私のラノベ遍歴と珠玉の13選―中学生になったらラノベを読むべし

今日は、30歳の誕生日。自分が今日あるのは読書のおかげと言っても過言ではないので、本のことを書こうと思う。こちらの記事にあるとおり、誤読を端緒にSF作家の「中学になったらラノベなんか読むな」が文脈を外れて盛り上がったということで、逆説的に中学になったらラノベを読むべし！とあえて述べてみたい。

書物に親しむきっかけとしてライトノベル（以下ラノベ）から始めるのは何も問題ない。私自身小学生の時アニメを見ていた「スレイヤーズ」や、ゲームの「ドラクエ」「MOTHER2」のノベライズで小説の面白さを知り、中学の時に家にあった中央公論社の日本文学全集を読破した。それでわかったのは、小説の面白さに小説の種類は全く関係がないということだった。その後は星新一のショートショート、野口悠紀雄の経済書、塩野七生の「ローマ人の物語」シリーズで歴史に歩を進め、その後はPHP文庫や知的生き方文庫などの実用書も……っといった具合に読書の範囲を拡大していった。

敷居の低いところから始め、書物の世界へ歩を進めるにはラノベはむしろふさわしいくらいだ。ラノベ文化の隆盛を考えると、何に需要があるのかは本屋の棚を見れば一目瞭然である。ただし、ラノベは例えて言うならお菓子であって、お菓子ばかりでは健康にはよろしくない。偏食は良くないのと同じである。ガンダムの富野由悠季監督もアニメを作りたいのならアニメ以外のものを体験せよと述べている。だから、良いお菓子は人生に彩りを与えてくれることをふまえたうえで、文学・小説や、実用書・学術書の類に歩を進めてほしく思う。

読書習慣は国語の授業に取り組む中高生にとって、実利になる。読むスピード、読解力、知識、考え方の材料、雑談の話題、教養、社会を知る……そのメリットは計り知れない。大学受験の評論文は硬めの新書から出題されることも多いので、読書に慣れたらブックオフで興味あるテーマの新書をかたっぱしから買い漁ると良いだろう。

さて、今回は中学生のみならず、あらゆる人を対象に、特に自分自身の読書経験と合わせてハズレなしの13作品を紹介する。いずれも商業的な成功を収めており、かついずれ劣らぬ名作ぞろいだ。私のラノベ「コンビクション・バイ」リスト、とりあげるシリーズのタイトルは以下の13作品だ。

スレイヤーズ
小説版　ドラゴンクエスト　シリーズ
涼宮ハルヒの憂鬱
 ゼロの使い魔
 俺の妹がこんなに可愛いわけがない
 とらドラ!
ベン・トー
 はたらく魔王さま!
とある魔術の禁書目録(インデックス)
ソードアート・オンライン
 学戦都市アスタリスク
 冴えない彼女の育てかた
 この素晴らしい世界に祝福を!

スレイヤーズ
富士見ファンタジア文庫、神坂一
まさに古典。芥川賞、直木賞と並び立つラノベの大賞を作るならそれはおそらく神坂賞であろう。アニメはコミカルさをふんだんに取り入れ、20年前という気があまりしない。本編は１５巻だが、１巻あたりが短いのですぐ読めるだろう。剣と魔法のファンタジーの血湧き肉躍る文体と、敵方の魔族の策謀サスペンスの二本立てだ。アニメはコメディ要素を取り入れていてまた違った楽しみ方ができよう。

小説版　ドラゴンクエスト　シリーズ　　エニックス文庫
1.2.3は高屋敷秀夫さんが書いており、格調高い重厚な文体で綴られている。冒険記風で硬質だ。一方で、4・5・6は久美沙織さんがオリジナリティもふんだんに取り入れた上で書いており、艶のある流麗な美文は声に出して読みたいほどだ。新潮文庫版のMOTHER2―ギーグの逆襲 (新潮文庫)も大胆なアレンジが施されていて、実に読ませる名作だ。(入手困難でプレミアが付いている……)

さて、ドラクエシリーズは"いわゆる"RPG的な"作品感の源流を知るために読んでおくと、後述の「この素晴らしい世界に祝福を！」など今時のラノベをもっと楽しめる。スマホアプリでドラクエはプレイできるし、この作品群も読んでおいて欲しい。5を特に推奨したい。

涼宮ハルヒの憂鬱　角川スニーカー文庫、谷川流
角川スニーカーらしいジュブナイル向け小説であると同時に、SF小説に馴染むにも適切な入口となろう。決してストーリーは派手ではないが、アニメは京都アニメーションの堅実な作品作りで一大センセーションを巻き起こした。10年ほど前の古典といった見られ方もするだろうが、一方で実は未完の作品でもある。徹底的な一人称体小説としても面白い。

ゼロの使い魔MF文庫J、ヤマグチノボル
ヤマグチノボル氏の無念の病死により未完になりそうなところ、まさかの続刊でめでたく完結を迎えることができた。ヤマグチノボル氏はときメモのSSからのしあがり、いわばネット発の小説家のはしりである。キケロがカエサルの文体を「裸体であり純粋である」と褒めたように、文体ということでは、簡潔明瞭でありながらも官能的であり、サイトとルイズのドキドキを余すところなく表現し尽くす。小説家を志す方は是非とも、文章作法という点からも通読を強く推奨する。簡潔な文体に見えても、「主人公は登場人物すべての女の子と恋せねばならない」とまで述べるヤマグチノボル氏のラブコメへの尋常ならざる愛がほとばしっている。

