馬車郎の私邸

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『魍魎の匣』(もうりょうのはこ) 京極夏彦、講談社文庫

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事件は人と人ー多くの現実ーから生まれる物語だ。
ならば、物語の筋書き―事件の真相もまた、関わった人の数だけあるのだ。
真実はひとつというのはまやかしにすぎぬ。
事件の真相など、それを取り巻く人たちが便宜的に作り上げた
最大公約数のまやかしに過ぎない。


千ページの文庫版なんて初めて見た。
本がまるで小箱のようだ。
2作目はさらに重厚になっている。
本五冊分に相当する分量だから、読み応えは十分。

謎が謎を呼ぶ展開が、最後きれいに結びつき、思いもよらない結末を迎える。
少女転落事件、厳戒態勢の部屋から消えた手術後の少女、
腕と足しか出てこない連続バラバラ殺人事件、
巨大な箱型の研究施設、女優の駆け落ちをめぐる過去、
異能小説家久保竣公、箱を祀る奇妙な霊能者。

"箱"だらけの話だ!
符合と齟齬の繰り返しが、螺旋のごとく話を展開させていく。

私はこの作品が京極堂シリーズで2番目に好きだ。
しかし、初見で読んだときの受けた衝撃は最も大きかった。
超展開続出で、次へ次へと読みたくなってしまう。

アニメと映画、漫画もある。
アニメは怪奇ムードがあって、なかなか良かった。
映画は実にテンポよくまとまっている。冒頭のネタバレはどうかと思うが。
漫画はまだ読んでいない。

キーワードは「箱」「幸福」「命」「魍魎」「犯罪と動機」「宗教と科学」だ。
印象的な言葉も随所にちりばめられていて、面白みもある。
いくつか紹介するとしよう。

「呪うも、祝うもそれは言葉次第。
あなたの気持ちなど関係ない。
たとえ発する者に嘘偽りはあろうとも、
一度発せられた言葉は勝手に相手に届き、
勝手に解釈されるのです。
問題はどう表現するかではない。どう理解されるかです。」

言葉は聞いた者の解釈が全てというのは、
アルバイトで言葉を使って年収を100万得ている私にとっては、
常に留意しなくてはならないことだ。
犯罪は、社会条件と環境条件と、そして通り物みたいな狂おしい一時の心の振幅で成立する」

様々な背景のもとにきっかけさえ訪れてしまえば、誰でも犯罪を起こしうる。
ふと、犯罪を犯すような瞬間が、私の人生にもあったのかもしれない。
「一瞬でも信用してしまったら、あなたの負けだ。これが呪いと云う、あなた方の分野では扱えない僕の唯一の武器だ」

まさしく言葉の魔法―いや呪いですね。
「馬鹿者!人間は五体満足でないといけないとでも云うのか? 身体のどこが欠損しようと、命ある限り人間は人間だ! 生命の尊さに変わりはない。痛んだ部分を除去しただけだ! 
仮令(たとえ)一分一秒だって延命するのが医学者の務めだ」

割と最近にも「脳死」をめぐる解釈の論争があったように、
この台詞を安易に責めるわけにもいかない、難しい話だ。。
動機もまた、便宜的に作られた1種の約束事に過ぎない。
もしそうなら、犯罪の真相を解明することに何の意味があるのだ!
それを未然に防ぐならともかく、起きてしまった事件に関わるなど、
大いなる無意味ではないのか。
ならば探偵とは、事件―他人の物語―を探偵自身の物語に変換するために関わっている、ただの道化なのではないか。
その翔子に巷間で語られる探偵譚の多くの人が死ぬではないか。
そうでなければ彼らの物語が成り立たないのだ。

推理小説のアイデンティティに痛烈に突き刺さる言葉だ。
ああ、その通りですねとしか言いようが無い。
一方で、お約束の形式美だっていいんじゃないかとも思うが。

あらすじ
暗い性格で友達もいなかった楠本頼子は、クラス一の秀才で美少女の柚木加菜子に突然「私たちは互いが互いの生まれ変わりなんだ」と声をかけられる。不思議な事ばかり言い、難しい文芸雑誌を読む加菜子に戸惑う頼子だが、互いに孤独だった2人は親交を深め、2人で最終電車に乗って湖を見に行こうと約束するが、加菜子は中央線武蔵小金井駅のホームから何者かに突き落とされ、列車に轢かれてしまう。

その列車に、たまたま勤務帰りの刑事・木場修太郎が乗り合わせていた。修太郎は加菜子が運ばれた病院に向かうが、そこへやってきた加菜子の姉・陽子を見て目を疑う。彼女は修太郎が密かに憧れる女優・美波絹子その人だったのだ。
町の医院に運ばれたが、加菜子は手の施しようがない程の瀕死の重傷を負っていた。 「加菜子を救える可能性があるところを知っている」という姉の陽子の意志で、加菜子は謎の研究所に運ばれ、集中治療を受ける。

その頃、多摩を中心にバラバラ死体が相次いで発見される。発見された死体は、いずれも頑丈な「匣」に隙間なく詰められていた。事件を取材する中禅寺敦子と、それに付き合っていた関口、鳥口守彦は森の中で道に迷ううちに謎の建造物を見つける。それは正方形の巨大な、まさに「匣」だった。加菜子はこの中で高度な治療を受けていた。

そして厳戒態勢の中、治療を受けていたはずの加奈子は忽然と姿を消す。修太郎は、陽子が加菜子誘拐の予告状を持っているのを見つける。

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