馬車郎の私邸

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名曲紹介56:「雨のちまた雨」栗原みきこ(as美樹原愛):内気な美樹原さんが実は秘めているコミュニケーション力のノウハウに学べ!

内気でおとなしい人ほど、内面では饒舌なものだ。言葉がなかなか出てこないのは、内なる対話が活発なせいなのだから。美樹原愛のキャラクターイメージソング「雨のちまた雨(作詞:くまのきよみ 作曲:村井聖夜 編曲/演奏:塚山エリコ ギター:立山健彦 コーラス:広谷順子&木戸やすひろ)」は、そのことを気づかせてくれる。

内気な性格の美樹原さんは、内面において実は様々なプレゼンテーション・テクニックやセールス話法を駆使しているのだ。したがって、今日の記事は「ときめきメモリアル」やこの曲を聴いたことのない人にも、コミュニケーション能力向上に役立つ。さっそく見ていこう。

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まず、「雨のちまた雨」の1番の歌詞はPREP法に基づいて、構成されている。PREP法とはビジネスシーンや文書シーンで用いられる常套手段だ。以下のように4つの頭文字をとって、自分の意図を伝える型として使うことができる。
P=Point(結論)
R=Reason(理由)
E=Example(事例、具体例)
P=Point(結論を繰り返す)

 順に見ていこう。

【1番】

雨は止まない だけど嬉しい気分なの(結論)
だってあなたがさっき電話をくれたから(理由)
ただの中止の連絡事項だったけど 心の中は雨天決行してる(具体的な説明)

次の人に早く電話しなくちゃ だけど胸のドキドキおさまらない(具体的な説明)
ぶっきらぼう用件だけ話すの 私と言えば「ハイ」しか言えない(具体的な説明)

雨の日の連絡網 指で番号なぞる(結論をより詳細に繰り返す)
あなたの名前の次は私なの それが嬉しくて(結論をより詳細に繰り返す)

このように、「雨の日の連絡網に抱く感情」というキーポイントを明快に表現できている。"たったそれだけ"のことを膨らませてキャラクターのイメージソングに昇華しているのは、PREP法に基づいて的確に歌詞を構成しているからだ。

しかも、「~けど、…」の譲歩・逆接のかたちを3回も使っていて、感情をより強調して伝える点も見事だ。3箇所をそれぞれを見ると、雨はやまないのになぜ嬉しいか、ただの中止の連絡事項にすぎないのに心が騒ぐのか、電話するだけなのになぜドキドキするのか、いずれも強調されている。

 そのうえ見逃せないのは、「体育祭」という言葉を一つも使っていない(大サビ前で初めて出て来る)のに、体育祭の連絡網の話ということがわかることだ。その理由は、「心の中は雨天決行してる」という粋な縁語を使っているためである。このように様々なレトリックを駆使しているのである。さすがは、くまのきよみさんだ。

 
理路整然とした伝え方はたしかに重要だが、そこにさらにストーリーを加えると説得力が増す。人間は理屈だけで動くわけではないし、ストーリーで語るとより具体的になり、語り手の視点を聞き手が共有することになるので、記憶に定着しやすくなるためだ。『プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える』によると、ストーリーには次の4点を盛り込むのが効果的だ。

すなわち、①自分が何者か?、②なぜこの場にいるのか?、③価値観を具体化する、④あなたの言いたいことは分かっている(考えられる反発についても先回りして語ることができ、相手の警戒心を和らげることが出来ます)、である。

①②③をかいつまんでまとめると、要は、相手が何者で、どのような立場や動機、価値観に基づいて話しているかの理解だ。聞き手は、こうした点を理解することで、より安心してストーリーを聞きやすくなり、話を受け入れる態勢が整うのである。④は少し難しいが、自分から想定される反論を語ることによって自分の主張を客観的に判断していると印象付ける効果がある。というのも、ストーリーはどうしても主観的になってしまうので、反対のストーリーをあえて織り込むと共感を生み、より説得力が高まるからです。では、2番を見ていこう。

