馬車郎の私邸

漫画、アニメ、ゲーム、音楽、将棋、プロレス観戦記など「趣味に係るエッセイ・感想・レビュー記事」をお届けします!ある市場関係者のWeb上の私邸

有名人と距離の近い時代に思い出したいこと

Twitter、Facebook、Instagram……テクノロジーの進歩によって、有名人との距離は親しくなった。KENTA選手のTwitter煽り、ダルビッシュ有投手のレスバトルなどはスポーツ好きなら目にしたことがあるだろう。だが、そうした時に思い出したいことがある。お互い、人間なのだということだ。

サマセット・モーム「サミング・アップ」の以下の文章は参考になる。現代人を中毒にしているSNSのない時代の本だが、的を射た指摘だ。

「私がかねがね驚いてきたのは、多くの人が持っている、有名人と知り合いになりたくてたまらないという強い気持ちである。自分が有名人と知り合いであると友人に言えることで手にする威信とは、自分自身が取るに足らない人間であるということをただ証明するにすぎない。有名人は自分が出会う人間をあしらう技術を身に着けている。彼らが世間に見せるのは仮の姿であり、しかもそれは印象的なものであることが多いが、しかし自分のほんとうの姿を隠すように気を配っている。彼らは自分に期待される役を演じ、訓練の結果、その役を見事に演じるように成るのである。しかし、こうした人前で演じる姿とその人の内面が同じであると思うのは愚かである。

「こうした人前で演じる姿とその人の内面が同じであると思うのは愚かである。」というのは、そのとおりだ。私人はともかくとして、とりわけ何らかのプロが使っている場合はそうだ。職責に応じて使っている部分、人柄が滲み出ている部分などを、見る人は峻別する必要がある。逆に発信する側は、仕事上伝えたいこと、人柄(キャラ)のうちどういった部分を(例えば)呟きや写真の投稿などから、どういううこうかで伝えたいかを考える必要があるというわけだ。

「自分のほんとうの姿を隠すように気を配っている。彼らは自分に期待される役を演じ、訓練の結果、その役を見事に演じるように成る」かどうかは、千差万別だと思う。見事に演じきれている例もあれば、自然体でそうなっている例もあるし、演じきれずボロを出す人もいるというのが実態だろう。0~100まで様々な濃淡がそこにはある。

どんなプロフェッショナルであっても、時には愚痴や不満の一つも言いたくなることもあろう。それがぽろりと何かのはずみで漏れたとしても、それを過度にあげつらったり、深読みしたり、真に受けたりする必要はない。判断を保留することも必要だ。たとえ、どんなタフな精神や強靭な肉体を持った人物だとしても、夜や酒が入った時、あるいは気分が極端に良い時、悪い時にはそうした隙が生じうることもある。

ふとしたツイートなどSNS投稿は、大概の人の場合、米国大統領がマーケットを騒がせたりFRB議長に対するパワハラを行うほど世の中に影響を与えるわけではないだろう。とはいえ、それなりのプロや、相応のフォロワーを有する発信者ならば、不手際が投稿に紛れ込むと誰かをヤキモキさせたり、不快にさせてしまうこともあるかもしれない。だが、受け手の側はうなり声を上げるつぶやくネズミたちと一緒にならないためには、脊髄反射やありのままの感情は胸に秘め、言葉を飲み込むことも重要な場面がある。ましてや、つぶやきがネットを介して世界に広がる場合はなおさらだ。

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