馬車郎の私邸

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「モンテ・クリスト伯」第5巻、アレクサンドル・デュマ、岩波文庫

第4巻では、ヴィルフォールとダングラール男爵夫人が不倫の結果生まれた赤ん坊を屋敷の庭に埋めたことが、モンテ・クリスト伯爵にはばれているのではないかと気が気でない二人の密談から5巻は始まる。そしてその赤ん坊を貴族に仕立て上げて、もう一人の仇敵の娘の縁談に送り込もうというモンテ・クリスト伯爵の陰謀。すなわち、ダングラールの娘ユージェニーとアルベールの縁談話を、ダングラールの懐事情を利用してアンドレア・カヴァルカンティをアルベールの代わりに推薦するというのだ。

検事総長ヴィルフォールがモンテ・クリスト伯爵の身元を調べ上げるために、伯爵と昵懇のブゾーニ司祭、ウィルモア卿へ使いを送る。しかし、その使いこそはヴィルフォール本人であり、ブゾーニ司祭、ウィルモア卿とはモンテ・クリスト伯その人であった。二人の会話は(正体がばれないか)読者からすると緊張感があって面白い。

また、舞踏会において、モンテ・クリスト伯はモルセール伯爵夫人、つまりかつての婚約者メルセデスとの二度目の対面。こちらは二人とも相手のことがわかってるけれども、エドモン・ダンテスとメルセデスとしては話さない。モンテ・クリスト伯とモルセール伯爵夫人として話す二人の会話はせつない。エドモン・ダンテスの心情が遠回しに語れられるものの、あなたのことは許しても、あなた以外には復讐をする!と固い決意が伯爵の言葉に込められていた。

一方、ヴィルフォール家では、サン・メラン侯爵とその夫人、老僕バロワと次々と死んでいき、検事総長の家に毒殺事件が起こっている事態に、ヴィルフォールの心労は絶えない。しかも、老ノワルティエがヴィルフォールの娘であるヴァランティーヌの婚約者フランツ・デピネーの目の前で、彼の父を暗殺してのけたのはほかならぬこの私であると明かしたことで、婚約はもちろん破談に。ヴァランティーヌはマクシミリヤンと添い遂げたいから、読者とともについにこの時が来た!という気分なのだが、しかしヴィルフォールにとっては二重の打撃というわけだった。検事総長としても、父としてもその面目を傷つけられ、打ちのめされたのだから。こうして、モンテ・クリスト伯爵の復讐はいよいよヴィルフォールを苦悩の淵に追い詰めつつあった。実際に復讐が実行に移されつつある展開は、1巻から考えると実に感慨深い。もうすでに、2000ページが経過しているが、伯爵の復讐はまだ序章に過ぎない。