馬車郎の私邸

漫画、アニメ、ゲーム、音楽、将棋、プロレス観戦記など「趣味に係るエッセイ・感想・レビュー記事」をお届けします!ある市場関係者のWeb上の私邸

「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第7巻、伏見つかさ、電撃文庫

小説の展開というのは、たとえ予想通りであるとしても、期待と同等かそれ以上であれば十分に許容されるものでもある。6巻の最後で彼氏になってよという桐乃の言葉はやはり、彼氏のふりをしてよという意味合いであり、表紙の通り、京介は桐乃の彼氏役を演じるのだ。ここで、面白いのは実の兄が妹の彼氏役を演じるという点だ。他の漫画や小説の偽装カップルにはこんな事例は、自分が読んだ限りでは思いいたらない。「ママレード・ボーイ」の銀太と亜梨実のように、互いの想い人をあせらせるために、結託して偽装カップルを演じていたらいつしか本当のカップルになってしまった事例は、もちろん桐乃と京介の事例にはありえないのだけれども、 それと同じくらいに、腕を組んで歩いていると次々と友人に出会ってしまう有様は予想通りだが面白かった。あやせにおそらく遭遇すると予想したが、そうなるとお話的にはジ・エンドなので、やはり最初に遭遇したのは麻奈実であった。(しかし、麻奈実からあやせへと話は伝わり、京介は手錠をかけられて尋問を受ける羽目になるのだが)黒猫との遭遇は、驚く黒猫の様子がなんとも可愛くも面白い。桐乃は6巻での仕返しとばかりに京介とのただならぬ関係を示唆して、黒猫をからかう。麻奈実に遭遇した時も同じで、二人の有力な恋敵を大いにからかって気を良くしていることから、桐乃はガチで京介を好きなのではないかという疑いがいよいよ現実味を帯びてきた。とはいえ、この偽装でートで桐乃は京介にダメ出しをしまくりで、結局は仲互いにいたってしまう。「もういい、次からは本物の彼氏に頼むから」という桐乃の言葉は、出まかせの幼稚な嘘であることは明白だが、それでも京介同様疑心暗鬼にかられる。
登場人物間の関係が再整理、再構築、更新されていく中盤の展開は6巻の延長といった具合だが、同時に1巻の内容が1年前であることに、京介と同じく読者にとっても感慨深い思いがある。ずいぶんと人間関係が広がり、変化したものだ。特に、黒猫の京介に対する思いはより明白なものとなり、桐乃に本当に彼氏がいたとしたら、喜んでしまうかもと言ってのけるにいたって決定的となった。「あなたの妹が、あなたのことを好きな気持ちに、負けないくらい」、と以前は「同じくらい」と言っていた好きの程度が変化したことが、京介の耳に入ったら、さしもの京介もどうこたえるか態度の提示を迫られる事態だ。もはや、黒猫には桐乃に対する遠慮はないようだ。というのも、桐乃を見習って、自分の欲求に素直になろうと決めたと京介に向って宣言したのだから。もう後戻りのできないところまで、とうとう来てしまったというわけだ。感づいた桐乃は怒りをぶつけるが、もはやこの流れは止まらないのだろう。桐乃は、彼氏を家に連れてくる(もちろん偽装彼氏)が、京介は親父とともになんともいえない思いに苛まれる。空回りする感情をそのままぶつけにいくにたって、これまで数多の妹の危機を救ってきた兄貴のカッコよさはこの巻ではもう微塵も見られない。「桐乃と付き合いたいっていうなら、この俺に認めさせてみろ!俺よりもおまえのほうが桐乃を大切にしてやれるってことをな!」と、桐乃の彼氏役に啖呵を切ったはいいが、京介の自覚通りどうにもこのセリフも行動も冴えがない。したがって、「自分はっ!自分はっ!地味子とかっ……あの黒いのとかといちゃついてるくせに!勝手なことを言うな!」と桐乃に言われてむしろ当然で、頬を張られ、ケーキを顔面に投げつけられても、桐乃の言葉を待つしかないのだ。京介としても、読者としても。桐乃の言葉は断片的で要領を得ないもので、「もう……遅いよ……」とか、「あんたが……っ……!」といった具合で京介に気付いてほしかったことは何かは、明示的に示されてはいない。しかし、十分すぎるほどに暗示している。とうとうガチな展開が来るかと思いきや、読者と京介にとっては経緯は不明ながらも黒猫と桐乃はなんらかの話し合いを持ちひとまず和解したようで、ついに7巻の最後で黒猫は京介と二人で話す機会をもつ。そして告白する。「付き合ってください」で終わるなら、何らかの含みを持たせて8巻につなげることもできたのだろう。しかし、作者は意外な地の文を付け加えてしまっていた。
「この告白から数日後――
 俺と黒猫は恋人になった。」
展開を固定することで、逆に予想もつかない展開にするとは、作者の技巧もけっこうなものである。普通なら、告白した時点で幕引きにするところが、結果を先に教えて読者の好奇心を膨らませるとは、実に心憎い。もう、後戻りはできないところまできてしまった。麻奈実は泣き寝入りだろうが(なんと哀れな!京介はこの健気な幼馴染を本当に捨てるのか!?)、桐乃が黙って身を引く(?)とも思えず、展開は混沌としたものとなるだろう。第8巻の最初の1ページを繰る瞬間というのは、さぞかし蠱惑的なものに違いない。今から楽しみだ。
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