もちろんアニメも存分に面白い。繊細な心理描写においては原作小説に分があるが、声がつくといっそう破壊力が増すのだ。ラジオも幸せな気持ちになれる。→[日野聡]　ゼロラジ日野理恵動画総集編まとめ　[釘宮理恵]

俺の妹がこんなに可愛いわけがない 　電撃文庫、伏見つかさ
二次元文化についてあらためて考えさせてくれる作品だ。奇想天外なストーリー展開と台詞回しがなんとも楽しい作品。アニメももちろん面白い。
感想エッセイ↓
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第1巻、伏見つかさ、電撃文庫
 「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第2巻、伏見つかさ、電撃文庫
 「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第3巻、伏見つかさ、電撃文庫
 「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第4巻、伏見つかさ、電撃文庫
 「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第5巻、伏見つかさ、電撃文庫
 「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第6巻、伏見つかさ、電撃文庫
 「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第7巻、伏見つかさ、電撃文庫

とらドラ! 電撃文庫、竹宮ゆゆこ
現代的な恋愛小説であり、男女ともに推奨できる名作だ。13作品を掲げているが最初に読んで欲しいのはこの作品の１巻だ。10代の瑞々しい感性でぜひ読んで欲しく思う。若干文章はくどくて、ケレン味があるがそこがまた魅力である。生活感が漂った文章と見えよう。そこがまたリアリティを作品に与えていて、等身大の男女の息遣いが聞こえてくるようだ。少女漫画が好きな人にもおすすめしたい。
感想エッセイ↓
「とらドラ！」読了-名作少女漫画の読後感-
「とらドラ！」第1巻、竹宮ゆゆこ著、電撃文庫
 「とらドラ！」第2巻、竹宮ゆゆこ、電撃文庫
 「とらドラ！」第3巻、竹宮ゆゆこ、電撃文庫
 「とらドラ！」第4巻、竹宮ゆゆこ著、電撃文庫
 「とらドラ！」第5巻、竹宮ゆゆこ、電撃文庫
 「とらドラ！」第6巻、竹宮ゆゆこ、電撃文庫
 「とらドラ！」第7巻、竹宮ゆゆこ、電撃文庫

ベン・トー　集英社スーパーダッシュ文庫、アサウラ

時には数ページにまたがる弁当の描写、血湧き肉躍る"スーパー"での戦いの描写は、美味しそうなご飯と剣豪の戦いぶりの両輪はさながら池波正太郎の「剣客商売」を思わせるほどだ。スーパーの半額弁当をめぐり戦うという、斬新なアイデアを商業作品に結実させたという点を軸に読んでも面白い。そんなの小説になるのか？をアイデアを捨てないで頑張ると名作ができることもある。

はたらく魔王さま! 　電撃文庫、和ヶ原聡司
魔王と幹部が異世界からこちらの世界に逆召喚されてマクドナルドでバイトをしている……ありがちな発想の転換をするだけでも小説になる。本編はいささか冗長なきらいがあるが、キャラクターの生活そのものをネタにしてストーリーになっている点は面白い。

とある魔術の禁書目録(インデックス) 電撃文庫、鎌池和馬

今なお早いペースで続刊中。オカルトとSFを軸に溢れ出るアイデアの宝庫、無限に広がる風呂敷！まさしくセンス・オブ・ワンダーの塊だ。異能の力を無力化する右手を持っているだけで、恐るべき強敵に立ち向かい、基本的に徒手空拳で戦う主人公がかっこよい。「昨日の敵は今日の友」というかたちで味方が増える一方、敵もドンドン強くなりすぎていって、ハイパーインフレの極地。このくらい突っ切った作品は他にない。

ソードアート・オンライン 　電撃文庫、川原礫
アニメと小説とでまったく印象が異なる小説なので、ぜひ小説版をオススメしたい。アニメだとアクションというか、動きが当然目に入るわけだが、オンラインゲームの中での戦いということで、むしろ小説の描写は心理戦という印象が強い。作者が描きたいのは、ゲームの中で生きる、人の心であり、社会だ。AI、人工知能といったテーマも扱っており、単にストーリーを追うだけではなく、複数の読み方ができる奥行きのある作品だ。下記のある大学の講義の教材にもなっているとおり、この小説を読んで得た疑問は社会学、心理学への誘いにすらなりうるのだ。

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学戦都市アスタリスク 　MF文庫J、三屋咲ゆう
爽やかなバトルスポーツマンガだ。読むと清々しい気持ちになれる。敵もどちらかと言うと高潔な志を持った武人が多い(卑劣なやつがいないわけではないがだからこそ引き立つのだろう)、主人公と友人の思考回路がまさに剣士ということで、ちょっとした剣豪小説といったところか。ともに戦うバトルヒロインというのも私好みだ。

冴えない彼女の育てかた　富士見ファンタジア文庫、丸戸史明
ゲームライターの方が書いているので、業界ネタが多い。年代が上の人のほうが楽しめるかもしれない。限られた登場人物で話を展開する技量は流石だ。いずれのヒロインも魅力的で、女の情念、人間の妄執を描いていて、文章は、濃い。アニメのシリーズ構成と脚本も原作者が手がけており、スタッフと役者の丁寧な作品作りでヒロインたちがとてもかわいらしく魅力的に描かれている点にも注目だ。

この素晴らしい世界に祝福を! 　角川スニーカー文庫、暁なつめ
とにかく楽しいシーンが多いコメディ作品。さっぱり、明るい作風は万人向けだ。せっかく高いスペックを持っているのにとことん残念な性質を持っている仲間たちとの暮らしがなんとも面白い。定石外しの意外性を取り入れた会話劇は、アニメでは声優さんの好演でさらに色づいている。

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