さて、トランプ大統領の発言を気軽に楽しむには、まずはツイッターからだろう。4コマ漫画「ディルバート」の作者スコット・アダムス氏は、ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿した「トランプ氏のツイートに秘められた力」と題する論考で興味深い指摘をしている。つまり、トランプ大統領は意図的にツイートにユーモアを込め、滑稽さを出しているというのだ。
氏は、「もしあなたが大統領のツイートは怒りの反射的なはけ口にすぎないと思うなら、偉大なショーを見逃していることになる。」とさえ言う。そのうえで、「歴史家や説得の達人はこの先何百年にもわたり、この類いまれなるツイッター上のゲームを分析し、そのうち訓練で身につけたのはどの程度か、純粋な天性によるものはどの程度かを見極めようとするだろう。」と付け加える。トランプ大統領は不動産王としてひとかどの成功を収めた人物であり、自伝のタイトルは「The Art of the Deal(取引の技術)」というだけあって、その言葉はただの放言ではなく、何らかの狙いを持って放たれた言葉なのかもしれないのである。
スコット・アダムス氏は、トランプ大統領の良いツイートは説得術の手本となる珠玉の作品ばかりであり、トランプ氏は米国史上最もおかしな大統領だろうと述べる。ユーモアは非常に強力な説得の手段だ。おかしなことは記憶に残りやすく、ユーモアを通じて笑いを共有する相手との絆が生まれる。トランプ大統領のツイートの魅力は、落ちがあるような古臭いジョークのかたちではなく、われわれが共有する現実やその不適切な側面、そして批判勢力の顔面にパイをお見舞いするのを眺めるという(トランプ氏の支持者にとっての)痛快さだ。トランプ氏はリアリティー番組を経て大統領に上り詰めた人物であり、現代のユーモアを熟知している。トランプ氏が連発するニックネーム(「低エネルギーのジェブ(・ブッシュ元フロリダ州知事)」や「ロケット・マン(北朝鮮の金正恩氏を指す)」)がわかり易い例だろう。
さらにちょっとしたテクニックもツイートに組み込まれている。たとえば、「ジェミール・ヒルがマイクに向かうと、ESPN(ディズニー傘下のスポーツ専門チャンネル)の視聴率が落ち込むのはまあ当然だ。実際、あまりのひどさに業界はこの話で持ちきりだ!」たとえば、このツイートに対して「本当にそうなのかよ、間違ってるに決まってるじゃないか。」と考えた瞬間、あなたはトランプ大統領の術中にハマっているのだ。「少しだけ間違っている感じ」をあえて加えることにより、目をそらすことが難しくなり、その誤りがあなたの心に引っかかるのだ。こうしてトランプ大統領は決して度を越すことなくわずかな範囲で有効な「誤り」を巧みに操ってきた。そもそも、自身に批判的な著名人に対してツイッターで仕返しめいた発言をするのは、本来の大統領のあるべき姿から逸脱している。だからこそ面白みが増し、記憶にも残る。
また、ある前提条件を既成事実だと思い込ませることにも注意を払う必要がある。これは「客が買うかどうか決めていないのに、買うことは決定済みだと思い込ませる」よく知られた説得の技法だ。上記の例で言うとESPNの視聴率が本当に「業界の話題」となるほど下がっているのかが気になってくる。たとえそれが真実でなくてもその問題を考えるだけで、ヒル氏がESPNにとって迷惑だという最初の前提が成立している世界をイメージしてしまうことになる。
以上のように、歴史上を類を見ないほどユニークな大統領が矢継ぎ早に様々なコメントを繰り出すショーを展開しており、各国・各企業・各政治家が対応に追われている状況だ。単に現実の政治・経済・外交・軍事に与える影響を真剣に考えるだけでなく、こうした視点を持ってトランプ大統領の発言を考えてみると、今まで見えなかったものも見えてくるようになる。そう、まさしく"これは見もの”なのだ。
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