馬車郎の私邸

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名曲紹介38:村下孝蔵「踊り子」:幻惑的なループ調の旋律と哀愁漂う美声に酔いしれる名曲

名曲紹介37:「My life is great」田村ゆかり(as伊集院メイ):出世作で歌うゴキゲンなロックンロール!を書いていた時、ふと村下孝蔵を思い出した。それは、MOTHER3「こうもりさんツイスト」ザ・ベンチャーズ「バットマン(1966年)」のことを引用した時だ。村下孝蔵はザ・ベンチャーズに心酔していたという話を思い出した。

田村ゆかりから村下孝蔵に話が振れると思っていた人はそうはいないだろうが、実はお気に入りの曲である。「初恋」も定番だが、今日は「踊り子」でいこう。

「踊り子」は1983年8月25日にCBSソニーより発売された。 遅咲きの村下孝蔵のデビュー4年目、6枚目のシングルだ。前作「初恋」に続き、およそ10万枚(オリコン)のヒットを飛ばした。

だが、「初恋」の爽やかな旋律から一転、どことなく妖艶で蠱惑的な雰囲気すら漂わせており、ぐるぐると回るようなループのイントロがキャッチーで耳に残る。弦楽器・管楽器風のメロディーが幻想に誘うかのように心地よく、村下孝蔵の朴訥な風貌から繰り出される美声に酔いしれることができる一曲である。

歌詞の表現が絶妙な点も注目だ。1番の歌詞はこうだ。

答えを出さずに いつまでも暮らせない
バス通り裏の路地 行き止まりの恋だから
何処かに行きたい 林檎の花が咲いている
暖かい所なら 何処へでも行く

つまさきで立ったまま 君を愛してきた
南向きの窓から 見ていた空が
踊り出す くるくると 軽いめまいの後
写真をばらまいたように 心が乱れる


バス通りの裏の路地だとか、行き止まりといった言葉で不穏な行く末を暗示しており、林檎の花、暖かい所、南向きの窓からといった言葉で、ここではないどこかへと思案を巡らす様を描写している。言葉のチョイスがなんとも絶妙だ。写真をばらまいたように、との直喩表現も腹落ちしやすい。

2番サビ後半では
坂道を駆ける子供達のようだった
倒れそうなまま二人 走っていたね


大サビ後半
若すぎた それだけがすべての答えだと
涙をこらえたまま つま先立ちの恋


つま先立ち、という不安定で危ういワードが、全編通して愛の揺らぎをくるくると回る踊り子に例えた表現と絶妙に絡み合い、味わい深いハーモニーを奏でている。道を駆ける子供達のようだった、若すぎた…それだけがすべての答えだったのだというごく素朴な述懐は、誰にでもほぼ当てはまるような普遍性を帯びている。幅広い世代に愛される邦楽のロングヒットソングとして、親しまれる名曲と言えよう。

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