馬車郎の私邸

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ビットコインの今と行く末について

ビットコインの魅力は、まず大きな変動率(ボラティリティ)であろう。2017年の世界の株式市場は概ね堅調だったが、1日あたりの変動率はあまり高い印象はなかった。米国のS&P500指数の予想変動率を示すVIX指数(恐怖指数)は10ポイントを長期にわたり下回ることさえあった。株価の上昇は低金利環境と企業業績に基づくものであり、過熱感や興奮から程遠いという印象が強い。そんなまともな退屈な市場での取引よりも、更に刺激を求めて、値動きの大きな投機の対象を物色するのはある意味自然な流れではある。
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買うから上がる、上がるから買うのサイクルが歴史的な急騰を巻き起こし、仮想通貨の代表格であるビットコインの上昇はチューリップ・バブルを髣髴とさせるほどであった。とりわけ11~12月のの急騰急落の先物上場に伴う機関投資家参戦への思惑がひとつの山場となった。すなわち先物が上場されればETF(上場投資信託)の組成にもつながるかもしれない。そして、プロである機関投資家は個人投資家とは桁違いの資金が流入するとのストーリーだ。

シカゴ・オプション取引所の運営会社CBOEは米東部時間10日米国で初めてビットコイン先物を上場。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)は18日に先物取引を開始。しかし、先物が上場すると目先の好材料出尽くしとばかりに急反落を招き、22日には24時間で25%の下落などという日もあった。噂で買って事実で売るという格言を地で行った格好だ。

ビットコインのバブルははじけたのか?。いや、実はそもそもバブルですらないのだ。なぜなら、まっとうな投資指標が存在しないからだ。すなわち、価値を推測し、現在の価格は割高なのか、割安なのか判断することができないのである。したがって、バブル的な事象として捉えることはできても、バブルと言うことはできない。

一般的な資産クラス、たとえば株や債券、不動産の譲渡証書は将来の収入源を保有する権利を与える。そこから、対象資産の本質的価値について考えをめぐらし、現行価格がバブルかどうかを見極めることが可能だ。一方で、ビットコインや仮想通貨全般、さらに範囲を拡大しても、法定通貨全般は、将来のある時点でモノやサービスを買えるという以外に本質的価値はない。通貨の価値は、他の通貨や物品との交換における相対的なものだ。

時価総額を使用した比較も混乱を招く。仮想通貨の時価総額を調査するコインマーケットキャップ・ドット・コムによると、ビットコインの時価総額は11-12月の急騰で価格が2万ドルに迫っていたころ、2800億ドル(1ドル110円で31兆円くらいか)前後をつけていた。このことを囃して、シティグループやビザなど金融機関の時価総額、フィンランドやギリシャなどの中規模国のGDPを超えたとよく喧伝されたものだった。

株の場合は、企業の時価総額は株価で測定される。それはつまり将来の企業利益(もう少しお固く言うなら、配当割引モデルで将来の1株配当の割引現在価値)に対して投資家が支払っても構わないと考える価値だ。ビットコインは企業ではなく、利益はない。ましてや国でもない。法定通貨でもない。ビットコインとして取引されているのは、テクノロジーが描く夢に対する値札だ。より悪く言い換えると、他の取引参加者により高く売りつけられるのではないかという期待のこもった欲望のばば抜きだ。

したがって、ビットコインへの賭けは、度胸試しをしたい方は別として、本筋の投資としては避けるのが賢明だ。それには3つ理由がある。

第1の理由は、ビットコインは現状では通貨として存続し得ないからだ。通貨は安定した価値を維持する機能と交換に広く使われる媒体としての機能を持つが、最大の魅力である値動きの激しさ故に、ビットコインはどちらも満たすことはできない。消費者がドルを持ち、企業がそれを受け入れるのは、使うまでに購買力がさほど変わらないからだ。仮想通貨は、投機の対象である証券に近づけば近づくほど交換媒体に適さなくなる。

