馬車郎の私邸

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名曲紹介17:人生の多面性を醸し出す珠玉のボス戦BGM!:ドラゴンクエスト5「不死身の敵に挑む」:スーパーファミコン版音源

辛い話はいったん忘れ、往年の名曲に思いを馳せよう。以前、名曲紹介6:恐るべき強大な敵を格調高く表現した名曲!―ファイナルファンタジー5 ボス戦BGM「バトル2」をご紹介した。対をなす珠玉のボス戦BGMとして、「ドラゴンクエスト5 天空の花嫁」の「不死身の敵に挑む」のSFC版を挙げてみたい。

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そう、ポイントはSFC、すなわちスーパーファミコン版音源である。もちろん、PS/DS/スマホアプリのリメイク版におけるオーケストラサウンド風、あるいは交響楽団の演奏もとても魅力的で、大いに評価している。ダイナミックな旋律は迫力があり、実にオーケストラ映えする。特にティンパニが大暴れだ。

しかし、あまりに豪快すぎて、原曲の繊細さ、不気味さ、ふとした優美さ、切迫感、焦燥感、悲壮感、臨場感といった要素に関して、SFC音源に軍配が上がると私は考える。特に超高速のトレモロ(単一の高さの音を連続して小刻みに演奏する技法、ならびに複数の高さの音を交互に小刻みに演奏する技法)は、人間の演奏では再現不可能だ。

SFCとして初のドラクエである5は、親子三代にわたる大河ドラマである。悲劇性と人生の喜びの双方を描く今作の楽曲群は、シリーズ屈指の名曲揃いだ。ただし、一聴すると、今にして思えばSFC音源は、チープに聞こえる面もある。特に、笛のような甲高い音は電子音じみていて、耳に障ると感じる方もいるだろう。しかし、その危うさやアンバランスさ、不協和音といった要素が、かえって功を奏しているのが、ボス戦用BGM「不死身の敵に挑む」なのだ。

楽曲の具体的な話に入る前に、スーパーファミコンの音源とドラゴンクエスト5の楽曲の特徴に理解を深めるために、関連箇所を岩崎 祐之助「ゲーム音楽史 スーパーマリオとドラクエを始点とするゲーム・ミュージックの歴史」から、引用をしておこう。実はソニーも意外な貢献をしているのだ。

スーパーファミコンの音源は、なんと8パートすべてがPCM音源(自然界の音や楽器音を取り込み、それらを使って楽曲を演奏できる音源)で構成されています。当時、他のゲーム機に搭載されていたPCM音源は、前述の通り矩形波の鳴る音源やFM音源などと併用されていました。アーケード・ゲームよりも価格コストが厳しい家庭用ゲーム機で、8パートすべてがPCM音源という構成は驚異的なものでした。

 このような驚きの背景には、ソニーの技術力があります。スーパーファミコンには、元々別の音源が搭載される予定だったようですが、ソニーによって音源チップのSPC700が提案され、結果任天堂にスーパーファミコンの音源として採用されました。おそらく、性能に対する価格コストの低さが大きく評価されたのではないでしょうか。ちなみに、SPC700の後継にあたる、SPUとSPU2という音源チップは、それぞれプレイステーションとプレイステーション2に搭載され、ソニーの音源チップは、スーパーファミコン以降のメジャーなゲーム機で活躍することになります。  

一方でSPC700は、サンプリング音の波形に使えるメモリが小さいです。これは制限とも言えるのですが、当時のゲーム音楽制作者たちは、限られたメモリの中でサンプリング方法や発音方法を工夫し、音色や楽曲の質の向上を目指しました。これが結果として、ゲーム音楽制作者やゲーム会社ごとの特色につながっていきます。

『ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁』では、SPC700の小さいメモリでオーケストラ調の楽曲の質をより高めるために、まず弦楽器の集合体であるストリングスに音質が満足できるレベルになるまでメモリを割き、残ったメモリを他の楽器で分け合うという方針をとっています。さらには、このような方針で作られたストリングスを中心に楽曲を構成することで、全体的に高音質な印象を与えることに成功しています。


以上のように、ゲームの音源であるがゆえの制約が、独特の個性を生み出しているのである。「不死身の敵に挑む」について、4つのパートに分け、私なりの論評と感想を以下に述べる。

①:1~16秒
冒頭、弦楽器とも管楽器ともとれる激しい旋律が、実にキャッチーだ。さらに、笛を思わせる電子音がアクセントをつける。ボス戦が始まった瞬間にただならぬ雰囲気に突入した感じが、鮮烈だ。ボス戦時には、攻撃の際に「キシィッ」というサウンドエフェクトが付くのが5のSFC版の特色。また、他シリーズと異なり3人パーティと1人少なく、苦戦を余儀なくされる点も5のSFC版の特徴だ。ボス戦で相手にするのは、人生における難敵たちだ。ざっと振り返ってみよう。

まずは、幼馴染ビアンカとのレヌール城のお化け退治で遭遇する「おやぶんゴースト」。中盤では、炎のリングが眠る火山洞窟に潜む「ようがんげんじん×3」。仲間モンスターたちの特性の理解、助力なくしては、その恐るべき火炎攻撃の連発の前に苦戦は必至だ。そして、生涯の怨敵「ゲマ」。父に止めを刺したメラゾーマに加え、意外に強烈な打撃と、仲間をマヒに陥れる「やけつく息」も脅威だ。シナリオ上「ゲマ」の陰に隠れがちだが、光の教団の教祖「イブール」、大魔王「ミルドラース」も、十分に強敵である。

②:17~28秒
バックで小刻みかつ超高速で伴奏する弦楽器に乗せて、木管楽器のような不気味な和音が長い音で展開されるなか、ホルンを連想させる金管楽器が妖艶な味付けを添える。音の強弱、高低、緩急が絶妙に組み合わさり、重厚感、立体感や奥行きを生み出している。哀愁を漂わせつつ、さらなる展開へとつながるパートだ。

③:29~49秒
実にせわしない。ボス戦の慌ただしいコマンド入力を髣髴とさせるパートだ。バックで小刻みかつ超高速で伴奏する弦楽器が継続して緊張感を演出するなか、笛を思わせる電子音が曲調と局面の変化を繰り出し、管楽器が迫り来る苛烈な猛攻を示唆するかのように、ややくどいまでに激しく上下動しながら螺旋状に音階が展開していく。さらに、一種のシンコペーション(強拍と弱拍の通常の位置関係を変え、音楽のリズムに緊張感を生み出す手法)なのか、拍子もずいぶんと変則的だ。思わず、不安定で蹴躓きそうな感覚によろめく。だが、それはある意味で、人生が容易にうまくいかないことを象徴しているのかもしれない。

④:50~59秒
一転して格調高い節回しで、ループにつながるパート。管楽器の和音が実に優美な旋律で、この戦いが、人生の新たな局面を切り開く様を暗示しているように感じる。

RPGは主人公の人生を追体験するわけだが、ドラクエ5はまさにその真骨頂である。長い冒険の旅を彩る音楽は特に印象的だ。「不死身の敵に挑む」はゲーム史に残る名曲であり、特にスーパーファミコンという名ゲーム機でその真価を発揮していると言えよう。


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