19年の学研の調査によれば、小学生のなりたい職業ランキングで「YouTuberなどのネット配信者」すなわちユーチューバーは2位（18年は3位）となった。ニコニコ動画のMAD職人だった（引退したわけではないよ！）私にしても、こんな時代が到来する日が来るとは驚いている。
ウォール・ストリート・ジャーナルは、米8歳児のユーチューバー旋風にあやかる小売各社の動向を紹介している。テキサス州の小学校2年生ライアン・カジ君は、フォーブスによるとユーチューブの収入ランキングで2年連続で首位に立った。ユーチューブの「ライアンズ・ワールド」チャンネルの登録者数は2300万人にものぼり、年間2000万ドル超の広告収入を稼ぎ出す。幼児・児童向けケーブル局「ニコロデオン」ではテレビ番組を持ち、小売り大手ウォルマートやターゲットでは、ライアン君のブランド名がついたおもちゃや歯ブラシ、下着まで販売されている。ポケット・ドット・ウォッチによると、ライアン君のブランド商品売上高は今年、1年前の4200万ドルから1億5000万ドルに達する勢いだ。
今や子供向けの主要なマーケティングチャネルは、テレビ（番組とCM）や店頭・チラシではなく、スマホやタブレットを通じたデジタルなものだ。NPDグループが米玩具協会の委託で実施した調査では、調査対象の2～5歳の男児の42％がおもちゃをユーチューブで知ったと答えたそうである。また14歳までの回答者の63％が、ユーチューブ上で見たことが理由で、実際に購入、またはリクエストしたと回答。このうち約43％はおもちゃ、23％はビデオゲームだった。
日本においても、ユーチューバーらのプロデュースなどを生業とする上場企業のUUUMは、直近の決算説明会資料によると、名だたるユーチューバーたちをサポートしている。こうした人気者たちへの憧れは、小学生のなりたい職業でユーチューバーを2位にまで押し上げてきた。あなたの子供が「ユーチューバーになりたい！」と言い出す可能性は思いのほか高い。私が勧めるアクションは、「添いつつずらす」ことだ。頭ごなしに何か言うのではなく、ひとまず受け止めて良い方向へと促すのが生産的だ。
まず、最初に「観察を促す」。実のところ、ユーチューバーのような耳目を引く人気者たちには学ぶべき点が多い。内容の妥当性や倫理、個人情報の問題などはさておき、どうやってアテンションを集めるか人一倍試行錯誤し、努力していることは想像に難くない。だから、子供にお気に入りのユーチューバーの面白いところ、あるいは良くないところを聞いてみよう。そうすることで観察眼や考える力を養い、プレゼンテーションの能力や物事の見せ方、意外性の演出、間やリアクションの取り方、興味関心の幅を広げることなど、ユーチューバーの特質を吸収するように促すのは一つの手だ。クラスの人気者になれるかもしれない。スベるリスクもあるが、茅野愛衣さんがおっしゃる通り、スベることを恐れてはやっていけません（笑）。タフな心を作ろう。
２つ目は、「本職ではなく副業や趣味に留めるように暗に促そう」。そもそも、大多数の親にとって、小さい頃のなりたい職業や夢を本気に受け止める必要は必ずしもないだろう。難しい職業を選ぶ際に親の反対を押し切って夢に向かって努力できない人間は、夢を叶えることはできない。とはいえ、超一流のユーチューバーでさえも、いつまでも人気を集め続けられるわけでなく、時には心身の健康を損なうことさえあることくらいは、さりげなく伝えておくべきだ。米国では人気ユーチューバーに燃え尽き症候群が広がっている。記事によれば、チャンネル登録者1億人を初めて達成したユーチューブ界のスーパースター、ピューディパイは、投稿した動画の中で「本当に疲れた」と語り、活動休止を宣言した。10月には人気の双子ユーチューバー、ドーラン兄弟（グレイソンとイーサン）が、5年間続けていた週1回（毎週火曜日）の動画投稿に終止符を打った。心の健康を維持するための決断だという。
3つ目は、「幅広い職業と仕事の可能性を予感させよう」。上記の学研の調査は53種の職業から選ばれる。しかも、当然だがそれらは小学生にわかりやすい職業しかない。加えて言えば、目と口に入るものに係る職業が選ばれやすいバイアスがある。お店を開いているBtoCの職業が中心なのはそのためだ。投資銀行マン、不動産営業、ひよこ鑑定士、スパイ、鬼殺隊隊士など…この世の無数の職業や仕事は含まれていない。
しかし、ここで重要なのは、個別具体的な職業や仕事を親が勧めることではない。BtoBビジネスの世界をはじめとして、便利な世の中を支えている企業がいかに多いか想像することを促すことが大切だ。たとえば、ユーチューバーの動画を見るために使っているスマートフォンは、最先端テクノロジーの玉手箱だ。村田製作所の積層セラミックコンデンサや高周波部品、ソニーのイメージセンサー、TDKのリチウムイオンポリマー電池など…枚挙にいとまがない。そうした企業を普通に生活していて意識することはあまりないが、他にもサービスやモノ作りで活躍する企業はごまんとある。
以上で、処方箋と思考実験を述べてきた。ただし、小学生の時に夢見た職業に実際に就く人はそうはいだろう。「鬼滅の刃」で無残さんが言う通り「日銭を稼いで静かに暮らせば良いだろう。殆どの人間がそうしている」のだから。また、ドラッカーが『非営利組織の経営』で述べる通り、「最初の仕事はくじ引きである。最初から適した仕事につく確率は高くない。しかも、得るべきところを知り、自分に向いた仕事に移れるようになるには数年を要する」。加えて、私が重要と考えるのは、ジョブズが言うような「点と点を繋げる」ことだ。その点は「実体験で語る声優養成所に通う7つのメリット」の記事で書いているので、よろしければこちらの記事もご参考にされたい。あなたの子供が「声優になりたい！」と言い出す可能性もありうるしね。
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