 また、仮想通貨には発行上限(設計上、ビットコインは2100万コインが上限)があるため、インフレにも対応できるという主張は、「イーサリアム」「リップル」「ライトコイン」通貨の(種類の)増加で根拠が弱まっている。

 第2の理由は、ビットコインは驚くほど大量の電力を消費しており、持続性に疑問があるためだ。ビットコインは取引を記録することによって新しいビットコインを生む(採掘、マイニング)が、それには複雑な計算が必要だ。それがビットコインを希少な存在にする一方で、基本的に無駄の多い計算というタスクを巨大サーバー群に負わせている。最近のある推計によると、たとえばデンマーク全体の消費量にほぼ匹敵するほどだ。

安い電気代により、ビットコイン採掘の約8割を占めていると言われる中国の規制の焦点は採掘活動に移っている状況だ。足元の(1月中旬の)下落はこの点を囃したものだが、ビットコインなどの仮想通貨の存続が危ぶまれる一方で、マイニングが不要な代替的なコインを模索し物色する動きも出てくるかもしれない。

3番目の理由は、ビットコインが主権国家や中央銀行、金融監督当局と衝突する方向にあることだ。たとえば、すでに韓国当局はビットコインの売買や新規仮想通貨公開(イニシャル・コイン・オファリング、ICO)を巡り、課税対象への追加や監督の強化、仮想通貨取引所の閉鎖といった措置を進めている。中国政府は昨年9月に新規仮想通貨公開(ICO)とビットコイン取引所を禁止した。前述の通り採掘活動の停止の方向にも動き出している。

新規仮想通貨公開(ICO)は一見すると、資金調達というスキームにおいて、株式市場における新規株式公開(IPO)に似ているかもしれないが、米国証券取引委員会(SEC)のジェイ・クレイトン委員長は、通貨と証券を混同しないよう投資家に警告している。「他者の起業家的または経営的努力に基づく利益の潜在性を強調する機能と販売努力が組み込まれたトークンやオファリングは、証券の特質を備え続ける」と述べたことは注目に値しよう。

また、米国証券取引委員会は現状ではETFの申請を却下しており、先物の上場だけでは、機関投資家の腰の入った買い持ち、すなわち"ガチホ”の大口資金は入ってこないだろう。

では、ビットコインを中心とした仮想通貨の台頭には良い面はないのだろうか。あるとすれば、それはビットコインの大相場は、それを支えるプラットフォームである「ブロックチェーン」技術への関心を引き付けている点だろう。仮想通貨の取引が記録されるのは、民間企業や政府が維持する中央集中型の台帳ではなく、ユーザーが共有する「ブロックチェーン」と呼ばれる分散型台帳だ。この技術は、将来のさまざまな取引に革命を起こす可能性を秘めており、既存の金融機関に変革を促す可能性がある。

資産の本質は何か、たとえば、通貨とはそもそも何なのか考える時に、ビットコインの事例は一つのいい題材になりえるだろう。また、金融の方向性についても様々な示唆がある。投資としては、とても人様にオススメできるではないが、値動きというのはそれだけでそもそも蠱惑的だ。腕に覚えがある方は、くれぐれもレバレッジはかけず、空売りはヘッジ以外では使わず、規制開始や流動性などの多大なリスクを覚悟の上で、高い取引手数料で売り買いしながら値動きを楽しむのは特段否定されるべきではなかろう。

その際は、株のように損益通算ができず、かつ儲かったとしても、所得税の総合課税において雑所得として最大で45%の税率(住民税込みだと55%)がかかる点は留意しておきたい。かと言って、儲かったビットコインを決済手段として買い物に使うたびに売却益を計算して、20万円以上になると確定申告の対象になるのも厄介な話ではある。

現実論として、当事者になるかどうかは別として、金融とテクノロジー、社会の行く末を見定める上でビットコインをめぐる事象は重要である。誰にとっても他人事ではないのだ。

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