馬車郎の私邸

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福澤朗アナの名実況について―1995年6月9日三沢光晴、小橋健太vs川田利明、田上明を例に―

6月9日というと自分が一番好きなプロレスの試合を思い出す。全日本プロレスの1995年6月9日の世界タッグ選手権試合「三沢光晴、小橋健太vs川田利明、田上明」だ。この年のベストバウトにも選ばれた、まさに四天王プロレス!という一戦。

自分は生で見た試合というわけではないのだが、とても好きな試合。とにかく三沢と小橋が負傷箇所を徹底的に責められながらも異常すぎる粘りを見せるのが凄まじい。福澤朗アナの実況という面でも大好きなので、その名言(迷言)を紹介しながら、活字でその試合の様子を追っていきたいと思う。

まずは序盤の攻防でいきなり「ハイキック!田上の足は29センチ!」何気ない攻防からディテールにすんなりつなげるのは見事。そして、小橋の左の太ももに言及、テーピングでぐるぐる巻きになっており、練習中に痛めたことを解説。

そして、序盤で一騒動が起こる。小橋が川田をロープからロープへ振ろうとする川田がふんばるが、ロープワークに振られた流れから、なんとエプロンで待機する三沢にフロントハイキックで攻撃!カットプレーもそれほど活発でない当時にしても、かなりイレギュラーな動きだ。

福澤アナ「オイオイオイオイオイ、川田利明、油断も隙もあったもんじゃあございません。エプロンサイドにいた三沢光晴を足蹴にいたしました!」
馬場さん「試合が始まってるんですからね。不覚だった…なんてことは許されませんよね。」

馬場さんの解説が思いのほか手厳しく、やはり馬場さんはガチ。インプレーということか。

ここでさらに、チャンピオンカーニバルにて川田の蹴りで三沢が左眼窩底骨折の重傷を負っていたことが明かされる。チャンピオンチームはそれぞれウィークポイントを抱えながらの防衛戦を余儀なくされているということだ。

三沢対川田のマッチアップから、川田が今度はエプロンで待機する小橋にも一撃を加える。
「スピンキック(を)かわした!今度は小橋にキックだ!獅子奮迅、一騎当千の川田利明!何するものぞ!」
から、さらにタメを作りながら独特の言い回しで間をつなぐ。
「試合は序盤戦から激しく熱視線がスパークしております。あっという間の5分間経過であります。初夏、燃焼宣言in日本武道館。'95スーパーパワーシリーズ最終戦であります。」

試合はさらに進み、場外に落ちた田上に、三沢が空中戦をめぐるフェイントから返す刀で川田を一蹴、場外の田上にエルボースイシーダを決める。タッチをかわして、小橋と川田に試合の権利が移る。負傷している太ももに川田がローキックを打ち続け、小橋がそれに耐える苦しい展開に。
「蹴り捨て御免の異名を持つ川田利明が、今宵もやはりお足にモノを言わせております。」
蹴り捨て御免という新たなパワーワードが登場。

ここから川田と田上が、2人がかりで小橋に徹底的に蹴りを浴びせ、実に苦しいローンバトルから、辛くも田上のニークラッシャーを逃れて小橋が三沢にタッチ。ロープワークのなか、一度はかわされたがエプロンサイドの川田をエルボーで攻撃し報復を達成するが、川田の逆襲を招く羽目に。

川田がコーナーに追い込んでダウンした状態の三沢の顔面に膝蹴り、ローキックを顔面に連発し、和田京平レフェリーの制止まで振り切って攻撃の手を(足を?)やめない。しかし、三沢も鬼気迫る様子で蹴りを食らったまま立ち上がり、今度は逆にエルボーバットを連発して逆襲。

ここで、加勢しようとした小橋を田上がその巨体を浮き上がらせ、背後の死角からの低空ドロップキックで負傷箇所を的確に打ち抜く。日大式の悪質殺人タックルのごとき破壊力(最近もどこかで見たような……)。さらに川田は三沢の顔面にステップキック連発するが、それも三沢はこらえる。痛みをこらえて救援に駆けつけた小橋に、田上が足掛けひざ砕きで痛めつける。

しかも、恐ろしいことにうつぶせに倒れた小橋の足に、喉輪落としの要領で三沢を投げつけるという衝撃の光景が!これを福澤アナは、「合理的!かつ、なんという非情なる攻め!」と評すや否や、川田がトップロープに上る様子に絶叫。「まさかっ、まさかっ、まさかぁぁっっー!」川田のダブルニードロップが炸裂して小橋は悶絶。たまらず場外にエスケープ。「超世代軍の若い衆がテーピング」とまたもやユニークな言い回しで、応急処置をしている様子を伝える。

田上は三沢をコーナーパッドに投げ捨て、ココナッツクラッシュ、ラリアット、投げ捨て式アトミックドロップと畳み掛ける猛攻。かわった川田もラリアットから、パワーボムにつなげる。リングに上がろうとする小橋をキックで排除し、場外で田上は小橋に鉄柵ニークラッシャー!

