馬車郎の私邸

漫画、アニメ、ゲーム、音楽、将棋、プロレス観戦記など「趣味に係るエッセイ・感想・レビュー記事」をお届けします!ある市場関係者のWeb上の私邸

アメリカを覆う中毒と依存症の病理―砂糖、電子タバコ、ドラッグ、大麻、ゲーム、SNS

物質的な豊かさや、テクノロジーの便利さは現代の象徴であり、素晴らしいことだ。しかし、それゆえに様々な中毒や依存症が現代人を蝕み続けている。特にそれは世界最大の経済大国にして覇権国家であるアメリカに顕著だ。その他の先進国も新興国も多かれ少なかれ近づいていることに変わりはない。アメリカ人の病理は、現代人の病理だ。

代表的なものは、砂糖、電子タバコ、ドラッグ、大麻、ゲーム、SNS…ざっとこんなところだ。それぞれ程よく使えば良いのだが、恐ろしい中毒や依存症にまで発展している。ゲーム、SNSでいきなり死んだりはしないし、人によっては人生を良い方向に導いていないとも限らないが、さしあたり全米のおよそ半分の州において、直接的な死因として薬物中毒や自殺、糖尿病が20~55歳の「早過ぎる死」を招いているようだ。

心疾患と肺がんは1990年~2016年のあらゆる年齢層の上位2つの死因であることに変わりはない。高血圧、高脂血症、喫煙、肥満、糖尿病など様々な因子が動脈硬化に繋がり、最終的に何らかの心疾患に至る。肺がんは喫煙などが主な要因だろう。アルコール、タバコは今も昔も定番だ。さらに注目すべきは、20~55歳での死亡の増加のうち大半を占めたのが、薬物使用や精神衛生上の問題、肝硬変、糖尿病による死亡によるものだということだろう。

まず第1に、お砂糖からだ。私も甘いもの好きなのだが、現代人を中毒にしているものの代表格だ。単にお菓子だけでなく、美味しいスイーツや、コーヒーチェーンの飲み物でもおなじみだ。「スタバのフラペチーノ改革、砂糖を減らせ!」の記事によると、種類にもよるが、フラペチーノには標準的なサイズのスニッカーズ1個に含まれる量の2倍を超える砂糖が含まれている。カロリー数もフラペチーノのほうがはるかに高く、例えばスニッカーズ1個(約53グラム)は250キロカロリーだが、グランデサイズのモカフラペチーノは410キロカロリーもある。

スターバックスは飲料に含まれる砂糖を 2020年末までに25%減らす取り組みを行っており、フラペチーノ改革もその一環だ。カロリーも砂糖も少なく、それでいて口触りについても従前のものとあまり変わりないフラペチーノを開発すべく、様々な工夫を凝らしているようだ。

とはいえ、砂糖を減らすために使われている人工甘味料なら良いかというと、そうでもないのが厄介だ。人工甘味料はその名の通り人工的に作られており、白砂糖に比べ、数百倍、数千倍の甘さを持つ。体重や血糖値が気になるとき、「カロリーゼロ」や「糖質オフ」などが謳われているものなら大丈夫だと思うのは危険かもしれない。

『「お菓子中毒」を抜け出す方法』によると、カロリーがないから太らない、血糖値も上げないといわれているが、人工甘味料で「肥満する」「血糖値が上がる」という研究報告がいくつもあるという。腸内環境に悪影響を与え、肥満や糖尿病のリスクを高めることもあるそうだ。「トランプ大統領とファストフード」で書いたとおり、米国人の4割が今や肥満なのだという。あくまで伝聞情報であり、極端な事例だが、トランプ大統領のようにダイエット・コークを1日12本のペースで飲んではいけない。

第2に、最近大きく話題を呼んでいるのが電子たばこだ。アルトリア・グループは最大手のジュール・ラブズに巨額出資したほか、英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)傘下の米レイノルズ・アメリカンは、フェイスブックやインスタグラムを通じた電子たばこの販売促進実施していた。その結果、今や高校生の5人に1人が嗜んでいるのだという。

全米若年者たばこ調査によると、2018年だけで米国の高校生の電子たばこ使用は前年比で78%増加。生徒数の20.8%を占めるまでになったという。既存の喫煙者の電子たばこ使用は奨励されるべきだという意見がある一方、人生の早い段階でニコチン中毒者を生み出している点で、若者の電子たばこ使用は抑制されるべきだという意見もある。
 
電子たばこは現在、呼吸器疾患を引き起こすとの疑惑がもたれているほか、死者発生も疑われ、当局の調査が続いている電子たばこを手掛けるジュールに米FDAが警告したほか、トランプ政権は電子たばこの販売禁止を検討している。すでにウォルマートは電子たばこ全種の販売打ち切った。とはいえ、闇市場における流通も指摘されており、今後の動向が注目される。

第3に、ドラッグだ。フェンタニルとも言われ、主に麻酔や鎮痛、疼痛緩和の目的で利用される合成オピオイドは社会問題化している。米ピッツバーグ大学公衆衛生大学院の研究者によると、国では薬物の過剰摂取による死者が急増している。過剰摂取の死因としては、ヘロインとフェンタニルなどの合成オピオイドによる死亡率が処方オピオイドによる死亡率を上回っている。新たな処方指針や制限によって処方オピオイドの入手が困難になり、それに取って代わった違法フェンタニルなどの合成オピオイドは極めて強力だ。フェンタニルは最大でヘロインの50倍の強さを持つが、安価で簡単に製造できる。ケシの畑からではなく、化学物質からつくられるためだ

