馬車郎の私邸

漫画、アニメ、ゲーム、音楽、将棋、プロレス観戦記など「趣味に係るエッセイ・感想・レビュー記事」をお届けします!ある市場関係者のWeb上の私邸

ディズニー作品と女性観の変容、多様性への対応

1/7付の日経新聞において、「プリキュアが開く新しい社会像 性差・世代超え時代映す」という記事が掲載された。詩人・社会学者の水無田気流による寄稿であり、昨今ポップカルチャーのキーワードとして「ダイバーシティ(人材の多様性)」は欠かせなくなってきたと指摘する。氏は「HUGっと!プリキュア」にもこの時代の機運を感じたと言う。ついに男子のプリキュアが登場し話題となった件で、旧来のジェンダー規範への挑戦に満ちたキャラクターであると評価した。

物語、現代のアニメーションにおける女性の描き方について、作り手はかつてよりも多方面に配慮した作品作りを意識する必要に迫られている。社会の価値観の変化に対応したヒロイン像を随所で提示しなくてはならないばかりか、昔ながらの物語の展開やキャラクターの感情の描写などについても、現代においては違和感を視聴者から表明されるリスクにさらされていると言えよう。

WSJ紙の「ディズニーの課題:現代版プリンセスどう描く? 」の記事によるとディズニーのスタッフはヒロインたちをどの程度まで現代に合わせるべきか、苦悩しているようだ。古いバージョンで育ったファンたち(親たちでもあるかもしれない)を遠ざけないように、それでいてプリンセスたちを現実に合わせるために工夫をこらしているのである。

親たちは映画が子供に伝えるメッセージに悩んでいる。そもそも論として、眠れる森の美女が寝ている間に王子様がキスすることは許されるのか。女性が大統領を目指し、社会運動に参加し、セクハラを告発する時代にあって、葛藤は一段と際立つことだろう。昔話と現代に生じるギャップは拡大していくばかりである。

ましてや約90年もの歴史を持ち、ロングランの定番キャラクターたちの新たなグッズ開発に勤しむディズニーにとってはなおさらのことだ。「より自立し、意見を持ったプリンセスたちにしようと努めてきた。しかし同時に、現代的ではなくても、かわいいドレスやきれいな城は魅力的だとの認識もある」と記事のなかである幹部は述べた。

しかも近年では、着実な数字、すなわちヒットが見込めるリメイク版制作が目立つだけに、ディズニーの制作陣の苦労はひとしおだろう。今年の映画ラインナップを見ても、メリー・ポピンズ・リターンズ(なんと半世紀ぶり)、ダンボ実写版、アラジン実写版、トイ・ストーリー4、ライオン・キング(実写版)などが予定されている。枝葉末節であってもなんらかの批判やツッコミどころを与えないように脇を締めて制作するプレッシャーはいかばかりか。それは単なる作品制作のみならず、人種やジェンダーなどの面においても神経を尖らせる必要があるようだ。

ディズニーは批判を受け、黒人キャラクターの肌色を修正した事例が昨年にすでにある。劇中に登場する唯一の黒人プリンセスの肌色が以前よりも明るく修正されていたほか、鼻の形も細くなったと指摘されていた。修正されたのは2009年の「プリンセスと魔法のキス」の主人公で、2018年11月に全米で公開された「シュガー・ラッシュ:オンライン」に短い登場場面があるティアナ。ディズニーが新作の画像を夏に公開したところ、2009年の作品と比較して肌の色や顔の特徴が修正されていると話題になっていた。SNSで批判が広まったことを受けて、数年かけて制作されるアニメ映画を公開直前に修正するという異例の事態に陥った。

ディズニーのアニメーターたちは修正作業を進めるなか、反人種差別団体カラー・オブ・チェンジの代表らとも面会していたそうだ。カラー・オブ・チェンジは後に声明の中で「堂々とした黒人プリンセスらしく、ふっくらしたリップ、濃い肌、ダークな髪の色にプリンセス・ティアナを修復した」として、ディズニーの判断を称賛した模様だ。

そうしたなか、ディズニーは19年後半公開予定の「アナ雪」続編という試金石に直面する。一部のファンが、エルサをレズビアンにするよう求めているのだという。LGBTへの配慮が必要な現代とはいえ、これはさすがに行き過ぎた主張のように思える。だが、それは米国のディズニーワールドで散骨が繰り返されているのと同様に、世の中には単に過激な人もいるというだけのことだ。

とはいえ、口コミやテレビ、新聞だけでなく、インターネット、特に様々なSNSで評判は拡散する時代だ。妥当な批判がなされて賛同者が膨らむこともある一方で、時にささいな誤解や、伝言ゲームのなかで生まれる結果的なデマ、悪意のあるあら探しが火種となり、安全なところから石を投げたい正義感を有する人々、声の大きい少数派も加わることもある。

クリエイターは、単に作品を面白くするためにどうしたらいいかについて視聴者・読者の反応について考えを巡らすだけでなく、つけ入る隙をいかに与えないかについて心を砕く必要もあるようだ。そのことがもし、作り手を過剰に萎縮させているのだとしたら、"配慮"の対価は冴えない演出や今どきの価値観にすり寄ったキャラクターなどになって、作品に現れることになるだろう。何事も過ぎたるは及ばざるが如し、なのだ。

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