馬車郎の私邸

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高値圏の日米株式市場、ところでバブルはいずこに?

日米株式市場は年初来高値圏にある。しかし、これはバブルかというと企業収益から見ると必ずしもそうは言えないようだ。日経平均株価は、動きとしてはかなり需給的な色彩はかなり強いもののボックス相場を脱して、5,6、7、8月と4度に渡り定着できなかった23000円台を上抜き、1月につけた年初来高値を更新した。27年ぶり高値の24000円台である。
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19/3期の各企業の純利益計画に基づいたEPS(1株純利益)は実は過去最高であり、日本企業の収益力はかつてなく高まっているのは事実だ。株価がどのくらい割高・割安に買われているか測る指標の一つにPERがある。これは、企業の1株あたり純利益(EPS)の何倍まで買われているかの倍率である。

10/2の日経平均採用225企業の予想PERは13.95倍だ。14.7倍がアベノミクス相場の中心軸であり、企業収益の見通しから見た水準としては決してバブルとは言えない。ちなみに13倍割れは珍しく、割高に買われていた2015年ごろに16~18倍という場面もあった。38000円のいわゆるバブル相場となると60~70倍といった状況にも程遠い。

では、アメリカはどうか。中国や新興国市場が振るわないなか、NYダウ(30社)、S&P500(より広範な500社)、ナスダック総合指数(ハイテクの割合が高い)の主要3指数は軒並み史上最高値圏にある。
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トムソン・ロイターによると、S&P500種指数採用企業500社の純利益の予想増益率は、18年が約20%、19年も10%台が見込まれるとのことで、16~20倍くらいで推移しているPERの水準を支えている。絶好調の経済環境のなか、トランプ米大統領と共和党の実施した異例の大規模減税を背景に、企業収益は順調だ。

では、死角はないのだろうか。金利、インフレ、賃金の上昇はそれぞれ漸進的なペースにとどまり、市場予想を踏み越えるような情勢は今のところ警戒されていない模様だ。WSJによる、60人のエコノミストを対象にした調査によると、エコノミストの約59%は2020年に景気拡大に終止符が打たれる可能性が最も高いと予想した。再来年となると減税効果に陰りが見え、輸入関税の影響がコストアップなどの形で企業の利益率を蝕むようになるとさすがに景気後退に陥る可能性があろう。
そこまで至らずとも、そもそも2018年の企業の増益率の高さがハードルとなってしまうことから、バリュエーション調整が先取りして起こるのかもしれない。
米国が10年目の景気拡大を迎えた今年、バブルの明確な兆しはこれといって決定的なものは見当たらない。もちろん、バブルというのは後から振り返ってわかるものだ。日本ではかつて、うさぎや不動産のバブルがあったし、世界の歴史を振り返れば、チューリップ、南海泡沫事件、ITバブル(ドットコムバブル)など熱狂の渦があった。

では、まず米国株式市場を先導してきた「FANG+M」はどうだろうか。フェイスブック、アップル、アマゾン・ドット・コム、ネットフリックス、アルファベット(グーグル)からなる「FANG」にマイクロソフトを加えると、S&P500種指数の時価総額の約10数%を占めている。これら企業はもちろんITバブルのときのように赤字ではないし、各業界で既存のビジネスを破壊し圧倒的な支配的地位を築き、唸るほど利益を上げている。とはいえ、バブルと言うほどのものではないにせよ、バリュエーションは割高ではあるだろう。(参考記事:雲の上で戦うアマゾンとマイクロソフト 6/7)

指数をまるごと買うインデックス運用が盛んな今、「FANG+M」が上がるからS&P500種指数が上がり、S&P500種指数が上がるか「FANG+M」が上がる構図がある以上こうした企業の業績見通しや株価の失速には注意するべきだが、今のところ陶酔の領域まで過熱した状況にはないようだ。だが、その逆回転が起きる可能性には留意する必要がある。

テスラはどうだろう。一度も通期で黒字を達成したことのない電気自動車のパイオニアは、ビッグ3のをも凌ぐほどの時価総額で評価されている。日本市場の信用売残高は7000~8000億円だが、テスラはそれを超える100億ドル以上の空売りが入っていながら、未だ決定的に売り崩されてはいない。イーロン・マスクというユニークな経営者が描く夢には値段がついたままだ。

昨今のティルレイをはじめとする大麻関連株の急騰・急落劇は局地的な事象にとどまっているようだし、株とは関係ないがビットコインに至ってはすでに昨年12月にピークを迎えていたようだ。(参考記事:ビットコインの今と行く末について 1/16
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企業の経営行動は、M&Aが景気サイクルの後半戦らしさを暗に示しているのかもしれない。世界のM&A(合併・買収)は、2018年1~6月で100億ドルを超える案件は前年同期と比べて2.5倍の35件と同期間として過去最高を記録した。だが、決定的に企業の財務規律が乱れているとか、無謀で割高なM&Aが横行しているとまでは言えないようだ。

いろいろ考えては見たが、もっともバブル的に膨らんでいるのは、実は企業の債務、債券のほうなのかもしれない。WSJ市場担当シニアコラムニスト、ジェームズ・マッキントッシュ氏は、高まりつつある隠れたリスクを指摘している。格付けが「BB(投資不適格級)」ジャンク債ぎりぎりの社債、すなわち米国の社債で「BBB」(ぎりぎり投資適格級に入る)に格付けされたものの比率が、空前の規模に達しているというのだ。

このほかにも、新興国のドル建て債務はすでにリーマンショック前を超える規模に膨らんでおり、懸念材料だ。米長期金利上昇やリスク回避の動きに伴う新興国通貨安ドル高の流れは、債務返済に悪影響を与える。あるいは安全資産とされる米国債のタームプレミアムがマイナスが常態化しているところにもバブルは隠れ潜んでいるのかもしれない。ジャンクボンドや投資適格債もそうだ。米欧日の中銀が未曾有の金融緩和を長らく続けてきたところから、米欧は金融正常化を進めているが、手遅れにはなっていなかったことを願うのみだ。
根本的な問題はここなのかもしれないのだから。
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