馬車郎の私邸

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声優・悠木碧朗読「手袋を買いに(著:新美南吉 )」:大人になってわかる名作童話の裏の良さとは?

声優の悠木碧さんが、名作童話/絵本の「手袋を買いに(著:新美南吉 )」の朗読を公開した(参考:青空文庫、 朗読:悠木碧、編集/BGM:小岩井ことり)。「自宅待機をがんばる親子の為に、絵本の読み聞かせを配信している大統領さんがいらっしゃる事を知り、すごく素敵だと思ったので私もチャレンジする」趣旨の「#せいゆうろうどくかい」第1弾である。

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素晴らしい試みだ。しかも、コロナ禍に鑑み、名作童話を読み聞かせようというプロフェッショナルがいて、それがデジタルメディアで届く。良い時代になったものだ。朗読はさすがの手練手管で、多種多様な声色と表現により生き生きと名作童話の世界が息づく。新鮮な味わいで物語が蘇る。とても昨日思い立って実践したものとは思えない。プロの技量に、恐れ入るばかりだ。

「手袋を買いに(著:新美南吉 )」といえば、「絵本ナビ」の代表的な感想はこうだ。

「厳しい寒さのなかでのお話ですが、狐の親子の会話や身体の丸み、雪の質感、夜の灯りなどなどからぬくもりの伝わってくる絵です。ほっとやさしい気持ちになります。」

「てぶくろを買いに、こぎつねを人間の町へ行かせる母さんぎつね。にんげんはおそろしいものなのよと、いいきかせ。はじめてみる人間の世界。おそろしいはずの人間からうけた優しさ。人間の親子のあたたかい光景。ひどい目にあったことのある母親ぎつねと、人間にやさしくされた子ぎつね。どっちが本当の人間なのでしょう。」

私も同感だ。子供の時に抱いた感想はそうだった。特に、個人的には「はじめてのおつかい」感を味わうことができるのも臨場感があって良い点だと思う。素晴らしい童話と絵本であることにも異論はないし、まだ見ぬ息子or娘にも、今回の朗読を聞かせたいものだ。しかし、おとなになるとちょっと違う着想も出てくる。大きく分けて2つだ。「資本主義と貨幣の素晴らしさ」「先入観やステレオタイプにとらわれず、物事を白黒分けて考えないことの重要性」だ。

第1に「資本主義と貨幣の素晴らしさ」について。該当箇所を引用すると、以下の通りだ。

子狐はその光がまばゆかったので、めんくらって、まちがった方の手を、――お母さまが出しちゃいけないと言ってよく聞かせた方の手をすきまからさしこんでしまいました。
「このお手々にちょうどいい手袋下さい」
 すると帽子屋さんは、おやおやと思いました。狐の手です。狐の手が手袋をくれと言うのです。これはきっとで買いに来たんだなと思いました。そこで、
「先にお金を下さい」と言いました。子狐はすなおに、握って来た白銅貨を二つ帽子屋さんに渡しました。帽子屋さんはそれを人差指ひとさしゆびのさきにのっけて、カチ合せて見ると、チンチンとよい音がしましたので、これは木の葉じゃない、ほんとのお金だと思いましたので、たなから子供用の毛糸の手袋をとり出して来て子狐の手に持たせてやりました。子狐は、お礼を言ってまた、もと来た道を帰り始めました。
「お母さんは、人間は恐ろしいものだって仰有おっしゃったがちっとも恐ろしくないや。だって僕の手を見てもどうもしなかったもの」と思いました。けれど子狐はいったい人間なんてどんなものか見たいと思いました。

狐であっても、金が本物とわかれば、人間の店主は手袋を売る。種族の違いを乗り越えて、お金のおかげで商取引は成立する。狐が生産できる財・サービスと手袋の等価交換 はどのくらいのものかはわからない。しかし、貨幣という媒介を通して交換は成立するのだ。ただし、母さん狐は二つの白銅貨をどのような手段で手に入れたかはわからないが。

第2に、「先入観やステレオタイプにとらわれず、物事を白黒分けて考えないことの重要性」だ。該当箇所を引用すると、以下の通りだ。

「母ちゃん、人間ってちっともこわかないや」
「どうして?」
「坊、間違えてほんとうのお手々出しちゃったの。でも帽子屋さん、つかまえやしなかったもの。ちゃんとこんないい暖い手袋くれたもの」
と言って手袋のはまった両手をパンパンやって見せました。お母さん狐は、「まあ!」とあきれましたが、「ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら」とつぶやきました。

 事前情報や最初の印象で、人を判断してはいけないというのは、重要な教訓だ。人の暖かさに触れる、好感を持つのは良いことで、それを感じることができる人生(狐生?)は良いものだろう。だが、そればかりを意識してはいけない。同時に、性善説と性悪説の両方で考える、白と黒の両面を考える重要性もこの物語は示唆している。

お母さん狐は、本文最後で「本当に人間はいいものかしら」と懐疑的な見方を示している。もっともな懸念だ。世の中は単にいい人間もいるという話で、全てがそうではないのだから。ただし、良い・悪いの二分法だけの考え方も短慮と言えるだろう。

お母さん狐は、今回の経験で人間に対して無警戒になってしまった小狐に厳重注意しても良いくらいだ。純真無垢は結構だが、悪意の有る無しに関わらず害をなす人間はどこにでもいるのだから。

したがって、ひとまずは「そんな優しい人間もいるのね」と小狐の話や思いを受け止めてあげた上で、「そんな優しい人間ばかりとは限らないのよ、ちゃんと気をつけなさいね」といった趣旨でたしなめるのが良いのかもしれない。

良い物語や古典作品は多義的な読み方が可能だ。エンターテイメントとして活用もできるし、様々な教訓を見出すこともできる。おとなになってから、もう一度名作童話に触れて見るのも一興だ。ましてや、一流声優の朗読で聞けるならば。(なお、この記事は7-17時の初テレワーク中に、朗読を聞きつつ合計30分で書きました。)

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