馬車郎の私邸

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関電幹部の金貨・小判受領で注目したいゴールド投資―金の値動きの特徴と3つの投資手法を知ろう―

「越後屋、そちも悪よのう」
「お代官様ほどではございませぬ」
…そんな時代劇と見紛う状況が現代の日本に蘇ったか、関西電力幹部の言によると、「社長就任の祝いをいただいたので、お菓子と思っていたら、その下に金貨が入っていて非常にびっくりした」と言うのだ。

9月27日の臨時記者会見では、2011~18年に役員ら20人が約3億2千万円相当の金品を受領または保管したと発表した。関電が10月2日に公表した社内報告書(2018年7~9月に調査)によると、金品全体の主な内訳は、現金(1億4501万円)のほか、商品券(約6300万円分)、金貨365枚(約4900万円相当)、スーツ75着(3750万円相当)、米ドル(約1700万円相当)などだった。計約3500万円分は未返却だった。

他にも、「無礼者、軽く見るな」と激高、「非常に恫喝をする方で…」、「前例、伝承も含めて森山氏の影が強かった…」、「呪縛から逃れられず」など、言い訳にしてもやけに仰々しいパワーワードづくしだ。が係る案件かもしれず、これ以上触れるのはよそう。むしろ注目してほしいのは、現ナマや他の品々にまぎれて金貨365枚と、金現物が含まれている点である。

金の本源的価値の一つは、キラキラしていて綺麗という点だけでなく、供給が限られていることにある(ビットコインなど仮想通貨はそうではない)。世界中で精錬された金の地上在庫は約19万トン、オリンピック公式プールのわずか3杯強という希少性に加え、酸化による腐食がなく品質が劣化しないという耐久性から、永遠の輝きを放つ金は、権力者の力の象徴や宝飾品として重宝されてきた。ワールド・ゴールド・カウンシルによると、ジュエリーや産業用、純投資や中央銀行など金の需要は多岐に亘る。SnapCrab_NoName_2019-10-2_22-27-19_No-00

ブリッジウォーター・アソシエイツのレイ・ダリオ氏は現在は1930年代終わりに似ているとし、債券・金が買われるのは当然と説き、分散投資として保有資産に金をいくらか組み入れるよう推奨している。ポジショントークは割り引く必要があるが、世界でも指折りの著名投資家の言葉には耳を傾ける価値がある。すなわち…
1) 長期債務サイクルの終焉(中央銀行が無力に)
2) 格差拡大と政治的二極化
3) 新興勢力による既存の覇権への挑戦
→ 債券価格急騰、金価格が上昇で、1930年代終わりと類似
なるほど、現状、不穏な兆候が数多現出するなか、金投資は分散投資の面で重要だ。

そこで、覚えておきたい金価格の特徴としては2つある。それぞれ、ドルや米国金利と逆相関、インフレや地政学リスクへのヘッジになるという点だ。ざっくりした理解を優先するために、厳密性は捨象して、あえて大雑把な説明をしよう。

第1に、ドルや米国金利と金価格は逆相関とはどういうことか。お金の価値=「カネ」代表である基軸通貨ドルが高くなると、「モノ」代表である金の価値は下がるとざっくり理解してもよい。「カネ」の価値が高まる例は金利が上がることだ。したがって、米国の金利が上がると、金価格が下がる。もう少し丁寧に言い換えると、米国の金利が上昇すると米ドルと他通貨と金利差が拡大、他通貨に比べて信用力の高い米ドルの魅力が高まる一方、安全資産だが金利はつかない金の魅力は薄れて売られ、金価格が下落するということになる。

そもそも金は、米ドル建てで取引されているため(金の単位は1トロイオンス=約31g)、米ドルの価値が下がれば、金価格が上がり、逆に米ドルの価値が上がれば、金価格が下がる。一般論としてまとめると米国の金利と米ドル、金価格は以下のような関係になる。
・米国の金利が上がる→米ドル高になる→金価格が下がる
・米国の金利が下がる→米ドル安になる→金価格が上がる

第2に、インフレや地政学リスクへのヘッジになるとはどういうことか。まず、インフレヘッジについて、インフレになる(物価が上昇する)時に価値が目減りする(価格が下落する)代表的な資産は現金や国債、逆にインフレになると価格が上昇する資産には、金や株、不動産が挙げられる。また、価格変動がある以上絶対に安全なわけではないが、安全資産としてのイメージがあるため、地政学的リスクや景気後退へのリスクなどに投資家が敏感になった時にも物色されやすい。

