馬車郎の私邸

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要するに藤井聡太四段29連勝のどういった点がすごいのか?

株の銘柄であれ、古来からのボードゲームであれ、何でも安易にAIと関連付けて論じられる時代になりました。偉業をすごいと言うのはかんたんですが、藤井聡太四段29連勝のどういった点がすごいのか、その裏にあることも思いを巡らさないといけないと考えます。

さて、この藤井聡太四段29連勝のニュースは、基本的には経済にしか関心がないはずの日経新聞で1面、2面、社会面で取り上げられるほどでした。しかし、その内容は藤井聡太四段29連勝のすごさの一端しか示していない印象を受けます。

まず、「AI時代の申し子が偉業」が2面の記事のタイトルで、小見出しには「ソフトで研究」とありますが、それ自体はどの棋士もやっていることですから、膨大なトライアル&エラーをこなす好奇心と持久力こそ賞賛されるべきです。

また、ソフトの影響が大きい点について、深浦康市九段の指摘を引用し、「序盤から積極的に桂馬を跳ねて主導権を握りにいくのはソフトによく見られる指し方。それを藤井四段は実戦でうまく生かしている」とのコメントを紹介しています。桂馬は駒の上にを飛び越えるトリッキーな動き方をする一方で、すぐ前には進めず、迂闊にぴょんぴょん跳ねると、簡単に相手の歩に取られてしまいます。だとすれば、扱いが難しく動かすリスクが高い駒を動かすには、恐怖心に負けない精神力、そして実戦での集中力と読みの深さ・正確さが必要です。詰将棋の選手権で3連覇するほどの日頃の鍛錬が、前代未聞の偉業の裏付けです。

さらに、不適切な発言や不品行で新聞や週刊誌、Twitter炎上の餌食になる大人が多い中、弱冠14歳でありながら。その名の通り聡明な受け答えをする理知的な態度も注目されるべきでしょう。以上、要するに、知的格闘技たる将棋という奥深いゲームに、人生をかけて挑む人間の「心・技・体」こそが、私達が本来的に敬意を表すべきすごさと言えるでしょう。

ところで、AI、人工知能といった言葉を日経の紙面に見かけない日はありません。バズワード化しつつあるほど乱用される一方で、AI、人工知能の利便性と脅威のが現実化しつつあるのも事実です。そこで、将棋を題材に、AI、人工知能を考えるための本を2冊ご紹介しておきます。

・「人工知能の核心」羽生 善治(NHK出版新書)
将棋界の第一人者が人工知能について多数の深い洞察を示しており、必読の1冊。例えば、人間はせいぜい2、3機も見れば「これはドローンだな」と分かる、つまり「学習」と「推論」を同時にスムーズにこなすことができるが、一方で人工知能は何百万という画像を読み込んで事前に学習し、初めて「これはドローンだ」と推論できるようになるという。「ここがクリアできると、だいぶ人工知能やロボットが人間に近づくのではないか」との指摘は目からウロコでした。他にも多数、重要な論点が述べられていて、極めてコストパフォーマンスが高い新書です。

・「不屈の棋士」大川  慎太郎(講談社現代新書)
人工知能に対峙する人間としての向き合い方、プロフェッショナルとしてのあり方を暗中摸索する棋士たちの生々しいインタビューが収められており、示唆に富む1冊。働く人誰もが、決して他人事ではないと感じる1冊でしょう。
人工知能の核心 (NHK出版新書 511)
羽生 善治 NHKスペシャル取材班
NHK出版
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不屈の棋士 (講談社現代新書)
大川 慎太郎
講談社
売り上げランキング: 8,259