しかし、それでも不屈の闘志でめげない小橋はふたたびリングに侵入を果たし、田上をラリアットでダウンさせる。三沢をストレッチプラムに捕らえる川田に怒りの形相で迫る小橋に「この顔を見よ!復讐だ!復讐するはわれにあり!」と煽る。攻撃を加えるが川田もなかなか離さず、やがて川田と小橋はラリアットで相打ちに。

その後三沢はエルボー連発からジャンピングキックで小橋にやっとタッチ。小橋は川田に逆水平チョップを連打。だが、川田はなかなか倒れない。この様子を福澤アナは「打たれて光合成!打たれて光合成!上半身に力がみなぎる川田利明!」と、人間も光合成が可能であると主張。

さらにローキック打ち合いが展開され、足の痛みをこらえる小橋は袈裟斬りチョップの乱打で川田をついに打ち倒す。「ひとつ、またひとつと反撃を試みていきます。すでに柑橘系の汗をびっしょりとかいております小橋健太。」と、オレンジのタイツになぞらえてこちらも植物系の修飾語を汗につける斬新な言い回しで対の表現とする。

三沢と小橋の合体タイガードライバーなど連携攻撃が川田をとらえ、さらに三沢が切り揉み式の回転が美しいフライングラリアットも決め、エルボーを二人相手にうち、さらに川田にフェイスロック。小橋にスリーパーで捕獲されていた田上が小橋の豪腕を振りほどいて逃れ、川田を解放。

攻勢にさらされていた川田は三沢に急角度のバックドロップを決め、三沢の動きを止める。「デェーンジャラスバックドロップ!第一級!殺人!岩石落とし!」ここで30分経過。一方、小橋は田上に投げ捨てジャーマンを決めて、排除。

小橋は川田にムーンサルトプレスになかなかいけず、ミサワがボディスラムからダイビングボディプレス、さらにボディスラム、セントーンと手厚く援護。「ムゥゥーンサルトプレス!ジャストミィート!」福澤アナ、ここぞと得意の「ジャストミート」を叫ぶ!

さらに三沢は川田に投げ捨てジャーマン、続いてタイガースープレックスホールド。35分が経過。これも執念で川田がフォールを返す!「ツーカウント!お客さんの重低音ストンピング攻撃!後1秒、あと1秒、その1秒が永遠となり、その永遠の1秒をかけての果てしなき世界タッグ選手権試合。タイガードライバー!」

しかしここで、田上がカットに入ると戦況が一変。喉輪落とし、トップロープからの雪崩式喉輪落としが三沢に炸裂してしまう。さらに川田の大車輪キックが顔面を捉え、エプロンサイドで喉輪落としをめぐる攻防へ。一連のこの攻防すべてに小橋が救援に入るが、すべて川田にキックで妨害されてしまう。

とうとう後頭部に川田のラリアットの後押しを受けて、おそらく当時初めてのエプロンから場外への断崖式の喉輪落としが三沢に決まってしまう。「フリーフォール、フリーフォールか!危ない、危ない、危なぁぁぁぁいっ!フリーフォール式喉輪落とし!」断崖式という表現はまだなかったのか、自由落下という表現で的確に表現し、とにかく「危ない」を連呼しているのが印象的だ。そう、危なすぎる。馬場さんは「これは三沢の大きなダメージでしょうねぇ」と淡々。

場外ダウンの三沢を小橋がかばうが田上の容赦ないストンピングで排除で排除されてしまう。さらにリング上では三沢が川田のパワーボムをこらえる間、小橋が足にしがみつき阻止するものの、田上が小橋に喉輪落とし、川田が三沢にパワーボムを同時に炸裂。さらに川田が追い打ちのパワーボムを狙うが、三沢がリバーススープレックスで返す。

なおも三沢をかばい続け覆いかぶさる小橋が2人がかりのストンピングを受けるなど悲愴な展開に。聖鬼軍スペシャル'95―喉輪落としとバックドロップの合体技が凄まじい角度で決まる様子に「鬼…鬼だ!リングには今宵二人に鬼がいる!」とユニット名になぞらえて断言。これで小橋は完全に戦線離脱。

ジャンピングハイキックからのフォールを三沢が自力で返す様子には、
「馬場さん、何が三沢をこうさせるんですか?」
「そうですね ぼくも言いようがないですね」
「もう、科学や力学では判断ができない!未知の世界に突入しております。バァァァァックドロップ!もうだめだ、もうだめだ。2!?カウントは2!、カウントは2!(略)顔面蹴りぃぃっ!またもや左顔面に蹴り、グッドキック、グッドキック!。とことん技にこだわります。(とどめにパワーボムが決まる様子に)鬼だ、鬼だ、君は鬼だぁぁっ カウント3!カウント3!。新チャンピオン誕生、鬼っ、鬼がチャンピオンになりました!!」


凄まじい高揚感のなか、40分を超える熱闘に終止符が打たれた。試合の様子を臨場感たっぷりに伝える福澤朗アナがまるで隣りにいるかのようだった。感情の発露が良い感じで機能していて、まさしく名実況である。

 

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