りるのである。

「現在やっていることをよくやること 」すなわち、「今、ここ」に集中することだ。あれ、これって最近シリコンバレーで流行りのマインドフルネス
ってやつなのでは…?お仕事の要諦は、案外シンプルなことなのかもしれない。

【ブログ11周年記念記事】人生を変えた7冊の本についてにも幾分取り上げてみたが、他にも面白く、ためにもなる文章がたくさんあるので、またの機会に紹介するとしよう。「自省録」は古典としてはとっつきやすいのでおすすめです。

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