馬車郎の私邸

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「SERVAMP-サーヴァンプ-」第1巻、田中ストライク、メディアファクトリー

大学時代のサークルの先輩が、メディアファクトリー刊コミックジーンにて連載をもち、この度単行本を発売されたので、宣伝させていただこうと思います。
~あらすじ~
高校1年生・城田真昼が道ばたで拾った一匹の可愛い黒猫・クロの正体は、「サーヴァンプ」という下僕の吸血鬼。しかも性格は超ひきこもりニート系。契約によってクロの主人となった真昼は、吸血鬼同士の争いに巻き込まれ戦うはめになるのだが……? コミカルでハートフルな、吸血鬼×主従契約バトルファンタジー!

ということで、話のモチーフは、ファンタジーの定番吸血鬼。「ジョジョの奇妙な冒険」「ときめきトゥナイト」といったジャンプ、りぼんそれぞれの傑作を始め、その他多数の作品で吸血鬼を話に組み込んでいる作品は多い。もはや吸血鬼というモチーフは人口に膾炙した感がある。とすれば、この吸血鬼をどのようにして作品に登場させるか、いわば吸血鬼という素材の料理の仕方と味付けが問題なのだ。

この作品においては、タイトルにあるとおり、ServantとVampireを混ぜて下僕の吸血鬼サーヴァンプであることを示し、吸血鬼の真祖は(キリスト教の)7つの大罪「暴食」、「色欲」、「強欲」、「嫉妬」、「憤怒」、「怠惰」、「傲慢」であるとの設定である。さらに、7組の主人とサーヴァンプ、それに8組目まで出てくるあたり、なんだかどこぞの聖杯戦争を彷彿とさせる。こうした設定群は、きっと本作を長期連載にするにあたって機能してくれるだろう。

さて、第1話目の印象は、いかにもジャンプの読み切り、あるいは1話目らしいなというものだ。もちろん、いい意味であり、がっちりプロットが練られていて読みやすい。最初はそりの合わない主人公と相棒が、現れた敵を前にして、共に戦うという過程が描かれていて、類型的な1話目であってもその面白みは決して類型的なものではない。なぜ戦うのかという、この種の主人公に不可欠な動機が、子供時代の生い立ちのエピソードをストーリーに逐次挿入することで、無理なく主人公の心情がわかるようになっている。

主人公のパーソナリティについては、
冒頭の逆説的なフレーズがとてもキャッチーで気に入った。
「シンプルなことが好き、面倒な事が嫌い "だから"猫を拾った
何もしないで後悔するのは 一番面倒臭いことだから」というものだ。
また、「怠惰」の吸血鬼こと、主人公の相棒たるクロは、可愛らしい。
容姿と言うよりも、その行動が、である。なんだか癒される。
主人公の言葉に対するリアクションがいちいち、可愛らしいのである。
怠惰という悪徳をどう描くかで、怠惰が持つ言葉通りの不愉快さとは、まるで違って見えるのだなと驚いた。さらに、本気を出したら豹変するのかと思いきや、けだるい感じのまま戦うのもなんだか面白い。ただ、惜しむらくは、バトルにおける攻撃の手段が今ひとつわかりづらかったことか。

また、絵柄については、たとえば「リボーン」や「D.Gray-man」に近い。話も全体として、ジャンプ的な良さが作品に充満しているように思える。それも、特に不思議なことではない。WSMKは、少女漫画研究会を名乗ってはいるものの、その実態は名称通りでは全くない。常にジャンプが常備されていて、これぞ少女のための漫画と豪語してはばからないのである。リボーンのコミックス売上がりぼんの約3倍という時代には、このようなことは別に珍しくもなんともないのだ。そうした現状を別に嘆いたわけではなかったが、自分はサークルの会誌に、勧められてりぼんの名作漫画についてレビューを寄稿した。レビューの内訳は、水沢めぐみ、吉住渉、柊あおい、小花美穂、椎名あゆみ、高須賀由枝、春田なな、酒井まゆといった面々であった。

それはさておき、先輩はサークル時代から多忙で精力的に漫画を描いていらっしゃった。会誌や共有のらくがきノートにあったイラスト・漫画の面影を色濃く残しつつも飛躍的にレベルアップした作品を、こうして商業誌媒体のコミックスで読めるとは、なんとうれしいことではないか。このような感慨を味わうことができる人は世の中にはそうはいないだろう。そして、自分のような絵を描けない人間にとっては、絵を描ける人間の成功を喜ぶことが、せめてできることなのだ。本作品は、オススメの1冊で、続きも楽しみだ。

ところで、こうした面白い漫画を読むのは楽しいことで、すっかり活字の本ばかり読むようになった今でも、漫画を読むことをやめていないのは、小学生の頃以来漫画というものに魅入られているからである。そしてこの漫画というものは、決して自分自身では創りだすことはできはしないのである。したがって、面白い漫画を読む度ごとに屈折した思いを抱えることになる。たった1冊の漫画という創造物の前には、MBAの学位も、苦労して得た職も、風の前の塵芥と同じく儚く虚しいものに思えてしまう。このことは、漫画好きである自分が、好きなモノを生み出すことができないことから生じる羨望によるものである。ならば、他人が得意とすることを求めてはならない。自分にできることをすることだ。平日の仕事は浮世を生きるためのシノギと割り切り、休日は静謐な読書の世界に浸る暮らしを志向することで、心のバランスを保っていくことが自分にとっては良いのかもしれない。

なんだか古文や漢文の現代語訳っぽい文章になってしまったのは、最近東大の過去問解説をしているからだ。というわけで、塾のバイトも今日で仕事納め。それでは、みなさんよいお年を~そして、先輩、あらためて、おめでとうございます。陰ながら応援しております。