馬車郎の私邸

漫画、アニメ、ゲーム、音楽、将棋、プロレス観戦記など「趣味に係るエッセイ・感想・レビュー記事」をお届けします!ある市場関係者のWeb上の私邸

ドラゴンクエスト ユア・ストーリーの悪評の数々からスクウェア・エニックスが学ぶべき3つの論点

京アニに続く、日本文化の悲しいニュースは(もちろん人が死んだわけではないが)、「ドラクエ」からもたらされた。どうやら、スクウェア・エニックスは、本日の第1四半期決算、10/24の「ドラゴンクエストX いばらの巫女と滅びの神 オンライン」発売、来年と目されるFF7リメイクのリリースの前に、景気づけとなりうる映画作品の扱い方を間違えたようだ。

8/2公開の「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」について、「悪霊の神々」ならぬ「悪評の数々」ばかり聞こえてくる。たしかに、CGグラフィックス、シリーズ各作品から集めた音楽、役者陣の好演などは一定の評価を与えられているようだ。しかしながら、親子三代の長大かつ重厚なストーリーを活かしきれなかったばかりでなく、ラスト10分のメッセージ性のある意欲的な仕掛けも概ね不評だった模様だ。
SnapCrab_NoName_2019-8-5_21-53-10_No-00
メガホンを取り、脚本も担当したのは監督・山崎貴氏。「ALWAYS 三丁目の夕日」「永遠の0」などが代表作だ。だが、今回の作品では「寄生獣 」の時のような、原作を踏まえた実写・VFX作品の秀作には、残念ながらならなかったようだ。山崎貴氏のキャリアに傷がついたばかりか、直近の「アルキメデスの大戦 The Great War of Archimedes(7月公開)」に加え、「ルパン三世 THE FIRST(2019年12月6日公開予定)」の下馬評にも影響しそうだ。


どういう経緯で制作陣が仕事を請け負う事になったのかはわからないが、なんにせよスクウェア・エニックスに最終責任がある(なお、製作委員会には同社の他に、東宝、KDDI、LINE、各テレビ局などが名を連ねる)。詳細には立ち入らないが、今回の失敗から、スクウェア・エニックスが学ぶべき3つの論点があると考える。

第1に、自社の原作ゲームに誠意を持って真摯に向き合っている姿勢を示すべきだった。この点は、既存・新規のファン双方に向け作品を展開する上で、非常に重要な点だということが、あらためて浮き彫りになった。歴史あるタイトルならなおさらである。スタッフには堀井雄二、すぎやまこういちの名はあれど、キャラクターデザインの鳥山明主人公の名を明らかに参考したと見られるが、ノベライズを手掛けた久美沙織の名はクレジットされていないようだ。これは、基本を抑えていないし、筋を通していないという印象を与える。

加えて、極めて単純な話で、ドラクエ5を母体にするならば(本当は大河ドラマでやったほうがいいと思うくらいだが)、然るべきビッグプロジェクトとして、劇場版3部作でやるべきだろう。CDシアター(ドラマCD)(123)には、出来たことなのだから。丁寧に作れば、幅広い世代にリーチできる作品だけに、惜しいことをした。資金面からも本気で向き合うことは可能だったようにも思える。別にかつての映画版「ファイナルファンタジー」ほどの資金を投じろとは言わない。世界的低金利の今、資金調達は債券発行や銀行融資でも良いし、19/3期決算短信によれば、1295億円と他のソフトメーカー同様に潤沢なキャッシュを有しているから、手元資金でもよい。本業の開発投資や今回のような自社コンテンツを活性化するような投資などにお金を回さないならば、自社株買いや配当で還元すべきである。

第2に、物語におけるメタフィクションオチの扱い方だ。これは物語において、非常にセンシティブで、取り扱いに注意を要する手法である。実は、スクウェア・エニックスは似たような賛否両論に直面した事がある。それは、スターオーシャン Till the End of Timeだ。この経験に学ぶならば、もう少し脚本の展開に慎重になるべきだっただろう。少なくとも、ロボット玩具のためのロボットアニメという上位構造をうまく使ったストーリー展開の「勇者特急マイトガイン」とまではいかないまでも、メタフィクション作品としてよく出来た作品に仕上げることが出来たかもしれない。だが、ドラクエ5、いや、ドラクエでそれをやる必然性は見受けられない。FullSizeRender

第3に、自社コンテンツのブランド・マーケティングの観点から、ドラクエがキラーコンテンツであるという点をもっと強く自覚を持つべきだ。ご覧の画像の通り、これだけの失望にも関わらず(失望されたがゆえに?)アプリ版ドラゴンクエスト5は、現在AppStoreで有料ゲームの1位に躍り出ている(価格は1200円だ、映画を見に行くより安い)。5のSFC版は280万本を売上げ、各リメイク作もまずまずのセールスであり、50代以下の日本人にとってはドラクエは潜在的に関心が高い国民的RPGなのである。

したがって、その重要性とポテンシャルをスクウェア・エニックスは再認識するべきである。現在、スマホ展開されているドラクエ関連のスマホゲームのCMを見れば一目瞭然だが、そこにはかつてのドラクエらしさは失われている。各作品の勇者たち、あるいはラスボスの魔王たちが、この種のCMではよく見るありふれた稚拙な訴求に、身をやつしている姿を見ると、今回の騒動に勝るとも劣らない悲しみが湧いてくる。

先日、実写版「氷菓」「ニセコイ」「ママレード・ボーイ」を例に漫画・アニメの実写版を楽しむための5つの方法を提示したばかりだった。とはいえ、この5つの方法をもってしても、今回の映画は救いようがないように見受けられる。

だが、幸いなことに、優れた原作ゲームがあり、SFCやPS、DSがなくとも、スマホでも手軽にできるようになっている。声優さんたちの名演技のCDシアターもあれば、久美沙織の流麗な文体の小説版も3巻ある。ゲームブックもなかなか面白いし、4コマ漫画劇場も好きだった。

この度のことは単に、「ドラゴンクエスト5」という優れたゲーム文化を思い起こすきっかけにすればよい。それが生産的な考え方だ。

ドラゴンクエストV 天空の花嫁
SQUARE ENIX CO., LTD. (2017-01-11)
売り上げランキング: 3
小説 ドラゴンクエスト5〈1〉(エニックス文庫)
久美 沙織
エニックス
売り上げランキング: 105,259
小説 ドラゴンクエスト5〈2〉
久美 沙織
エニックス
売り上げランキング: 143,479
ドラゴンクエスト5〈3〉 (エニックス文庫)
久美 沙織
エニックス
売り上げランキング: 104,060