馬車郎の私邸

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「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」第4巻、伏見つかさ、電撃文庫

第7巻も発売していることだし、感想を急がねば(笑)

さて、第4巻は桐乃以外のキャラの存在感が増し始めている。冒頭の2巻から登場したあやせとの会話は、以前の経緯を知っているとなかなか面白い。また、他にも面白い会話の応酬が多い。京介が麻奈実を家に招いたことに、桐乃が反発。京介の幼馴染である麻奈実に、桐乃は露骨に嫉妬し、姑と見紛うばかりに八つ当たりする。ちょうど先日アニメの6話(3巻の序盤にあたる)が放送されたが、麻奈実の可愛さを再確認したところだ。だが、この健気な幼馴染に何たる仕打ち…!さらに、極めつけは京介に対するえげつないことこの上ない姦計である。
すなわち、京介が麻奈実を招き入れた瞬間、ノーパソにエロゲが起動しており、エロ本が散乱している…!げに恐ろしきは、妹の謀略である。ここまでやるか!バーニングハンマー川田の3冠パワーボムなみのエグさだ。

これですっかり、シリーズ始まって以来の絶望のどん底にたたき落とされた京介は、まさしく哀れというより他はない。桐乃が黒猫と沙織・バジーナとともにあの手こので京介を励まそうとするが、ことごとく妙なことになってしまう様子は読者にとっては楽しいけれども、京介にとっては大迷惑である。

しかし、それでも桐乃は勇気を振り絞って今までの感謝を京介に伝えるシーンは、京介ならずとも感無量…と言いたかったのだが、作者はこんな場面にとっておきのオチを用意していあ。すなわち、桐乃の感謝の証は、妹もののエロゲーという形で示されたのである…!ここぞというところで、豪快にぶつけてくる。作者のどや顔が目に浮かぶようだ…!

だが、これだけでは終わらない。桐乃の最後の人生相談は、一体どんなものかと、京介ともども読者が待ち構えてきたところで、またとんでもない展開を投げてくるとは、作者は生粋のエンターテイナーである。最後の人生相談は、発売日に深夜販売のエロゲーを買ってきてくれという、これまた超展開だ。

なんともあきれたのは京介も読者も同じであろう。なのに、本当の地獄はこれからだ…というべきか、これですっきり話が終わるわけではない。京介は友人の赤城の家に泊まるという名目で、深夜の秋葉原でエロゲ販売の列に並ぶが、そこで会ったのは何を隠そう友人である赤城その人だった…!

困惑のやり取りが続くが、ついに二人は互いになかったことにしようということに落ち着く。
「俺もお前も秋葉原なんかにゃ行かなかったし、深夜販売にも並ばなかった!」
「友情は見返りを―」
「―求めない!」
がしっ、固い握手をかわす俺たち。

嗚呼、美しき哉、男の友情。
だがしかし、次の瞬間!
「『ホモゲ部』を予約済みの方―こちらに列を作ってくださーい!」
「あっ、はーい」
「……ひいっ!?」
俺は人生最大の悪寒とともに、固く握手を交わしていた元親友の手を振り払った。なぜなら店員が持っているエロゲーの箱に描かれているのは、マッチョな男同士が固く抱き合っているイラスト。しかも、どこか俺に似ている気もする。

この後のテンポの良い会話の応酬は実に愉快に思える。赤城の妹は腐女子であり、兄を秋葉原に派遣せしめたという、京介と似たような境遇だったのだ。しかもその会話の中で、周りからは京介は赤城の彼氏であると大誤解される始末で、もはや収拾がつかないカオスな展開。この巻はシリーズ随一の面白さである。

しかし、それでも!それでもすんなり終わらない。シャアこと、クワトロ・バジーナ大尉の「まだだ、まだ終わらんよ」といった具合か。今度は、終電を逃してしまう京介。電話で桐乃と言葉を交わす中、悲しむ妹の声を聞いて、兄貴はルビコン川を渡るカエサルのごとき決断を下す。「ここを渡れば人間世界の悲惨、渡らなければわが破滅。 進もう、神々の待つところへ!我々を侮辱した敵の待つところへ! 賽は投げられた!」というわけだ(?)

