馬車郎の私邸

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サッカー(セルヒオ・ラモス)、アメフト(日大)・プロレス(マサ北宮)のラフプレーから導き出す2つの結論

先日もサッカーのラフプレーの話だったが(プロレスとサッカーを融合した韓国式ハイブリッド悪質プレーについて)、他にもこの種の話題があるので、ここで一筆ものしておきたいと思う。

レアル・マドリードのキャプテンで、スペイン代表の主将としてW杯にも出場するセルヒオ・ラモス選手というと、ディフェンスに定評のあるだけでなく、フィジカル、テクニック、統率力、いずれにおいても超一流の選手だ。

5月26日、リバプールとのチャンピオンズリーグ決勝戦で両者無得点の場面で事件は起こった。ディフェンダーのラモス選手は、リバプールの得点源にしてエジプトの代表選手でもあるモハメド・サラー選手に対し、右後方から足をかけて、まさか脇固め(フジワラ・アーム・バー)へと移行しようとしたわけでもないが腕を脇にはさみ、結果としてサラー選手を倒した。サラー氏は肩の靭帯を負傷し退場となった。試合は、レアルが3対1でリバプールに勝利した。

たとえばこの動画を見る限り少なくともこの種のプレーの前科はあるし、激しい当たりを厭わない様子だ。前述の試合では、他にも交錯プレーの際に相手GKロリス・カリウスも脳しんとうを起こしていたことが後に明らかになっている17年12月2日にはリーガ・エスパニョーラで史上最多となる通算19度目の退場を命じられているばかりか、UEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)で3月7日に行われたパリSG戦で33枚目のイエローカードを受け、史上1位となったそうである。

もちろん、このプレーが意図的なものだったかは本人以外はわからない。消極的事実の証明(ないことの証明)を「悪魔の証明」とも言うが、存在しないという主張の根拠を提示することはできないのだ。しかし、動機とメリットは十分にあるため、疑われること自体はもっともなことだ。プレミアリーグ新記録32ゴールでの得点王を破壊することは、同一リーグのチームを削ぐ事ができる。6月開幕のワールドカップでスペインとエジプトは別の予選グループではあるが、トーナメントで対戦することはありうる。プレーの中で「(あわよくば)潰す」ことができれば、退場処分と不名誉以外は損がない。自発的な意志に基づく行なのか、それとも関西学院大のクオーターバック(QB)に対する日大選手の悪質なタックルのように、「1プレー目で潰せば出してやる」と監督やコーチに支持された、ないし教唆されたのかどうかはわからない。

thIH8CTXR1干支が一周りしたがこんな事件もあった。2006年のワールドカップ決勝戦でフランスのキャプテン、ジネディーヌ・ジダン選手が試合終了間際に侮蔑的な言葉を浴びせられたとして、イタリアのマテラッツィ選手に怒りの頭突きをくらわせた。ノアのマイバッハ谷口選手がときたま見せる、相手の胸へのノータッチヘッドバットを彷彿とさせる。ジダン選手は頭突きを得意技としておりユヴェントス時代の2000年チャンピオンズリーグ対ハンブルガーSV戦、レアル・マドリード時代の2004年リーガ・エスパニョーラ対ムルシア戦で頭突きを繰り出した実績があるそうだ。ジダンが2016年から2018年までセルヒオ・ラモス選手が所属するレアル・マドリードの監督だったことはなんとも皮肉なめぐり合わせだ。

さて、プロレスにおいては、レフェリーが5カウントを数えるまでなら反則が認められており、凶器や鉄柵、首絞め、噛みつき、パンチなどによる攻撃は、総称してラフファイトとも普通に言われるくらいだ。「タイガーマスク」の漫画において、悪役レスラー養成機関「虎の穴」で鍛えられたタイガーマスクが、生来染み付いたダーティファイトと、身につけんとするクリーンファイトの間で煩悶、苦悩するが、最後にプロレスの要諦はパワー、テクニック、反則の3つを備えることが超一流のプロレスラーなのだと悟るのである。

