馬車郎の私邸

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1848年ドイツ3月革命の、3つの国内的な要因と、国際的背景

 1840年代のドイツ諸地域では、関税同盟結成と 鉄道建設などに伴う経済活動の活発化が進み、諸地域は経済的な結びつきを深めていた。だが、その一方で革命勃発の背景や要因も存在していた。パリ2月革命が直接のきっかけとなり、1848年の革命として顕在化したのである。革命の背景と要因としては、大きく分けて国内的なものと、国際的なものがある。

 第一の国内的な要因は、大衆的窮乏(パウペリスムス)である。工業化の初期段階にあたる当時のドイツ地域において、これまでの政治・経済・社会的枠組みが解体しつつある一方で、それに変わる新たな枠組みがまだ形成されていない中で大衆的窮乏という社会問題が表れたのである。プロイセンの19世紀初頭の改革をきっかけとして、農村共同体を離れて社会的にも地域的にも流動化し始めた大量の労働貧民が、勤労諸階級の一部をなしていた。このころのドイツ地域の農業人口はいまだ約6割であり、工業化への過渡期であった。つまり、増加する人口をまだ工業が受け入れきれてなかった。社会の構造転換の中で、危機に直面していた手工業の労働者層は、革命期の都市における動きの社会的底流をなしていた。

 第二の国内的な要因は、農民に関わるものである。農民層は、脱封建化が進む東部では、自営農民と多数の農業労働者へと分化していた。逆にシュタンデスヘル、すなわち神聖ローマ帝国における伯・侯として領土を保持していたが、帝国解体に伴い陪臣化された貴族層の支配下にあった農民は、邦国の君主とシュタンデスヘルとの二重支配を受けていた。ゆえに、ヴュルテンベルクやバーデン、バイエルンなどのシュタンデスヘルの多かった地域で、農民運動が頻発することとなった。

 第三の国内的な要因は、1845年と46年の食糧の不作と結びついた経済危機があげられる。すなわち、食料価格高騰が購買力の低下をもたらし、さらに手工業の不振へ結びついたのである。1845年と46年の不作は深刻で、ライ麦、小麦、ジャガイモの価格が高騰した。だが、それにもかかわらず、大量の穀物やジャガイモは輸出され、酒の生産に使われ、価格急騰に乗じた投機が行われたため、ますます、民衆の生活は困窮することとなった。海外移民も増加し、チフスの流行もあった。しかも同時期に、海外発の金融恐慌がドイツにも波及し、ハンブルクやフランクフルトでは、商会や金融機関の破綻が相次いだ。このことは、重工業にも少なからぬ影響を与えた。こうした経済危機は社会的危機へと発展し、各地で暴動が次々に起こったのである。そしてそれは食料暴動であった。つまり、武装した民衆が地主や商人からジャガイモなどを略奪するのである。窮乏した手工業者に加え女性も加わっていた。暴動には結局軍隊が投入され、政府の物価高騰への無策にも反感が高まった。軍隊と政府への反感は、支配権力の正当性を根底から動揺させ、革命という社会と政治の転換を人々は期待するようになった。このように、経済的危機と社会的危機、政治的危機は連動し,革命の背景とも要因ともなっていたのである。

 国際的な背景もまた、大きく1848年の革命に影響している。例えば、市民層の政治参加への潮流、ナショナリズム、社会問題の激化、ウィーン体制の動揺、前述の経済危機などがある。もちろん、このことはドイツだけではなく、他のヨーロッパ諸国においても共通のものである。

 ドイツにおける大きな問題は"統一”である。実際の国境と概念的な民族の国境の不一致は、ドイツ人が多く住む地域をめぐり、周辺の他民族との衝突を生んだ。典型的なのは、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン問題である。他にも、ポーランドやチェコ人、イタリア人のナショナリズムとも軋轢を生んだ。また、スイスの動乱や、イタリア諸地域のオーストリアへの反抗もウィーン体制の動揺と、革命の機運の高まりに影響を与えた。ロンバルディア地域やヴェネツィアの反オーストリアの動きは、オーストリア軍を北イタリアに釘付けにし、最終的にオーストリア支配を破綻へ導いた。スイス動乱の背景にもなった。そのスイスの事態もまた、ウィーン体制の変革の必要と可能性を明らかにしたし、部分的ではあるが西南ドイツなどに波及し、自由と統一にむけての機運を盛り上げたであろう。

 このように、国内の経済・社会・政治的諸問題の連動と、国際上の出来事や情勢は相互に絡み合い、ひとつの歴史的状況を生み出したのである。背景と要因の集積は、きっかけを持った瞬間に、革命というものを顕在化させた。そして革命を勃発させると同時に、革命の動向の根底としても機能したのである。


参考文献:
「ドイツ近代史研究」坂井榮八郎、山川出版社
「近代ドイツの人口と経済」桜井健吾、ミネルヴァ書房
「世界歴史体系 ドイツ史2 1648年~1890年」成瀬治、山田欣吾、木村靖二編
山川出版社