馬車郎の私邸

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「岩波書店の縁故採用導入について」

応募条件「コネのある人」宣言 岩波書店が縁故採用という記事によれば、例年数人の採用に対し千人以上が応募。担当者は縁故採用に限った理由を「出版不況もあり、採用にかける時間や費用を削減するため」と説明しているそうだ。

出版業界の市場規模は、業界全体で9000億円~1兆円の間くらいである。外食産業が約23兆円であることを考えれば、意外と小さいことがお分かりいただけるだろう。会社の規模も、もっとも大きい講談社でさえ社員数は1000人程度であり、募集人数はせいぜい10数人である。出版業界は就活生には狭き門だ。

このように、社員数自体も採用人数自体も少ない出版社の採用活動は、採用の候補となる人数を絞ってから、筆記なり面接なりで応募者の人となりをじっくり見たほうがいいだろう。「採用担当者は"排除"担当者」だと揶揄されるように、新卒採用の季節には、莫大なエントリーシートや面接回数を人事部はさばかねばならない。そのようなコストは、そもそも規模が小さい会社である出版社には重い負担であろうと推察される。岩波書店の社員数は200名程度であるから、採用に経営資源を振り向けるのはもともと大変なことだろう。多数の候補者から選考する手間が省けるというのは、コストと手間の面からいって無視できないメリットかもしれない。

縁故による採用となると、"適切な"紹介者が"適切な"人材を紹介しさえすれば(ただ、それが難しい)、採用活動の目的は達成される。どのような人物がこの採用の仲介者になっているかは定かではない。しかし、ここで、供給者になりうる大学は、このような動きを学生の就職という点から注視する価値はあろう。たとえば、早稲田大学文化構想学部の文芸・ジャーナリズム論系 などは、岩波書店とコネクションを作り、専門的な人材を送り込む対象にしてはどうだろうか。そもそも、大学に岩波書店から出版をしたことのある教授がいるだろうから、志望者は学内からコネを作っていく営業を始めることになるだろう。

ただし、このような縁故採用はよしんばうまくいったと仮定しても、人材の性質が偏る可能性がある。たとえば岩波書店は他の出版社の用いる返品制を採用しておらず、全て書店の買い切りという形をとっているしかし、このような販売・流通手法も、出版業界の変化に伴い変革を迫られる時が来るかもしれない。そうした時に、単に出版関係の仕事をできるだけではなく、マーケティングに通暁した人材も必要になるであろう。縁故採用によって特定のルートからのみ人材が流入するならば、人材の多様性が失われる危険性がありうる。

とはいえ、憲法の「職業選択の自由」との兼ね合いから、このような施策を実際にとれるのかはわからない。それに、仮に縁故採用がうまくいったとしても、結局のところ人材のダイバーシティをどのように確保するかについての問題はつきまとうことになるだろう。ただ、きわめて多数の人数から採用の候補者を選ぶ苦労と手間がかかるという問題を、多くの企業が抱えていることには留意すべきだろう。今回の一件を、日本の採用活動を再考する端緒にしてはどうだろうか。

なにはともあれ、岩波文庫の愛読者である私の意見としてはティトゥス・リウィウス『ローマ建国史』の下巻を早く出していただきたいとだけ、言っておこう。。古代ギリシア・ローマ関係のラインナップをもうちょい強化してほしいものだ。