馬車郎の私邸

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発語内行為としての言語行為とは何か?

イギリスの言語哲学者ジョン・ラングショー・オースティンの言によれば、「発語内行為」とは「何かを言うことで何かを行う」ことであり、聖職者が結婚式で「私は今、あなたがたを夫婦と宣言する」と言うようなことを指す(オースティンは「言語と行為」の中でもっと正確な定義をしている)。発語内行為の概念は、言語行為の概念とほぼ同一か、あるいは重要な一部とされる。発語内行為は様々に定義されているが、一般に「約束」、「命令」、「遺言」は共通して発語内行為に分類されるのである。他にも事例を示すと以下のようになる。

・挨拶、謝罪、何かを描写すること、質問に答えること、質問したり命令すること、約束することなどが、典型的な「言語行為」ないし「発語内行為」の例である。
・「注意しろ、地面が滑り易くなっているぞ」 - 他人に注意するよう警告する言語行為
・「夕食に間に合うよう全力を尽くすよ」 - 帰宅時間を約束する言語行為
・「紳士淑女のみなさん、ご静粛に」 - 聴衆を静かにさせようとする言語行為
・「あそこの建物で、私と競争しませんか?」 - 挑戦する言語行為

言語学や言語哲学の歴史において、言語は事実を述べる手段と見なされ、その他の言語利用は無視されてきた。しかし、オースティンの 『言語と行為』などの研究成果により、哲学者は宣言的な言語使用以外にも目を向けるようになった。彼が導入した用語(「発語行為; locutionary act」、「発語内行為; illocutionary act」、「発語媒介行為; perlocutionary act」)は後の「言語行為論; speech-act theory」で重要な役割を担うこととなった。この3つの行為(特に発語内行為)は現在では「言語行為」の一部とされている。発語内行為の興味深い例として、オースティンが遂行的(performative)と称した発語内行為がある。例えば、「私は、ジョンを大統領に任命する」、「禁固10年を命じる」、「必ず返しますから」などの発話である。遂行文では一般に、文に記述(宣告、約束)された行為はその文を発話すること そのものによって行われる。

 言語行為を伴いながら、我々は日常会話を行っている。会話の内容と会話で伝達しようとしている内容は、多くの場合同一と考えられる。例えば、ピーターに皿を洗って欲しいなら「ピーター、皿を洗ってくれるかい?」と言うだろう。しかし文字通りの意味は、会話で伝達しようとしている内容とは異なる可能性がある(前に文脈があった場合。ある種の「言語行為」は無言でも行われう るので)。ある特定の状況でピーターに皿を洗わせたいとき、単に「ピーター…!」とだけ言うことで伝えられることもあるだろう。言語行為を行う一般的な方 法は、ある言語行為を文字通り示す表現を使うことであるが、それに加えて、発話された表現に文字通り表れない言語行為を行うこともある。例えば、ピーター に窓を開けさせたい場合、「ピーター、窓に手が届くかい?」と言ったとする。発話内容は単にピーターが窓に手が届くかを聞いているだけだが、届くなら窓を 開けて欲しいことを伝えているのである。この要求は直接的な質問を使って間接的に実行されるので、間接言語行為(indirect speech act)とされる。

 間接言語行為は一般に、提案を拒絶する場合や要求を行う場合になされる。例えば、ある人が「会ってコーヒーでも飲まないか?」と言い、相手が「授業がある」と言ったとする。2番目の話者は間接言語行為を使って提案を拒絶したのである。「授業がある」という発話の文字通りの意味にはいかなる意味の拒絶 も含まれないため、間接的とされるのである。言語学にとっては、これは1つの問題を提起する。なぜなら、単純に考えたとき、提案を行った人が提案を相手に拒絶されたと理解できる理由が説明できないためである。ポール・グライスの研究成果に基づき、サールは我々が複数の発語内行為から導かれる対話的過程を手段として間接言語行為から意味を引き出せるとした。しかし、彼が提唱したプロセスでは、実際の問題を解決したようには見えない。このような議論をふまえて、社会言語学では、会話の社会的側面を研究し、様々な文脈での言語行為を研究するのである。