馬車郎の私邸

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10/4 証券投資の日に考えてみたい真っ当な資産形成の手法"積み立て投資"

10/4は証券投資の日だそうだ。投資というと様々な手段が考えられるが、これから資産形成を考えるビギナー向けには"積み立て投資"が万人向けで有効な投資手法だと言えるだろう。とはいえ、今が始めどきだと言うつもりはさらさらない。世界経済の主役である米国は、2009年からの緩慢かつ長い景気回復局面の終盤戦を歩んでおり、昨日書いたようなことも警戒してみると、すぐ始めるのはもしかするともったいないのかもかもしれない。

しかし、積み立て投資は、宝くじやFX(為替証拠金取引)、ビットコインなど仮想通貨、あるいは巷間溢れる高利回りを謳う怪しげな儲け話に比べれば、中長期の資産形成においてはるかに合理的かつ真っ当で正統派の手法であるといえよう。だから、少額から試しに始めてやり方を知る、経済や市場の動きの見方に慣れる、基本的な考え方を知るための一歩を踏み出すことは、将来の資産形成に向けて意義がある。

積み立て投資は、簡単にまとめると、毎月決まった額で同じ商品を購入し、価格や投資のタイミングをあえて気にせず投資し時間分散によりリスクを軽減するやり方である。「価格が安い時は購入する口数が多くなり、価格が高い時は購入する口数が少なくなる」なるため、平均購入単価が平準化できる。これこそが“ドルコスト平均法”という投資の叡智だ。万能で最善の方法(そんな方法は存在しない)ではないけれども、実際的で負担が少ないやり方ではある。

つまり、「いつ」「どこで」「いくらで」買うか、売るかを考えることから自由になれるため、日常生活や仕事に集中できるのが最も大きな利点だ。お金の損得に関わる失望・欲望・ストレスをマネジメントしコントロールすることは、とても難しい。私が新人時代に初めて開拓した社長は「ゾーン — 相場心理学入門」という名著を読むことを勧めてくれた。投資判断もさることながら、感情の制御は一番の難事であり、上手く行かないときに何かのせいにして心を慰めてもパフォーマンスは好転しない。投資は結局自己責任の世界なのである。だから、様々な労力は必要な中でも比較的負担が少なく、妥当な成果を得やすい手法に理解を深めることは重要なのだ。

始めるには、証券会社に口座を開設する必要がある。野村、大和、三菱UFJモルガン・スタンレー、みずほ、SMBC日興など名の知れた大手証券でも、SBI、カブドットコム、松井、マネックス、楽天などネット証券でも良い。私のリアルな立場のこともあるので、個別の証券会社や具体的な商品推奨は差し控える。何より、この記事をポジショントークにはしたくないし、本稿の目的から外れるからだ。

大手証券とネット証券とで異なる点の例としては株式売買手数料、新規株式公開(IPO)の案件や引受株数、対面ケアの有無、商品ラインナップなどがある。このうち、積み立て投資に直接関係するのは商品ラインナップだけだ。

株式売買手数料については、日に何度も売買するデイトレーダーでもなければ、大手証券のオンライントレードだとしても目くじらを立てるほどでもないし、頻繁な売り買いはそもそも積み立て投資の趣旨から外れる。また、積み立て投資で使うのは、指数に連動するタイプのローコストな投資信託やETF(上場投資信託)が主体なので、そこまで過度に気にする必要はない(個別の株でもできるが)。

新規株式公開(IPO)の案件や引受株数については、魅力的なものも失望を生むものもあり面白い領域だが、これも積み立て投資とは関係がない。また、積み立て投資に対面ケアが必要かどうかは別問題だ。そもそもセールスをどう使うかは顧客次第であり、自分自身で考え、判断することが大切だ。セールスパーソンは情報源と判断材料、相談相手の一つでしかない。

商品ラインナップは考慮すべき点だが、積み立て投資で使うための、指数に連動するタイプのローコストな投資信託やETF(上場投資信託)については、それほど致命的な差はないだろう。丸井グループはエポスカードで積み立て投資ができる「tsumiki証券」の口座開設を9月に開始したが、扱うのはわずか4商品にとどまり、さすがにこれは寂しい。取り組みと利便性は実に素晴らしいと思うのだが、今後のラインナップ拡充に期待したいところだ。

