馬車郎の私邸

漫画、アニメ、ゲーム、音楽、将棋、プロレス観戦記など「趣味に係るエッセイ・感想・レビュー記事」をお届けします!ある市場関係者のWeb上の私邸

これからのプロレスリング・ノアの経営戦略について

新日本プロレスについて昨日は述べたので、今日はプロレスリング・ノアだ。ノアは直近、親会社が変わり、新たな一歩を踏み出そうとしている。マーケティング戦略を練り直す好機だ。

日刊スポーツから経緯について、まず引用してみよう。プロレスリング・ノアの新オーナーとなった広告代理店、リデット・エンターテインメント(以下リデット社)の武田有弘常務取締役が29日、東京・有楽町の新事務所でオーナーチェンジの経緯を説明した。リデット社と、前オーナーのエストビーで株式の移行などの話がまとまったのが昨年11月20日前後。リデット社は75%の株式を取得し、ノアを子会社化した。新体制に伴い、これまで主に運営を担当していた内田雅之会長が今月いっぱいで退任。前体制で社長を務めていた不破洋介社長は留任し、運営を引き継ぐ。また、リデット社の社員のまま武田氏が、現場を取り仕切ることになる。武田氏は「当面は、3月10日の横浜文化体育館大会までに、新しくなったイメージをつくりたい。ビッグマッチも増やしていきたい。選手たちには、リング上で明確にノアの新しい顔をつくってほしい。その新しい顔にノアを引っ張ってもらいたい」と話した。所属選手たちとは、個別の面接などで新体制の説明をしているという。また「オーナーからは、明確に業界2位を目指すように言われている。そのために、何をやればいいか考えていきたい」と話した。

文面を見る限り、エストビー社から円満に経営権は移譲されたようだ。内田雅之会長は退任だがリデット社の特別顧問に就任、不破洋介社長は留任する。新たに現場を取り仕切る武田常務は元・新日本プロレスの執行役員だったそうで、業界の経験を有する人物のようだ。そのノウハウや手腕には期待できるだろう。

2/13付週刊プロレス(No.1996)では、鈴木裕之・新オーナーのインタビューにおいてNOAHの改革に前向きなコメントが目立った。企業再生を手がけるのはこれで4回目だという点も頼もしい。NOAHは経営危機に際して、創業以来支えているリーブ社以外にスポンサーが次々と現れているのは面白い。生きるべき会社なのだろう。人材不足と資金繰りの面をまずは親会社が支援するようだ。

緑をリングマットから外し、ロゴを刷新、脱三沢を掲げるというのは、新体制構築の上で概ね妥当だ。たしかに、シンボルカラーはブランド価値だとは思うが、NOAHの戦いのなかに三沢光晴は生き続けている以上、結局のところリングでNOAHの戦いが繰り広げられていさえすれば、ファンは満足するだろう。何よりそれがNOAHのコアバリューだからだ。

また、明確な業界2位を目指すそうで、2020年からはビッグマッチ年4回体制を構築したいとのことだ。前者については、ポジショニングからすると妥当な方針で現実感がある。後者については、大阪府立体育会館(の大きい方)、横浜文化体育館、有明コロシアムなどで、2020年の段階でそれができれば、日本武道館が見える。難しくとも目指すべき道であり、方向性は正しい。

さて、問題はどうやって実現するかだ。新日本プロレスは業界トップ企業として、マスを狙う、あるいは海外にも業容を拡大する。だが、トップ企業ほど経営資源を持たない2番手以降の企業が取るべき戦略は、差別化・集中戦略ということになる。

プロダクト(商品)としてのNOAHの試合は、ステレオタイプ的には保守本流という言葉で形容されるように、WWEに近づいていく新日本プロレスと、差別化はすでに十分できている。見巧者が唸る試合を提供するという面では、比較的クオリティに安心感はある。

NOAHが狙うべきターゲット・セグメントは、旧来からのプロレスファンを中核とした顧客基盤をガッチリ掴むことだ。新規顧客の獲得もできれば良いが、拡大する新日本プロレスの顧客層から、新日本プロレスだけでは飽き足らない目の肥えたファンを獲得することも重要になってくるだろう。

セ・リーグに対するパ・リーグのように地域密着型で経営資源を集中投下し、確実に会場のキャパシティを埋めることも重要だ。資金繰りが安定するまでは地方巡業の一部で不採算な会場からは思い切って撤退し、東名阪に集中すべきだ。日本の人口は半分が首都圏に集中している。名古屋・大阪圏は注力するにしても、移動費・宿泊費をかけてまでのリターンがあるのか、精査しなくてはなるまい(地方圏のファンにはデジタル配信などの手段によってフォローするか、十分な収益基盤を確立した後に再び巡業する必要がある)。

