馬車郎の私邸

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「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第8巻、伏見つかさ、電撃文庫

小説が巻数を積み重ね、人間関係が出来上がってきた時、構築された人間関係を揺らがす出来事があると、俄然面白くなってくる。これが長編の小説の醍醐味でもある。昨日9巻が出たのだが、それよりも先にまず8巻について一筆書いておこうと思う、これまでの感想と、8巻の公式あらすじは以下のとおり。

「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第1巻、伏見つかさ、電撃文庫
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第2巻、伏見つかさ、電撃文庫
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第3巻、伏見つかさ、電撃文庫
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第4巻、伏見つかさ、電撃文庫
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第5巻、伏見つかさ、電撃文庫
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第6巻、伏見つかさ、電撃文庫
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第7巻、伏見つかさ、電撃文庫

「私と付き合ってください」新たな局面を迎えた恋愛模様。
そして──
「きょうちゃん。────おこるよ?」
「貴様等、そこに並んで正座しろ!」
「恋人ができたそうですね、お兄さん?」
俺の全方位土下座外交が幕を開けた。
幼馴染みに三年ぶりのマジギレ予告をされたり、
あやせに火あぶりにされかけたり──
「五更日向です。──こっちは末っ子の珠希」
新たな登場人物も加わって高校生活最後の夏休みは毎日が大騒動だ。
そんなある日、黒猫が「運命の記述」と題された預言書を見せてきて……?


全体を通しての印象を一言で言うなら、場合によっては深刻な事態になりかねないと思っていたものの、いつものコメディを忘れずに謎を含んだままストーリーが展開していくのが意外で面白かった。 京介は黒猫とつきあうことになったわけだが、その背景には桐乃と麻奈実の思いがある。7巻の偽装彼氏騒動を経て複雑な思いを抱えながらも、友人と兄の恋路を応援することに表面上は徹している桐乃はなかなか新鮮だった。もっと早いうちにぼろが出るかと思っていたところ、意外とそうでもない。麻奈実は「――おこるよ?」と普段怒らない人間の伝家の宝刀をチラつかせることはしても、京介が黒猫とつきあうかどうかに悩んでいる際に、背中をあえて押してあげる優しさは、この人物の懐の深さを示している。当初動揺をいくらかは見せると思っていたが、これまた予想を裏切られた。いつものように菩薩のごとき慈愛と見ることもできようが、とはいえ、実際のところは自信と確信の現れなのかもしれない。

初めて彼氏が出来た京介の落ち着かない様子は最初は可愛いもんだけれども、その後の台詞の暴走ぶりがなんとも可笑しい。しかも、7巻の桐乃の彼氏騒動でダシに使われた御鏡のまさかの再登場により、会話のやりとりにとんでもない誤解(京介が桐乃と付き合い始めた)が加わり、さらにはそのままゲーム研究会に突入していくのだから、序盤からすさまじいカオス展開である。部長や瀬菜、真壁、御鏡それぞれが、京介と黒猫の関係についての認識にズレがあるので、ますます混沌になるばかり。

最初の100ページの時点ですでにはちゃめちゃなところが面白い。この他にも、正座、土下座を連続しているのだ。そのうえ京介はあやせに手錠をかけられて尋問される事態が続くのだから前半からラッシュの連続である。一連の京介の言葉に対してどの程度真に受けている部分があるのか、あやせの真意はこの巻でも、決定的にはまだわからないのは、いい感じにじらしていていいと思う。ところで、手錠が外される描写が見受けられないまま、京介があやせの家から帰ってしまったのは、筆者のミスか(笑)

お互いに自意識過剰な京介と黒猫の一連のデートは、ところどころ愉快なワンシーンが挿入されつつも、おおむね予想の範疇に収まり大きなサプライズはない……と思った矢先、いきなり黒猫がいなくなってしまう展開は、起承転結の「転」としてふさわしく、京介ならずとも驚きは隠せない。そして、ここでいつもの京介と桐乃の関係が逆転した場面が垣間見えたのはなかなか面白い。これまでの二人の関係の変遷があってこそ、映える名場面だ。