まずは初めてみたいという人、とりあえず少し勉強してみようという人に、最後にブックガイドを示しておきたい。良い助けになろう。積み立て投資のバックボーンにあるインデックス運用、パッシブ運用、ドルコスト平均法、相場の考え方については、ウォール街のランダム・ウォーカー」や、チャールズ・エリスの「敗者のゲーム」といった古典、「インデックス投資は勝者のゲーム ──株式市場から利益を得る常識的方法」という好著もあるものの、初心者には敷居が高い。

したがって、新書・文庫で読める簡潔・明瞭・軽快な5冊を厳選して紹介する。1から5の順番で1冊ずつ気軽に読んでほしい。積み立てはしても積ん読にならないよう、一冊ずつ読むのをお勧めする。

①半値になっても儲かる「つみたて投資」 (講談社+α新書)、星野 泰平

「つみたて投資を日本の文化に 」したいという筆者の気持ちがビギナーに伝わるように、さばさばと書かれた好著だ。メリットをしっかり知って、まずは気持ちの面で足がかりを作ろう。以下に示す本書の目次だけで、趣旨が的確に表現されているのが素晴らしい。

プロローグ 「安く買って高く売る」に縛られすぎた日本人
第1章 「値下がり安心」効果 ~どんなに下がっても安心
第2章 「スピード回復」効果 ~損から素早く回復する
第3章 「リバウンド」効果 ~下がった後に戻ればリターンが得られる
第4章 「ストレス抑制」効果 ~上がっても下がってもストレスが抑えられる
第5章 「タイミング・フリー」効果 ~始めるタイミングに悩まない
第6章 「プロセス回復」効果 ~始値・終値だけでなく、経過の値動きが大切
第7章 「継続」効果 ~ケイゾクハチカラナリ
第8章 「予測不要」効果 ~考えたってわからない
第9章 何のためにつみたて投資をするのか

終章 つみたて投資とはどういう投資か
参考資料1 論より証拠 つみたて投資、1000回やってみました
参考資料2 いくらになるか 実際、どの程度貯まるのか
参考資料3 本書で解説したシミュレーションの結果一覧

②「ほったらかし投資術」(朝日新書)山崎 元 水瀬ケンイチ

心構えを作ったら、積み立て投資の母体となるインデックス投資について、具体的なやり方に踏み込んで学んでみよう。長所・短所をあらためて整理した上で、最低限必要な用語や考え方、DCとNISAといった制度のこと、使う商品の例など、実践的ながらも懇切丁寧かつ明快に教えてくれる1冊だ。

③ 「知的幸福の技術―自由な人生のための40の物語」 (幻冬舎文庫)橘 玲

年金、保険、医療、教育、マイホーム(不動産)など、資産運用に対する考え方を全体として、わかりやすく教えてくれる好著。積み立て投資をしないとしても読んでおくべき作品だろう。著者は経済小説も執筆しており、学説や理論を体系立ててわかりやすく説明する技量を持っている。少々ドライに聞こえる面もあるかも知れないが、それも味であり、魅力だ。

④「臆病者のための株入門 」(文春新書) 橘 玲

③の著者が株にフォーカスして書いている。「トレーディング」「個別株長期投資」「インデックス運用」の3つの代表的な株式投資の手法のメリット・デメリットを冷静に解説する。

⑤「日経記者に聞く投資で勝つ100のキホン」 (日経ビジネス人文庫)


日経記者が投資で実際に勝っているかは脇において、 経済や相場のニュースで自然と使われているが意外とわかりにくい100のテーマや用語について、簡潔にまとめられている。類著でこれはというものはあまり見かけず貴重な本だと言えるかもしれない。補足的に活用されたい。

さて、他にも良い本はたくさんあるが、その紹介はまたの機会に譲ろう。ここまで読んでくださってありがとう。積み立て投資はすぐさまたやすく大きな成果が出る魔法の杖ではないが、実際的で優れたやり方ではある。本稿があなたの中長期の資産形成の一助になり、良き人生に貢献できるとしたら幸いである。
半値になっても儲かる「つみたて投資」 (講談社+α新書)
星野 泰平
講談社
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全面改訂 ほったらかし投資術 (朝日新書)
山崎 元 水瀬ケンイチ
朝日新聞出版 (2015-06-12)
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臆病者のための株入門 (文春新書)
橘 玲
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日経記者に聞く投資で勝つ100のキホン (日経ビジネス人文庫)

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