馬車郎の私邸

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あらためて確認しておきたい逆イールドカーブのポイント

14日の米国市場で、2年債-10年債利回りの逆転、いわゆる景気後退の予兆として市場関係者に恐れられている逆イールドカーブが、2007年以来、再び示現した(3カ月物と10年は以前にも)。米国の主要な株式指数であるNYダウ、S&P500、ナスダックは揃って3%前後の大幅な下落に見舞われた。111

米30年債利回りでさえ一時、2.018%まで低下。2016年7月につけた日中取引・過去最低水準の2.094%を大きく下回った。折しも、ドイツと中国の経済指標の落ち込みも顕著で、ドイツ10年物国債利回りは14日午前にマイナス0.624%に低下し、過去最低を更新した。日本においても、7年債までのところで長期金利が短期金利を下回る逆イールドの状態になっている。

トランプ大統領は相変わらず、「中国は米国の問題ではない。香港の状況は良くないが。米国の問題は米金融当局だ。過去の利上げは幅もスピードも行き過ぎていた」と、景気失速とあらば、パウエルFRB議長にその責任をなすりつけようとしている。タリフマン・トランプ大統領の迷言・暴言で2018年を振り返ったが、今年も絶好調だ。

また、こうもツイートしている。「スプレッド(利回り差)はあまりにも大きく、何も分かっていないパウエル議長とFRBに他国は感謝している。ドイツなど多くの国はゲームに興じている!クレージーな逆イールドカーブ!われわれは簡単に大きな報酬と利益を手に入れるはずなのに、FRBがわれわれの妨げとなっている。われわれは勝つだろう!」

「クレージーな逆イールドカーブ!」と騒ぐのは容易い。しかし、以前に「注視しておきたい米2年・10年国債利回りの逆イールドカーブ化」の記事で書いたように、大まかなポイントは3つある。すなわち…
1:景気後退の前触れ示唆に定評がある
2:だが、あくまで相関関係であって因果関係ではない
3:予兆だったとしても、景気後退に実際に陥るまで時間があり、しかもまちまちである

1:景気後退の前触れ示唆に定評がある
シティグループによると、(2-10年の)米国債のイールドカーブが逆イールド化した例は1960年以来で9回あるが、そのうちの7回はその後、景気後退に陥っている。少なくとも、ヒンデンブルグ・オーメンよりは頼りになりそうだ。また、ある意味で自己成就的な性質を持つ点にも留意したい。イールドカーブは景気後退の予兆を示すという過去の実績と評判は、信じると信じざるとに関わらず、様々な主体の投資判断に重要な影響を与えているのかもしれない。

2:だが、あくまで相関関係であって因果関係ではない
混同してはいけない点であり、イエレン元FRB議長もそう言っている。つまり、逆イールドが景気後退を起こしているのではなく、景気後退の前に逆イールドが観測されているというだけなのだ。逆イールドが起きた、もう相場はダメだ、という認識はあまりにも短絡的である。冷静になろう。

3:予兆だったとしても、景気後退に実際に陥るまで時間があり、しかもまちまちである
景気後退との関連では、JPモルガン・チェースの佐々木融氏は、経験則的な特徴は一概に指摘できないとコメントする。国債金利が最初に逆転してから、米経済が景気後退入りするまでには時間を要しており、前回(2006年2月)は1年10カ月、前々回(98年6月、その後00年2月に再逆転)は2年9カ月だった。随分と幅がある。

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そのうえ、株価は逆イールド後、暴落の一途をたどるわけでもない。むしろ景気後退までに高値をつけることさえある。歴史をたどって見れば、バンク・オブ・アメリカによると、1956年以降で2年債利回りが10年債利回りを上回ったケースは10回あり、逆イールド発生からS&P500が天井を打つまでの期間は過去の事例では2カ月から2年という幅があった。これまた時間がバラバラである。

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222最後におさらいをしてみよう。15日現在、米国債のイールドカーブは単なる右肩下がりではなく、5年債を谷にしたV字型を描いている。WSJのジェームズ・マッキントッシュ記者は、このV字型のイールドカーブについて、多様な論点と解釈の幅を指摘している。(2-10年だけでなく)3カ月物と10年債のイールドカーブは過去におおむね正確に警鐘を鳴らしていたと同時に、なぜそれほど予想が当たるのか明確な理由は分からないため、多大な不確実性が伴うことも理解すべきだと主張する。さらに、もしその不吉な予想が当たっているとしても、米国はあと1年ほど景気後退を回避するだろうと述べる。

このように、逆イールド自体は慌てふためくべき材料ではないが、それなりに不吉な前触れとして重視されており、気を引き締めるべき局面に来たことを意識する必要がある。

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