桐乃は黒猫に対して真相をただすべく詰め寄るも、途中から恥ずかしい秘密暴露合戦という驚愕展開に突入。色々とあるのだが、中でも見逃せないのは、7巻の偽装デートは、その口実がまるっきり桐乃の嘘だったことだろう。おいおいwこれはさすがに驚いた。ニコニコ大百科の原作での兄ラブ行動一覧というものが、一体誰が書いたのか、ある。偽装デートは偽装デートでなかったことを鑑みて、以下の項目を見てみると、相当ヤバいのではないか?
32.デートではちゃっかり兄を下の名前で呼んで赤面(7巻p13~14)
33.「彼氏になってよ」と告白して兄がドン引きしたら蒼白に。慌てて彼氏のフリのお願いにごまかす(7巻p16)
34.兄に演技で「愛しているから!」と言われて目を潤ませて恥じらう(7巻p22)
35.化粧品会社の女社長が監視に来るという話をでっち上げて、兄とのデートを強行(7巻p29)
36.腕を組んでラブラブなところを兄の幼なじみに見せつけて上機嫌(7巻p35)
37.兄とのデートで恋愛映画を見ようとする(7巻p37)
38.兄とのデートでカップル用のパフェやストローが二本付いたドリンクを頼もうとする(7巻p42)
39.兄とのデート中に割り込んできた友達に殺視線(7巻p48)
40.友達に兄が扮した彼氏の好きなところを聞かれて「優しい、頼りになる、あたしのことメチャクチャ好きなとこ」と惚気る(7巻p53~54)
41.カップル専用プリクラで兄と寄り添いツーショット撮影。フレームはノータイムでハートを選択(7巻p62~65)
42プリクラから出てきたところを目撃した親友に兄との親密さを見せつける(7巻p66~69)
43.「かわいい彼女を大切にね」と言われてもない兄への伝言を伝える(7巻p72)
44.ヤキモチでツーショットプリクラを兄に投げつけたが、その前に自分用を保管(7巻p75、87)
45.彼氏ができたかを兄が手を掴んで真剣に問いつめてくれたらたちまち上機嫌に(7巻p136)


話がそれたが、1~6巻までに兄が自分にしてくれたことと同様のことをしてあげようと思いながらも、7巻の最後で兄が陥ってしまった気持ち(独占欲?)に、桐乃もなっているというのはなんとも面白い。

「桐乃は京介に恋人にできることがイヤでイヤでたまらなくて、それでも私たちを復縁させるというわ。自分たちは兄妹で――逆の立場だったら、きっと兄もそうするだろうから、と。」前置きしたうえで、黒猫は京介に迫る。「桐乃の気持ちを知ってもなお、私を選んでくれるのか?」と。これほど決定的で露骨な問いかけの答えはどうなるのか?期待が高まったうえで、結局うやむやになってしまうのは、なんとも複雑な思いだ。京介にはばっちり答えてほしくもあり、その一方でうやむやであればまだまだこの作品の続きが読めるという安堵感もある。やれやれ…

結局、千の葉が舞い飛ぶ"狂気の街(マッドシティー)"すなわち松戸に、黒猫は引っ越すことになったので、転校はしても会うことはできるため、京介も桐乃も読者もひとまずほっとする。しかし、京介と黒猫は付き合いを解消したまま、うやむやが続き膠着状態に。最後に麻奈実が、さりげなく告白を織りまぜながら、京介、桐乃、黒猫の、状況と心情について意味深な発言をばしばしずばずば連発し、のちの展開に含みをもたせてるあたり、これからどうなるかわからない。まだまだこの作品も先が長いのかも知れない。アニメも2期、3期とやりそうな気がするので、続きが楽しみだ。