馬車郎の私邸

漫画、アニメ、ゲーム、音楽、将棋、プロレス観戦記など「趣味に係るエッセイ・感想・レビュー記事」をお届けします!ある市場関係者のWeb上の私邸

ウォール・ストリート・ジャーナルの3つの記事で読み解く米国・北朝鮮情勢緊迫化

前週8日に「北朝鮮が米国をこれ以上脅かせば、世界がこれまで目にしたことのないような炎と怒りに直面することになる」とトランプ米大統領が発言してから1週間が過ぎた。「炎と怒り」“fire and fury” が対句で、ともに4字で子音はfとrを使っていることから、レトリックとしてもなんとも印象的なフレーズだ。その後北朝鮮が「グアム基地ミサイル攻撃を計画」「日本列島ごときは一瞬で焦土化」、トランプ大統領は「米国の核兵器は史上最強」と煽り合い、今週になってややトーンダウンしてきたといったところだ。

(ミサイルを)撃つぞ撃つぞと言っているうちは、実際には撃たないだろうというのが、私の持論だ。そもそも撃つと予告して撃ったところで相手を警戒させるだけでメリットがないからである。ただし、そうは言っても、世界の、あるいは株式・債券・為替市場の関心事としての重要性はあるため、ウォール・ストリート・ジャーナルの3つの記事から、米国・北朝鮮情勢緊迫化についての受け止め方を紹介してみたい。日本のメディア報道よりも示唆に富む内容だ。

第1に、トランプ大統領の発言の意図について。
「炎と怒り」の危機:中朝で賭けに出たトランプ氏の記事で、アンドリュー・ブラウンWSJ中国担当コラムニストは、トランプ大統領は口調こそ激しくなっているが、用心深く慎重に行動していると見る。金正恩氏に対する"炎と怒り"発言による威嚇は、金氏を動揺させるだけでなく、中国を脅かして行動させる意図が多分にあったと分析している。また、中国の貿易慣行をめぐる調査は最長1年はかかるとみられており妥協の余地は十分にあるとの見方から、"炎と怒り"発言は中国との通商交渉を睨んだ発言でもあったというわけだ。

さらに、トランプ大統領がニクソン元大統領の「狂人の理論」を実践し、目の前で混乱を起こしかねないと中国の指導者に思い込ませようとしている思惑があるとの見方も紹介している。習氏は先週、トランプ氏との電話会談で「緊張を高めるような言動を慎む」よう訴えたのだそうだ。"暴言王"トランプ大統領の発言をいちいち額面通りに受け止める必要はないが、少なくともその意図については考える必要はあろう。

第2に、国防・国務長官の発言の意図について。
米朝緊迫、カギは国防・国務両長官のバランスでは、ジェラルド・F・サイブWSJチーフコメンテータは、ジム・マティス米国防長官の厳しい警告と、レックス・ティラーソン国務長官の事態の沈静化を図る発言の関係性を論じている。2人のメッセージは矛盾しているのかというと、答えはイエスでもあり、ノーでもある。2人は連携して、昔ながらの「良い警官と悪い警官」(役割を分担して交互に同情と脅迫を行うこと)のアプローチをとっているのである。つまり、政府当局者の話を借りるならば、「マティス国防長官が発している厳しいメッセージが嫌ならば、ティラーソン国務長官の発言をもっと注意深く聞く必要がある。」ということだ。ただし、ここでは2つの問題がある。

 第1の問題は、マティス、ティラーソンの両氏は連携しているが、トランプ大統領との間ではメッセージをすり合わせできていない点だ。2人はトランプ大統領がツイッターやアドリブで北朝鮮問題について何を言うのか、さらにはどのような調子で発言するのか、事前にはっきりとはつかめておらず、アフターフォローをする羽目になっている。トランプ大統領の発言が北朝鮮との相乗効果を生み、世界中に不安を引き起こし、北朝鮮有事の恐れが実際以上に大きく受け止められた可能性もあろう。

 第2の問題は、トランプ政権が外交の機会をどのような形で追求するのかがはっきりしていない点だ。すなわち、威嚇と外交を組み合わせる目標は何なのか。また、北朝鮮が国際的な圧力を逃れる道は「話し合い」を通じて開かれるとするならば、話し合いとは具体的には何なのか。2003年から08年まで北朝鮮と米国、韓国、日本、中国、ロシアの間で行われた6カ国協議の再開が目標となるのか。それとも、トランプ政権は北朝鮮との直接交渉を受け入れるのか。トランプ氏は3カ月前に、「条件が整えば」金正恩氏と喜んで会談すると発言している。いずれも方向性がはっきりしていない。

第3に、マーケットに対する示唆について。
北朝鮮問題、「炎と怒り」にも市場はどこ吹く風の記事では、「北朝鮮による計36回の核実験やミサイル発射実験の詳細を明らかにした翌営業日のS&P500種指数の下落率は平均0.4%だった」というヘッドラインの通り、米国市場はそもそも北朝鮮情勢をたいして気にしては来なかった。今回も、NYダウが小幅下落した日の下落幅の3分の2が、実は四半期決算を発表したディズニー株の下落だったということもあった。

戦争が起きる可能性が高まれば高まるほど、市場の反応は小さくなるとの極論の見方も紹介している。米国とソ連が核戦争寸前までいったキューバ危機の時、NYダウの1週間の下落率は1%に満たなかった事例は説得力がある。ただし、結果が「何も起こらない」と「世界的な核戦争」の二択ならば、株式を売却しても意味がないと言うのはさすがにどうかと思う(たとえば、ミサイルをばかすか撃ちまくるのならば、レイセオンとロッキード・マーチンは当初は上がるのではないか?それにそもそも、キャッシュポジションを取るのは重要な投資行動である。)

以上、ウォール・ストリート・ジャーナルから北朝鮮情勢に関する識者の見方、受け止め方を紹介してきた。ただし、日米の四半期決算が一巡した今、株式市場は北朝鮮情勢よりもむしろFRBやECBの金融政策の行方についての関心が深いと見るのが妥当だろう。8/24-26にはジャクソンホールの経済シンポジウムもある。しかし、日本市場は米国市場よりも北朝鮮情勢には敏感で脆弱であるから、北朝鮮が昨年9/9建国記念日に核実験を行った事実を軽視すべきではない。これをネタにした売り仕掛けやリスク回避の動きに用心しておくのが賢明だ。

また、相場の行末を考えるよりも、さらに日本人にとって重要なのは国防を考えることである。隣の国と同盟国が口喧嘩だけをしているうちは良いかもしれないが、隣の国が名指しで攻撃を公言していて、同盟国の軍事基地を擁する以上は、世界で最も真剣に国防のための対応を取らなければならない。隣の国がミサイルを何本も発射している中で、政策上の優先度が明らかに低い2つの学校について、野党が政権を攻撃せんがためだけに意図的に時間を割いて国会を空転させた事実は重い。
民間防衛ーあらゆる危険から身をまもる

原書房
売り上げランキング: 2,548
日米同盟のリアリズム (文春新書)
小川 和久
文藝春秋
売り上げランキング: 714
トランプ自伝―不動産王にビジネスを学ぶ (ちくま文庫)
ドナルド・J. トランプ トニー シュウォーツ
筑摩書房
売り上げランキング: 14,522
1日1分!ビジネス英語―「ウォール・ストリート・ジャーナル」速読術 (Non select)
Dow Jones Business English 和田 秀樹 (監修)
祥伝社
売り上げランキング: 678,172
ウォール・ストリート・ジャーナル式 経済英語がよくわかる本

毎日新聞社 (2014-11-26)
売り上げランキング: 158,682