以上で、金価格変動に関してものすごくおおざっくりした説明をしてきた。もちろん、大筋はそうでも、現実はすべて必ずしもそうなっているわけではない。チャートを見ながら、考えてみよう。
NY金先物価格の10年チャート
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金価格を見ると2019年は約6年ぶりの高値をつけ、足元は一服したものの、堅調な推移だ。ざっくりいうと、1200ドルから1500ドル近辺への上昇である。リーマンショックの金融危機の同様冷めやらぬなか、FRBが大規模な量的金融緩和を行い、欧州の債務危機に苦しんでいた時代に比べればまだまだではあるが、一つの大相場を形成している。

次に金利との関係を見てみよう。
tradingviewの米国10年債利回りの12年チャート
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FRBは昨年まで"自動操縦”で粛々と政策金利を引き上げてきたが、今年は利上げを停止し、9月には2度目の"予防的"利下げをしたところだ。こうした環境のなかで、金が物色されるのはよく分かる。債券王ことダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラック氏の指摘どおり、債券利回り低下が金を押し上げている状況にあると言えよう。金利低下の時、最大の相対的欠点から解放される資産クラスがある。それは利回りゼロの資産クラス、すなわち金というわけだ。

金利と金価格の関係は、まさしく教科書どおりだった。しかし、米ドルと金価格の関係は足元そうなってはいないようだ。円ドルではなく、主要通貨バスケットに対するドルの強さを反映する米ドルインデックスを見てみよう。tradingviewの13年チャートは以下の通りだ。
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米ドルインデックスは様々な通貨に対して、ここ2年の高値圏にあることがおわかりいただけるだろう。通常であれば、たとえば2009年~2013年の期間のようにドル安金高の構図なのだが、2019年相場ではそうなってはいない。投資家がドル安を見越しているというよりもむしろ、金利低下の環境に加え、景気後退や地政学など様々なリスクに先回りして身構えている様子がうかがい知れる。純投機やアルゴリズムトレードもその流れを加速したかもしれない。さらに需給面で見逃せない点は、各国中央銀行による購入だ。2019年上期の中銀の金購入量は上期として1971年以降で最高ペース。米ドル依存を脱却しつつ、準備資産の保全を図る目的で、ロシアや中国、ポーランドなど新興国が活発に購入しているとの指摘もある。

さて、ここまで順を追って金の特性を見てきた。次は具体的な手法だ。日経ヴェリタスの金投資の3つの手法の解説は平易でわかりやすいので、これをもとに紹介していこう。先物投資を除外すると大筋で3つある。すなわち、「金上場投資信託(ETF)」「地金」「積立購入」である。

第1の手法である「金上場投資信託(ETF)」は最もオーソドックスでメリットが多い現実的な選択肢だ。ETF(Exchange Traded Fund)とは、証券取引所に上場している投資信託のこと。ETFは金相場に連動するように設計された有価証券で、株式同様に機動的に売買できるのが特徴だ。証券口座さえあれば良いので、株式、債券など幅広い金融商品で投資をする人にとっては1つの口座で損益を管理できる。損益通算も可能だ。「売買に伴う現物の受け渡しが限定的なため、現物投資に比べて手数料が安い。1口から投資できる手軽さもある。

2004年に金価格に連動するように設計された金ETFがニューヨーク市場に初めて上場された。たとえば、世界最大の金ETF「SPDRゴールドシェア」コード1326、ティッカーGLD)は、価値の裏付けとして発行額に応じた金現物を保有している。金の果実シリーズ・純金信託コード1540)でもいいかもしれない。
GOLD
第2の手法である現物の地金購入は富裕層向きの手法だ。やはり現物の延べ棒を眺めてみたいものだ。しかし、地金投資で注意すべきポイントは、ETFのように1グラムずつといった少額投資ができないことだ。購入には百万円単位のまとまった資金が必要で、当然ながら現物を受け渡すので手数料もかさむ。泥棒対策も必要である。

第3の手法は「定額積立」だ。毎月一定額で金を購入し、貯金感覚で金投資をする「純金積立」だ。田中貴金属工業、三菱マテリアル, 日本マテリアル、徳力本店、第一商品などで受け付けているほか、第1の手法のETFや金価格の指数に連動するインデックスファンドを活用することもできる。長期投資の観点からこれが本筋と考える。売買で儲けるのは大変で、手間も覚悟も精神力も資金もいる。

積み立ては、相場の騰落に一喜一憂せず、資産形成を時間をかけて行いたい人に向いているが、万人向けの手法でもかある。相場の下落局面では購入できる分量が増える「ドルコスト平均法」の強みが発揮されるためだ。積立投資のメリットについては以前まとめたとおり、いたってまっとうな手法である。

最後に補足しよう。当たり前だが、投資は自己責任だ。情報を集めた上で自分がどう考えるかを大切にしてほしい。株式、債券、REITや不動産など様々な資産の中の一つということを俯瞰した上で、分散投資に有用な資産の一つとして金のことを考えてみよう。本稿は入り口に過ぎない。



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