少し古いデータだが、米疾病管理予防センター(CDC)によると、2014年にはオピオイド系薬物の過剰摂取により全米で2万8000人余りが死亡死者は2010年から16年までの7年間に約500%増加しているほどだ。こうした米オピオイド乱用が働き盛りの労働力を奪う一因と指摘する声もある。労働参加率は17年8月時点で62.9%と、2007年12月の66%、ピークだった2000年の67.3%から低下した。その後も完全雇用に近い状況にも関わらず、労働参加率はなかなか上向かないプリンストン大学の経済学者アラン・クルーガー氏は、入手できるデータに限界があるため、因果関係を立証することは難しいと前置きした一方で、重大な関心を払うのに値することは確かだ」と警告している。

もちろん米国もこの問題を放置しているわけではない。トランプ政権は「オピオイド」中毒の研究や治療に向け3億5000万ドル規模の新構想に取り組む。米中間選挙の重要テーマになる可能性も指摘されている。だが、オピオイドの蔓延が終息に向かっているというわけでもなさそうだ。中国からの流入も米中協議の一つの焦点であり、「アヘン戦争」という苦い思い出から、「江戸の敵を長崎で」という可能性もありえない話でもない。

第4に、大麻(マリファナ)だ。まず、カナダにおける合法化は2018年に局所的なバブル相場を起こした。また、米国においてカリフォルニア州では、2018年になって嗜好用の大麻の使用が合法化された。インタビューの生中継で、電気自動車大手テスラのイーロン・マスクCEOが大麻吸引に加えて、「テスラを1株420ドルでで非公開化することを検討している。資金は確保した」とツイートしたことは、当局の調査に発展する異例の事態となった。

ウィーワークのアダム・ニューマンCEOも大麻を嗜んでいるようだ。たしかに合法なのだが、企業経営に好影響を与える行為・習慣であるかどうかは疑わしい。州レベルで合法とされていても、連邦政府が管轄する場所や旅行先の州では合法ではないこともあるそうで、なかなかややこしい。

コーヒーやキャンディーにも大麻の成分が使用されていることもある。複数の企業が、ヘンプ(繊維利用のために品種改良した麻)に含まれる化学物質であるカンナビジオール(CBD)入りの多くの製品を販売している。CBDはガムドロップから飲料まで、広範な食品に添加されており、売り手側は鎮痛やストレス軽減の効果をうたっている。しかし、何がこうした効果をもたらすのか、実際に効果があるのかどうかも不確かだと指摘がある。CBD製品の法的位置付けもはっきりしないようだ。

飲料にも大麻が用いられる。米国で「コロナ」ビールを販売する酒類製造・販売大手のコンステレーション・ブランズは、新たな商機として「マリファナ(大麻)飲料」の市場に食指を伸ばしており、カナダの大麻栽培会社キャノピー・グロースの株式を9.9%取得。その後追加出資した。また、競合の米ビール大手モルソン・クアーズ・ブリューイングもナダの大麻栽培会社ハイドロポセカリーと合弁事業を立ち上げ、同市場に参入した。

中毒と依存症の病理の第5はゲームだ。ただし、これについては以前書いているため、あらためて述べない。よって、以下の記事を参照いただけると幸いである。
ゲームは1日何時間?時間や課金との向き合い方について
"ゲームの"依存症というより、依存症それ自体が問題だ

第6に、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)ないしソーシャルメディアだ。
WSJとNBCの最新の共同世論調査によると、70%に上る人が少なくとも1日に1回はソーシャルメディアのサービスを利用している。図にある通り、良くない面もあると知りつつもやめられないとの回答が多い。
B3-DQ421_0408_1_NS_20190407202827


 例えばフェイスブックを考えもなくやたらとチェックするのは、実験用のネズミが取る行動とよく似ているのだそうだ。。餌を期待して常にレバーを押すネズミのことだ。ご褒美がいつもらえるか分からないため、ネズミはひたすらレバーを押し続けざるを得ない状態になる。こうならないためには、SNSのチェックは一日あたりの回数制限を設けるなどの施策を取る必要がある。

また、以前書いたように、エコーチェンバー効果に陥らないよう、バランスの取れた情報収集と解釈・判断保留の習慣を身につける必要があろう。うなり声を上げるつぶやくネズミたちになってはいけない。米国の大統領自らが率先してツイッターを乱用しているのだからなおさらだ。

以上で、アメリカを覆っている砂糖、電子タバコ、ドラッグ、大麻、ゲーム、SNSと恐るべき中毒と依存症について雑多に見てきたが、私達の生活習慣とテクノロジーがアメリにかに近づいていくにつれてあらためて警戒すべき事象だと言えよう。すべては過ぎては及ばざるがごとしで、何事もほどほどが良い。今日ほど、"中庸"の価値が高まっている時代は他にないだろう。


果糖中毒――19億人が太り過ぎの世界はどのように生まれたのか?
ダイヤモンド社 (2018-09-13)
売り上げランキング: 10,497
僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた
アダム・オルター
ダイヤモンド社
売り上げランキング: 848
依存症ビジネス――「廃人」製造社会の真実
デイミアン・トンプソン
ダイヤモンド社
売り上げランキング: 116,683