馬車郎の私邸

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「とらドラ!」第5巻、竹宮ゆゆこ、電撃文庫

「とらドラ!」第5巻は青春小説である。衝突と和解を描いたこの巻は、大河の父親をめぐって、竜児と実乃梨が極めて険悪な雰囲気になってしまう様子が衝撃的だ。母子家庭という境遇に生まれ育ち、風貌についてのコンプレックスから、内面は温厚で決して怒らない竜児。いつも明るく、楽しい冗談と奇矯な振る舞いで皆を楽しませる実乃梨。この2人が共通の友人の家庭問題を端緒に"キレ"てしまう事態は異様とも言えるものであり、さらに作者の具体的な描写と相まって、なおさら普段の2人の性格からの異常な乖離が際立たっている様子がうかがえる。加えて、実乃梨は主人公である竜司の思い人であるから、埋めがたい対立の溝は、それだけ事態の深刻さを増していて、読者の視点からものっぴきならない事態になってしまったと緊迫感がヒシヒシと感じ取れる。第4巻で二人の距離が急接近したというのに…

文化祭の様子はなんとも高校生らしくてちょっとした郷愁が思い出される。ただ、三十路の担任の陰謀により、出し物が学生プロレスになってしまったのは驚いた。また、大河がミスコン中に深刻な状況に陥るが、竜児が心の中で立ち上がってくれと祈るシーンは印象的だ。「おまえが選べるのは2つだけだ。そこでそのまま倒れ伏し、誰かが何とかしてくれるのを待つこと。(中略)それともうひとつ。自分の足で立ち上がり、転んだ傷も赤っ恥も抱えたまま、世間と感情の折り合いをつけ、ごまかしながらでも、どうにかこうにかやっていくこと、弱弱しくても、ヘタクソでも、痛くても、幾度も幾度も失敗しながら、それでもなんとか歩きだすこと。おまえは、なあ大河、どっちを選ぶんだ。」なんとも武骨で飾り気のない表現で、人生七転び八起きを語ったものである。だが、これもある種の人生の真実といえる。

クライマックスでは、口もきかなくなってしまった竜児と実乃梨の和解が、思いもよらぬ劇的な形で描かれる。手と手を取り合い二人でゴールし、共通の親友たる大河のもとに駆け寄るシーン。冗語を廃するというよりはむしろ、積極的に省略を多用した簡潔な言葉の連なりで、大河の目線から書かれている。文字がそのまま脳内の情景に一致する様は、具体的な描写にすぐれる筆者の本領発揮といったところだ。

竜司は実乃梨と見事に和解を遂げ、大河は北村と後夜祭でダンスを踊る。それぞれの想い人との距離が縮まったように思われめでたくハッピーエンド…と5巻は終わるが、人生はそうはうまくいかないものである。6巻以降の展開は、5巻のラストからは思いもよらない事態へと急変してしまう。だから、2度目に読むと5巻のラストはなんとも皮肉に感じる。だが、これもまた、人生の苦い味であり、「とらドラ!」が青春小説でもあるゆえんである。

 

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