馬車郎の私邸

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ラブコメの宿痾に挑む意欲作! 筒井大志「ぼくたちは勉強ができない」第1巻

今のジャンプで最も注目するのは、筒井大志「ぼくたちは勉強ができない」である。その理由はラブコメの宿痾に挑む意欲作であるためだ。以前書いたように、「ニセコイ」のスピンオフ「マジカルパティシエ小咲ちゃん」全4巻をジャンプ+で描いていた方であり、作者も読者も「ニセコイ」との文脈でこの作品を評価することになる。つまり、描く側にとっても、読む側にとっても天下を撮り損ねたラブコメ「ニセコイ」の弔い合戦の色彩を持つ。
感想:ジャンプ新連載 筒井大志「ぼくたちは勉強ができない」・山田詠美「僕は勉強ができない」

「ニセコイ」の主人公一条楽が千棘を選ぶことはタイトルや当初のコンセプトで明確になっており、最初から分かっていた結末なので、その点自体に異論を唱える読者はそう多くなかっただろう。したがって、過程が重要であった。

しかし、両思いにして約束の女の子小野寺さんを振ってまで、最終的に千棘を選ぶ程の理由が、ストーリー上で十分に描かれなかった。人物が自発的にではなく、単に作者に動かされているとしか思えない台詞と行動が多くなっていった有様は、作品を完結させるにはそうするしかないと分かっていても、やるせない思いを抱く人はさぞや多かっただろう。

主人公がメインヒロインとくっつく際に犠牲となるサブヒロインたちの涙、展開に行き詰った際の安易な新キャラの投入、お約束による不自然な展開等々、ラブコメの宿痾は枚挙に暇がない。そこで今、主人公が誰とくっついても良くて、誰とくっついても不思議ではないラブコメが待ち望まれているのである。

主要3ヒロインのバランスのとれたキャラ設定に対して、受験勉強を軸にしつつも主人公との関係性に無理がない点は非常に好印象だ。基本的には期間は1年間と決まっていることから下手に間延びした展開にはなりにくいだろう。3ヒロインの動機をまとめると、
・緒方理珠:理系が得意だが苦手な文系を希望(アナログゲームが好きだが対人戦にめっぽう弱く、人の気持ちをわかりたいとの思いから心理学を志望するため)
・古橋文乃:文系が得意だが苦手な理系を希望(亡くなった母親への思いから天文学を学びたいため)
・武元うるか:水泳以外駄目だがスポーツ推薦希望(来年度入学時に英語受験が必要になったため)

緒方理珠と古橋文乃の2人は属性や人物造詣に意外性がありつつも、それほど気をてらっていない点が絶妙である。ほのかな恋心を抱く2人に対して、主人公に恋するも奥手な武元うるかが、特にヒロイン同士や主人公の関係をうまくかき回していて良い。3ヒロインと主人公の関係性は今のところ横一線であり、設定上の制約で3人のうちの誰かとくっつくことが示唆されていないので、良い意味で先行きが見えないため、ドキドキしながら読めるラブコメになるであろう。

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