馬車郎の私邸

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ビザンツ帝国史のブックガイド 初級編

5/29といえば、ビザンツ帝国(ビザンティン帝国、東ローマ帝国、ローマ帝国)の滅亡の日だ。565年が経ったことになる。去年はビザンツ帝国の最期から、興味を持ったきっかけを思い出すという論考を書いてみた。

さて、昨今京都大学においてビザンツ帝国に関する同好会が結成されたという話が、twitter上のビザンツクラスタの間で話題になっている。講談社選書メチエから『愛と欲望のナチズム 』を刊行した田野大輔氏の娘がビザサーの姫になっているとのツイート」に対し、慶應義塾大学出版会から『ユリアヌスの信仰世界
』を刊行している中西恭子氏は「娘さん、よっくきけよ、それはデンジャラスな道だよ」と警鐘を鳴らすツイートでリプライしている。


たしかに、ビザンツ帝国史を志すのは困難な道だ。たとえば、現代の論文を読む上で英語、ドイツ語に加え、古典文献を読む上でラテン語のみならず、年代によって違うギリシャ語を身につけ、あるいは研究対象によってはアラビア語、トルコ語なども必要になるだろう。しかも、そもそもの話として、あまりに戦争ばかりで生き抜くのに必死だったため、史料が少ない。

しかし、そうした困難のことは脇において、ビザンツ帝国に関心があるならば、まずはその歴史に触れてみてほしいと私は思う。何しろビザンツ帝国は歴史学において、あまりに軽視されている。デンジャラスな歴史をデンジャラスに歩んできたことさえよく知られておらず、そのデンジャラスな魅力に気づいている人は少ない。研究の余地は大きい。

あなたは、高校の世界史の教科書を読んで思わなかっただろうか?たとえば…
「何でこんなに続いた国がたった数ページしか記述されてないのか?」
「ローマ帝国は東西に分裂して西側が滅んだあと、何でその後1000年も東側が生き残ってるのか?」
「そもそも何でこんな長く存続しているのか?次々、蛮族やアラブ世界から軍勢が押し寄せてるんですけど!」
「ユスティニアヌス帝が全盛期と聞いたけど、1000年前後にまた領土がずいぶんと回復してるのはなぜ?」
「第4回十字軍に滅ぼされたはずなのに、何でまたしれっと復活してんの」
「ビットコインの仕組みを勉強してたら、ビザンチン将軍問題っていうのが出てたけど、将軍ってぶっちゃけどんな感じだったん?」
「美人コンテストで皇妃を決めてた時期があってほんと?」……疑問は、枚挙にいとまがない。

かくいう私はただの在野のアマチュアビザンツファンだ。歴史学について学術的な訓練を受け、それを生業とする人間ではない。だがビザンツ帝国を卒論に選ぶくらいには愛がある。私が卒業した、今は亡き第一文学部はなんとゼミがなかった。都の西北の大学に当時ビザンツ帝国を扱う教授はおらず、中世ドイツ史のJ教授が一応は指導教官だったが、なんと卒業論文は書くのにJ教授と1回しか会っていない。
私「(レジュメを見せて)章立てはこんな感じで行こうと考えてます。」
J教授「うん、なるほど。きみの言いたいことはわかった。」
私「???」
J教授「じゃ、締切までに書いてきてね。3万字以上で。」
私「あ、はい、わかりました…」

提出後、口頭試問では、
J教授「論文の体をなしてないね。けど、読みものとしてはまあまあかな。ビザンツって、意外と面白いね。ところでリーマンショックで大変だったと思うが、君、進路は。」
私「ワンブリッジ大学です。」
J教授「あそこの教授は確か…」
私「それが実はMBAのほうでして…」
~以下雑談~
J教授「じゃ、頑張ってね」といった具合である。
いったい何の口頭試問だったのだろうか。

卒業論文は「変貌遂げるビザンツ帝国―1000年を生き抜いた戦いの歴史」という遠大な構想を示すタイトルだった。大学院の修士論文は、M&Aに関して合併後に製造業と非製造業ではどのような違いがあるかという、一転して全く違う方向性へと行ってしまった。そして、サラリーマンとして生きるフィールドに証券会社を選んだ。だが、今でも私は歴史を趣味として楽しんでいる。

だから、単にビザンツ帝国に興味を持った方の入り口として5冊の本をご提示したいと思う。いずれも安価で入手しやすく、コンパクトでためになる本を選んだつもりだ。ご参考にしていただければ幸甚である。中級編、上級編もいずれご紹介したい。

・「ビザンツの国家と社会 」(山川出版社、世界史リブレット)2008/8/1根津 由喜夫
リブレットシリーズは、本文の上部に注釈や図版がついていて読みやすい。とにかく簡潔な記述が特徴と言えよう。

・「生き残った帝国ビザンティン」 (講談社学術文庫 1866)2008/3/10井上 浩一
まずは通史をしっかり標準的な本で学んでみよう。講談社現代新書で1980年代に刊行されたものだが、今なおスタンダードなビザンツ帝国史のバイブルと言えよう。史料から様々なエピソードが散りばめられていて、様々な論点から興味を掻き立てる一冊だ。

・「黄金のビザンティン帝国―文明の十字路の1100年」 (「知の再発見」双書) 単行本 – 1993/6/20
「知の再発見」双書シリーズはわずか1400円ながら、ほぼオールカラーでワンテーマを概観できるコスパ最強の単行本だ。オスマン帝国も合わせて読んでおきたい。記述はやや断片的だが、豊富に散りばめられたモザイク画や絵画がカラーで見ることができるのは嬉しい。

・ビザンツ帝国史 (白水社 文庫クセジュ) 単行本 – 2003/12/1
ポール ルメルル (著),、西村 六郎 (翻訳)
西欧の史家によるビザンツ帝国に対する見方が、たとえばどういうものかを知るための一冊。白水社 文庫クセジュはわずか1000円ちょっとで多岐にわたるマニアックなテーマについて学べる優れた新書シリーズだ。

・ビザンツ文明―キリスト教ローマ帝国の伝統と変容 (文庫クセジュ) 単行本 – 2009/7/1
ベルナール フリューザン (著), Bernard Flusin (原著), 大月 康弘 (翻訳)
同じく、文庫クセジュから。キリスト教や都市、芸術など文化の面からビザンツ帝国を論じた一冊。
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