馬車郎の私邸

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「桜姫華伝」第5巻、種村有菜、集英社

種村先生の馬力には昔から恐れ入るばかりである。今年も2話一挙掲載合計80ページをやってのけた。いつか、種村先生にはその仕事術と自由な発想力について、集英社新書から1冊刊行していただきたいと思う所存である。

さて、「桜姫華伝」の第5巻。桜姫の兄、槐(えんじゅ)率いる月の軍団と、桜姫を奪還せんと殴り込みをかけた青葉達の一党が、まったくもって少女漫画らしからぬ(笑)抗争を繰り広げている。確かに唐突感のある登場だった槐の仲間たちだが、闘いに際してそれぞれの過去について回想を交えて描写されており、これがなかなかに重い。

5巻では、白夜vs舞々、琥珀vs朱里の闘いが3話分収録されている。一つの戦いを2話で完結させているため、濃密だ。「殺ったと思ったが、殺っていなかった」を延々と繰り返す「BLEACH」とはずいぶん違う。(だが、そこがBLEACHの魅力であるとも思う)
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白夜と舞々の戦いは、きゃぴきゃぴ、縦ロールといういでたちの舞々(注:男)が圧倒的な強さで白夜を追い詰める。前巻で、舞々はなかなかとんでもない過去を暴露。生まれつき顔に傷があり醜く迫害を受けていたことはなるほど可哀相だ。

しかし、村も、唯一優しくしてくれた人も自分の都合のために見捨てる外道ぶりには唖然。決意の時の狂気の表情も印象に強く残る。そして、「美しさが僕のすべて」と酔いしれて居直るのだから(でもそうするしかなかったか)、とんでもない野郎である。しかし、逆襲に転じる白夜は、老婆の姿から突如若返り、桜姫しか使えぬはずの秘剣血桜を喚び出し、冷酷なまでに舞々をいたぶり続ける。謎も深まるばかりだが、なにより急展開に仰天。

この回は、種村先生の画力が、まさしく炸裂していて迫力があった。描かれる話が極端な演出と、明快な対比だったから、なおさら映えるのだ。おびえにおびえる舞々の表情は無惨を極めて悲惨であり、「美しさが僕のすべて」とうそぶいていたことも忘れて同情を禁じ得ないほどだった。それに対して、白夜は神々しいまでに美しく描かれているが、しかし哄笑とともになぶり殺しを行う残虐さに彩られている。「りぼん」史上最大の流血量(ただしHIGH SCOREは除く)という過剰なバイオレンスも作品のためなら堂々と描く種村先生には恐れ入るばかりである。とにかく、表情と勢いが燃え盛らんばかりの迫力だった。

ちなみに舞々の名は、好きだった「まい」の名前を重ねただけでなく、醜さゆえに呼ばれていた「でん(でんでん虫、の意)」の呼称からの"マイマイ"に由来しているという。種村先生は、命名は偶然と謙遜するが、それにしては出来すぎている。

琥珀と朱里の対決も、これまた表情がすごいことに。完全にバトル漫画のそれである。りぼんじゃねぇ(笑)2010071617030000二人の過去がキャラは可愛く、話は悲しく描かれていて、なんとも言葉にできないあわれさである。情報の非対称性と各人の人を思う心が招いた悲劇とまとめるのは、野暮だ。「笑顔は最大の武器」というのは、特別なセリフではないと思ったが、実は思いがけない伏線で、すこぶる驚いた。

本編3話だけでなく、50ページの読み切りが1編収録されている。増刊号で、驚きの二重オチに、楽しく読ませてもらった。種村先生の長所は、なんといってもダイナミックな展開である。驚愕と豪快さがいつも作品を彩っているので、読むたびに新鮮だ。

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