後楽園ホールを着実に満員(約1600人)にすることも試金石になるだろう。2019年は18回開催が予定されているが、大きな会場を埋める前に中核的なファンをしっかり後楽園に呼び込める体制強化が重要だ。幸い、ここは身を結びつつある。2/1は平日開催かつ気温も冷え込む悪条件ながら、南側B席の上のほうは寂しい一方で、チケット単価の高いS・A席はがっちり埋まっていた。これは明るい兆しだ。後楽園ホールの3倍~5倍呼び込めれば、ビッグマッチの会場は埋まる。10倍超を集めれば日本武道家は埋まる。かつてはそれを年6回くらいやっていた実績もある。

営業活動はこうした会場群の沿線で重点的に実施するべきだ。以前書いたように、大原はじめ選手の川崎市での地道なエリアマーティングはまったくもって正しい。150万人を超えた川崎市の人口の1%が来るだけで、日本武道館は埋まってしまうのだから。この論考で指摘したように、錦糸町も狙い目だ。総武線で後楽園ホール(水道橋駅)に一本、両国国技館(両国駅)は隣、地下鉄半蔵門線で日本武道館(九段下駅)、横須賀・総武快速線で横浜文化体育会館(関内駅)も一本だ。

以上は一例だが、首都圏住民の移動手段は主に鉄道なのだから、エリアマーケティングを考える上では、会場に物理的・心理的に行きやすい近さに住んでいる人々を狙うべきだろう。もちろん、各選手の拠点において、大原選手のように草の根活動を展開する必要もある。棚橋弘至選手の著書によると、地道な営業活動は、新日本プロレス復活の要因の一つでもあるようだ。現ヘビー級チャンピオン・清宮選手は地元の埼玉県・浦和周辺を開拓すべきだし、その他の選手の活動も重要になろう。丸藤選手は埼玉栄高校のレスリング部、杉浦選手は自衛隊レスリング部から有望選手をスカウトすべきだ。

NOAHの新本社は有楽町の立派なビルだという。働き方改革の旗振りのもと、労働時間の厳格化の流れは一つのビジネスチャンスだ。早帰りに伴う観戦需要を取り込んで企業を開拓するうえで、近隣企業の開拓も重要だろう。企業という一つのコミュニティは、複数名での観覧も見込める。また、ベネフィット・ワンリログループなどの福利厚生運営代行企業のパッケージにチケットの割引購入を出してみるのもチャネル拡大の一助になるかもしれない。

チケットは現在、後楽園ホールは基本的には7000、5000、4000円の3種類だが、6000円と3000円の2種類にシンプル化するのも一つの手だ。北・東・西のS、A席、南側のリングに近い部分を6000円にして平準化し、それ以外(主に南側)を3000円で固定することで間口を広げる。サラリーマンの懐事情は決して芳しくはないし、女性やシニア層においても同様だ。価格戦略は下を広くする必要がある。

商品(試合)の流通チャネルは試合会場だけではない。居間のテレビや部屋のパソコンだけでなく、手のひらのスマホも狙うべきだ。とすると、定額配信サービスのアプリケーションとなるが、リデット社の投資だけでまかないきれないのならば、Amazon Prime VideoやNetflixを経由した定額配信も代替案になりうる。安定収益源を構築するにはサブスクリプションのビジネスモデルは必要だ。

また、放映権収入も重要である。G+にテコ入れを実施するだけでなく(あまりに放映される機会が少なくなったので私は解約してしまった)、新日本プロレスの躍進を引き合いに出して日本テレビに地上波のしかるべき時間帯での放送を促すべきだ。あるいは番組のテレビCMを提供する用意があるスポンサーを連れてきて、交渉に臨む必要もあると考える。広告代理店であるリデット社がこの交渉においてイニシアティブを取るべきだ。

広告戦略では、ネット広告のみならず、多数の人が行き交う駅の交通広告も鍵になろう。何も、新日本プロレスのように山手線ラッピングまではやる必要はない。ターゲット層に即して、広告宣伝費を適切な形で投入するべきだ。この点もリデット社の知見が役立つだろう。もちろん、利デット者の規模や業容を考慮すれば過大な期待は禁物ではあるが…

リング上の戦いについては実はそれほど心配していない。丸藤、杉浦はまだまだ元気だし、齋藤、ヨネらのベテランもいる。潮崎、谷口に一段の奮起を期待したいが、中嶋、北宮、拳王はアクティブで小峠も賑やか、他にもタレントは揃っている。ジュニア戦線は大阪プロレスやKAIENTAI DOJOにルーツを持つ選手が合流し、ここにフリーの田中稔や鈴木鼓太郎が加わる。そのうえ、熊野、清宮、宮脇、稲村、岡田ら若手レスラーが育ってきたことで選手層に厚みが出てきた。ほんの数年前に比べればずいぶん希望がある状態と言える。そうしたリング上の充実ぶりを、経営が適切な形で潜在的な顧客に届けることさえできれば前途は明るいし、日本武道館を満員にすることはたやすい。戦略は繰り返しになるが、差別化と集中が鍵になるだろう。私は期待している。

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