学生の時懇意にしていた先輩とはこの点で折り合わなかった。曰く、徹底的にレベルを上げて圧倒的な力でボスを倒すことに快感を覚えるのだというのである。また、ときめきメモリアルのプレイの仕方についても、自分はと言うと一通りクリアしてあとは豊富なキャラクターソングを楽しむというものだ。しかし、先輩はと言うと、例えばGirl's sideでは氷室 零一先生を徹底的に攻略し、実に10週はしたというのだ(私も氷室先生好きだけどさ…!)。
さて、漫画「ダイの大冒険」は前述の先輩が言うようなレベル上げ的行為を巧みに揶揄しつつ、うまい具合にその脚本に織り込んでいる。主人公一行に「このようななぶり殺しのような真似をして楽しいのか」と問われた時、当然のごとく大魔王バーンは「楽しいね」としれっと答える。そして、「おまえたち人間は面白くはないのか?鍛え上げて身に付けた強大な力で弱者を思うようにあしらう時、気持ちよくはないのか?優越感を感じないのか?」と畳み掛ける。まさしく、言い得て妙だ。この台詞にさらに続けてその壮大な野望を理路整然と開陳していくのである。
自然な形で製作者の意図に沿いつつ素直にゲームを進めるのか、それともやりこんだ上で製作者の意図を出し抜いていこうという気概で望むのか、プレイする者の性格に起因する点も大きいと考えられる。しかし、両方に共通するのは上手く行ったという成功体験であり、それこそがRPGの、あるいはゲームの醍醐味であろう。
巧みな戦略で上手くボス戦を乗り切る充実感、徹底的な準備を積んだ上で確実な成果を出す達成感。どちらに優劣があるとも言うつもりはない。楽しみ方は人それぞれ、場合によりけりだ。それに、別にどちらも味わえばよいではないか。ただし、実生活に役立つのは後者の方であると考える。人生はできることなら、行き当たりばったりよりも、できることはやったうえで事に臨み、きっちりと備えて良い結果を手に入れるのが理想だろう。
織田信長は桶狭間の戦いで寡兵による奇襲によって今川義元を討ち取った。しかし、その後の基本的には奇策は用いていない。戦いにおいては相手を上回る戦力で臨み、また家臣への調略、切り崩し工作による事前の準備についても怠りがない。有名な長篠の戦いにおいても、武田勝頼の騎馬隊に対する馬防柵による対策が巷間流布されるところではあるのだが、1万5千の武田軍に対して、徳川軍の8千を含む3万8千の大軍で臨んでいるのである。
人生では致命的な失敗をした時セーブポイントからやり直すことはできない。しかし、小さな失敗であれば十分に次に活かすことも可能だ。入念な準備をした上で事に臨み致命的な失敗だけは避け、失敗したらトライアル・アンド・エラーとして対処するというのが折衷的で良いだろう。また、トーマス・エジソンが言うように「私は失敗したことがない。ただ、1万通りの、うまく行かない方法を見つけただけだ。」というのは、冒頭の"縛りプレイ"動画に挑戦する猛者たち、新製品や新薬開発をする研究者、難攻不落の顧客を開拓する営業マン等々は座右の銘とするとよかろう。
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