5月29日、日大の最寄り駅である水道橋、後楽園ホールで友人と「プロレスリング・ノアNavig with Breeze 2018 」を観戦。GHCタッグ選手権試合で驚くべきことが起こった。潮崎豪&清宮海斗の王者組から、ベルトを奪回すべく中嶋勝彦&マサ北宮 の前王者組が潮崎選手に厳しい膝への攻撃を浴びせた。これ自体はプロレスではよくある光景だ。前王者組は、前哨戦で徹底的に潮崎選手の膝を痛めつけており、この日潮崎選手はガチガチに膝にテーピングをして臨んでいた。

以前に書いたこの試合(福澤朗アナの名実況について―1995年6月9日三沢光晴、小橋健太vs川田利明、田上明を例に―)の川田利明選手のように、ロープワークの攻防からコーナーに控える清宮選手を、中嶋選手が場外に蹴り飛ばした次の瞬間、衝撃の光景が現出した。マサ北宮選手が、背後の死角から、潮崎選手が負傷している足に対して、日大式の悪質殺人タックルをぶちかましたのである。(このリンクの12分過ぎ

日大の事件発生からまだ2週間経ったかどうかの時期に行われたので、当然場内には戦慄が走り騒然となった。そのうえ、奇しくも日大の内田監督と井上コーチと、ノアの内田雅之会長、前座に出場していた井上雅央選手の名字が同じであることから、「指示はあったのか」というヤジまで飛ぶ始末。

パートナーの清宮選手を的確に排除しつつ、中嶋、北宮組は苛烈な膝攻めを潮崎に展開。ニークラッシャーや関節技のみならず、中嶋選手は容赦のないローキックの連打で膝を破壊つくさんとする。潮崎選手は不屈の闘志で耐えに耐え、反撃。ゴーフラッシャー、リミットブレイクの大技で中嶋を追い込むが、トドメとばかりに放った豪腕ラリアットをかわされ、中嶋のハイキックが後頭部に炸裂。前かがみになったところに中嶋選手が走り込んで思いっきり顔面を蹴り上げたので度肝を抜かれた。続けざまのヴァーティカル・スパイク(垂直落下式ブレーンバスター)でベルトを奪還した。

中嶋、北宮組の勝ちへの執念が、凄惨かつ不穏試合めいた展開となったが、それ以上に戦い抜いた潮崎選手が立派であると思う。プロレスのリングは非日常の空間だ。負傷している箇所に夥しい数の集中攻撃を受けながらも健闘した潮崎選手にジョジョで言うところの「凄み」を感じた。論客のフミ斎藤氏が「ロラン・バルトの『レッスルする世界』はプロレス論の古典」の記事で引用するように、「プロレスのよさは度を超えた《見せ物》であること」であり、「プロレスの試合で意味を持つのは各瞬間で、持続ではない。観客はある種の情熱の瞬間的映像を期待し、プロレスは意味の読みとりを要求する」のである。

プロレスの本来の意味とは「修辞学的誇張――情熱の強調、絶頂のくり返し、(観客を含めた)レスラーたちのやりとりの激昂、異様な混乱への到達、最後の大騒ぎ――である。規則も形式の法則もレフェリーの制止もリングの限界も廃止され、客席にはみ出し、レスラー、セコンド、そして観客をもごちゃまぜに巻き込む、一種のはめを外した大狂乱である」とバルトは結論づける。

この試合に私が見出す一つの意味は、神話の如き悲劇性である。さながら潮崎の奮闘はギリシャ神話の英雄アキレウスのようだ。アキレウスは急所のアキレス腱をイーリオスの王子パリスに射られ、瀕死の重傷を負ったものの、再び立ち上がりイーリオス勢を追い回すがついに予言どおりの結末を迎えた。プロレスの試合の見方は、観客それぞれに自由な見方が許されるのである。

ずいぶんと長くなったが、結論は2つである。プロレスラーは半端ないって!ということ、サッカーはプロレスではないという単純な事実だ。



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