【2番】

夢を見たのよ 内気な私嘘のように
あなたの肩を ポン!と気安くたたいたり
お掃除の時 ふざけてモップ振り回す
あなたのことを 大きな声で𠮟る

冗談言う横で笑い転げる 私が私うらやましく見てた
もし目覚めてもまた同じ場面で 夢の続きをお願い見させて

名簿通りまわすだけ 何の感情もない
夢のように振る舞うこと 出来ない私が悲しくて

 2番は夢の話、つまり今の感情について私がどんな思いを持っているかを伝えるためのストーリーである。キャラクターのイメージソングとしても非常に重要な部分と言えよう。
「雨のちまた雨」は美樹原さんのパーソナリティを十二分に表現することに成功している。①自分が何者か?、②なぜこの場にいるのか?、③価値観を具体化する、の3点をしっかり抑えているためだ。たとえば、「私が私うらやましく見てた」、「夢のように振る舞うこと 出来ない私が悲しくて」といった部分で、内気な性格で気安く振る舞える自分を夢見ていることをしっかりと示している。

④あなたの言いたいことは分かっている、については「そうですよね、なかなか現実うまくいかないっすよね…」ということを2番で表現することで、共感を生む仕掛けになっている。1番・2番・大サビの気分が、仮に○→○→○では、感情の振れ幅やメリハリが生まれない。1番で嬉しい気持ちを歌ったあとで、2番でもどかしい気持ちを歌ったうえで、大サビにつなげることで、○→△or✕→◎にすることができるのだ。いわば、2番は大サビ前のタメである。

さて、体育祭の中止の連絡網とはいえ電話がかかってきて嬉しい一方で、うまく言葉が出てこない美樹原さんはもどかしい気持ちを抱えながらも、ラストに向けて考える。

【サビ前~大サビ】

体育祭来週になったけれど またその日 朝雨が降ればいいな
「ハイ」以外の少し気がきく台詞
今から私 考えておくの

『雨降りは憂鬱ですね グランド濡れてます
 電話をどうもありがとう 次は晴れるといいですね』

 

 「雨のちまた雨」のタイトルの意味が最後に明かされる。体育祭のさらなる順延により、次は少しは気の利いたセリフを言えたらいいなと、ちゃんと考えているのである。最後は、シャイな美樹原さんが頑張って用意した言葉で締めくくられる。「共感→事実の説明→謝意→未来への展望」という構成だ。会話術としても好印象な一方で、「雨のちまた雨」という一見陰鬱なタイトルを逆説的に明るく締めくくる"オチ"になっている。

以上で、コミュニケーションにおけるノウハウ・ドゥハウが、いかに「雨のちまた雨」に盛り込まれているかを見てきた。そのヘルメットの中の頭脳がいかにフル回転しているかおわかりいただけよう。

しかし、美樹原さんの最大の武器は勇気を振り絞ることだと思う。先日、十数年ぶりにプレイした初代ときメモで、片桐さんと楽しい高校生活を過ごしたが、伝説の樹の下に来たのは美樹原さんだった(名字も洒落てるよね)。金月真美さんのみならず、数多のプレイヤーが意図しないこの妨害・割り込み告白に悩まされて来たと思うが、恋愛は言ったもん勝ち、奪ったもん勝ちである。

つまり、美樹原さんは、告白しなければチャンスは生まれないのだとゲームの中から伝えているのだ。したがって、私たちは美樹原さんの勇気に見習う必要がある。もちろん、私たちに伝説の樹はないが、「雨のちまた雨」からコミュニケーションのエッセンスを学び、思いを伝える準備もできる。以前書いたように私でさえ告白の成功回数は全2回100%だったのだ。告白はあなたが思うよりも、意外とうまくいくものなのかもしれない。

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