京介の決断は、痛チャリに乗って帰るというもの。その所有者とのやり取りには、なんだかよくわからないかっこよさがある。この巻最大のハイライトだろう。深夜のラジオ会館前で雨が降りしきる中土下座とは…いくらなんでも、やりすぎだ!第4巻の魅力はあらゆるところで極端なところであろう。誰も彼もが(というか作者が)はっちゃけすぎである。

妹のために――!
必死に訴える京介も漢なら、それに答える痛チャリの所有者もまた、漢。どこぞのバトル漫画を彷彿とさせるような展開だ。”ここは俺が食い止める!俺にかまわずに先に行け”的な。ともあれ、屈指の名場面だ。地の文をほぼ除外して簡潔に引用する。

「フ―――よくわからないが、のっぴきならない事情があるんだな?それにアンタの妹が関わっている?」
「は、はい!」
「じゃあ、構わない。」
「え?」
「構わない、と言った。」
彼は愛おしげな手つきで愛車のサドルをなでた。それから、ひらりと片手を翻し、パンッ!とサドルを叩いた。
「こいつを貸してやる。遠慮なく乗って行け」
「い、いいんすか?」
「あ~~~~、なんだ、その紙袋の中身が、いま、ちらっと見えた。」低く真摯な声色で言う。
「何を隠そう、オレも同じゲームを買った。vol.1からずっと買い続け、今回も長いこと楽しみにしていた大好きなシリーズだ。ファンなら誰もがそうだろうが愛してるといってもいい。この日のために、バイトを辞める覚悟で休みを取った。定期預金も解約した。発売日にはこうして深夜販売に並び、買ったあとは、一秒たりとも無駄にはせず、たとえ世界が終わろうとも最後の一時まで命をかけて愉しむつもりだった。だから……オレは信じているのさ。このゲームが好きなヤツに断じて悪い奴はいないってな。そっちの事情は知らないが、オレ達は同志だ。水臭いことは言うなって。」不器用に微笑む口元からちらりと八重歯が覗いていた。
「……行けよ、兄弟。おまえにも、命を懸けてやらねばならんことがあるのだろう?」
「……あんたはどうするんだ?」
「気にしなくていい。想定外の事態だが、それならそれでやりようはある。」
彼は車道にドシンとあぐらをかき、リュックサックからA4サイズのノートパソコンと外付けバッテリーを取り出した。それらをあぐらの上に載せて、おもむろに起動させる。」
「ここでやるさ」
え――――
「何を驚くことがある。言っただろう、一秒たりとも無駄にするつもりはないと。ふっ、何一つ問題ないな。外でたしなむエロゲーというものもまた、おつなものであろうよ。」
すげえ。間違いない。こいつはオタクの中のオタクだ。
熱く萌える魂を持つ、真の漢だ。
「すまん、ありがとう。いつか必ず、この礼はする。」
「フン、何をグズグズしている。早く行け……行くんだっ!」


セリフの応酬が無意味なまでにかっこいい。わけのわからない感動がここにある。こうして京介は、妹にエロゲーを届けるために、秋葉原から千葉まで長躯32キロを駆けに駆けたのである。クセノフォンの「アナバシス―敵中横断6000キロ」なみに英雄的に思えてしまうのだからすごい。

めでたしめでたし…になればよいのだが、しかし作者はこれでも飽き足らず、さらに追撃の手を向けてくる。妹と一緒に妹もののエロゲーをプレイすることになるばかりでなく、「スカトロ*シスターズ?フッ、やつは我ら封印されグッズの中でも一番の小物」とか…とどめだ。恐るべし、伏見つかさ。

そして放つ最後の一撃は、「そうして俺の妹はいなくなった。」との簡潔な一文。超展開に次ぐ超展開ながらも、細部のディテールまでもがいちいち面白い4巻は、このシリーズの白眉である。